レベル235

「まさかアスカの実家で、あなたのような大物に出会えるとは思ってもみませんでしたわ」

「別にオレは大物なんかじゃない。それに今は卿なんて呼ばれる存在でもない、ただの冒険者クイーズですよ」

「ふふっ、ただの、ですか」


 なにか含みのある笑い方をしている。

 しかしその目は油断無くオレを捕らえて離さない。

 外の護衛の人達も急に殺気が溢れ始める。


 そしたらうちの護衛さんも気がたってくる。喧嘩にならなければいいが。


「いったい我が国に何のご用ですか?」

「そんなに警戒しなくてもいい。神秘の滝というダンジョンにメタル鉱石を取りに来ただけです」

「そこにはいったい何が居るのですか? 竜王が隠れ住んでいるのですか? それとも古代王国の亡霊でも集まっているのでしょうか?」


 えっ、そこってそんな危険な場所なの?

 なんかそんな噂とか伝説みたいなものが伝わっていたりするのでしょうか……

 アスカさんは何も言ってなかったのに。


「神秘の滝は清浄なる場所。かつて、亡霊や竜王が訪れたとは聞いたこともありません」


 だったらなぜそんな事を聞くの?


「あなた様が訪れる場所、そこでは強大なモンスターが居て、それにまつわる災厄が訪れると。そんな噂を聞きましてね」

「………………」


 ちょっと過去を振り返ってみる。

 うん、否定できない。

 いや、オレは巻き込まれただけですよ!


 とは言っても、知らない人から見たらオレが問題を起こしているようにしか見えないだろうなあ。


「あなた様にとって我が国は盗人猛々しいと思われているかも知れません。しかし、どうかお考え直してください。かのような事をしているのは一部の人間だけ、ここには無実の人間も大勢居るのです」


 かのような事をしている筆頭である私が言っても信じられないでしょうが。と言って深々と頭を下げる。


「ちょっ、ちょっと! 頭を上げてください! ほんとにそんな無茶な事をしに来たわけじゃないですから」

「最初はいつもそうなんだよね。それがなぜが大事に発展する」

「お前は黙ってろ!」


 オレは隣のカシュアの顎を押さえる。


「もご、もごご、ぢょど、なにずん……」


 そんなカシュアがオレにボディプレスをかましてくる。

 くっそオモッ!

 おめえ、また太ったな!


「女性に重いは禁句だよ?」

「おめえは女性じゃねえだろが!」

「……カシュアばかりずるい。私も乗る」


 ちょっとやめてくださいアポロさん。

 さすがに二人は厳しいッス。

 そんなオレ達をクスクスと笑う声が聞こえる。


「あ、ごめんなさい。ふふっ、どうやら私の取り越し苦労だったのかも知れませんね」


 そうですよ、オレほど人畜無害な存在はいませんよ?

 隣でよく言う。と呟くカシュアをつつく。

 ほんとこいつは一言多いな。


「ふう、気が緩んだらトイレに行きたくなりましたわ」


 でも、トイレはあの部屋の向こうなんですよね。と、アスカさん達が消えた扉を見つめる。

 そういえば結構経っているのになかなか出てこないな?

 何か立てこんだ話もでもしているのだろうか。


 ちょっと覗いてみましょうかって扉に手をかけるお姫様。


 いいのかな? まあお姫様が言うんだからいいんだろな。

 そうしてこっそりと開いた扉から見えたものは…………メタルスライム抱いて至福の表情をしている親子であった。

 ああ、スライム好きは血筋でしたか。


 ちょっとあの熊、きめえ顔してますよ。


 隣のお姫様が、とても貴重な顔を拝めましたわ。などと言って微笑んでいる。

 なんか喜んでいるみたいですが、大丈夫なのですか?

 えっなにがって? おしっこ。


「……思い出させないでくださいよ」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 結局、どうも隣のお姫様が怪しいので仕方なく乱入させてもらう事にした。

 お姫様は小走りで奥のトイレに行く。

 なんとか間に合ったようで良かったですね。


 で、日も暮れて帰ろうかとなった時、ふとオレの腰の剣を見て驚いた顔をする。


「あの……その腰に挿している剣は?」

「ああ、さすがに丸腰はどうかなと思って、ローゼマリアに見繕ってもらったんですよ」

「ローゼマリア? それはもしかして、不死王ローゼマリアの事ですか!?」


 ん、そういやあいつ王様だったっけ。

 不死王なんて呼ばれていたのか?

 やはり、本当にあの地を制覇されていたのですね。と呟く。


 冒険者が丸腰じゃかっこがつかないので、ローゼマリアが持っていた古代王国の名剣シリーズの中から、適当な物を見繕ってもらったのだ。

 まあ、ドラスレやホーリークラウンに比べれば丸腰も一緒だよね。


「比べるとこがおかしいと思いますけど……」

「それだって地上最高峰の一品ッス、確か名前は……」

「……邪王剣ネクロマンサー」


 ば~い、ハ○ソンかな?


「千年前、聖剣の担い手に討たれた、先代不死王が持っていた伝説の邪王剣」


 えっ、これそんなに凄い奴なの?

 アイツ、これが一番軽くて使いやすいんじゃって、随分軽い口調で貸してくれたぞ。

 先代不死王の剣って形見じゃないのかオイ。


 まあ、ローゼマリアの感情の起伏はよく分からない所もあるけどなあ。


 なんたって目が死んでる。死人なだけに。


「その剣は持つものによって重さや大きさが変わると言われています」


 実はこの国の王宮には邪王剣ネクロマンサーのレプリカ(国的には本物と言い張っている)があり、それを使いこなせたものこそが王となる資格をもつらしい。

 まあ、中身はやらせだそうですが。

 しかし、それじゃあコレ持って帰ったらベルスティアさんは王様になれるのかな?


 ちょっと触らせてもらっても? と言うのでどうぞとお渡しした。

 震える手で大事そうに剣をかかえるベルスティアさん。


「ほんとに軽い、まるで羽のよう……」


 そう言いながら鞘から剣を少し抜いた瞬間だった。

 突如ベルスティアさんを黒い影が覆いつくす!

 とたん、苦しげな声をあげてうずくまる。


 オレは急いで駆け寄ろうとしたのだが、突如舞い上がった黒い竜巻により吹き飛ばされる。

 壁に激突しそうになった瞬間、間にカシュアが入り込みオレを受け止めてくれた。


「すまない、助かった!」

「お安いご用だよ! しかし、やっぱり危険な剣だったんだね。アレは唯一、ボクが呪い解除できなかった奴だから」

「…………お前、なんでもっと早くに言わないの?」

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