レベル206

 朝起きて服を着替えていると、半透明な姿をした炎を纏った小鳥が、扉をすり抜けて私の部屋に入ってくる。


「あれ? 何処行ってたのホウオウちゃん」

『ん~、ちょっとね。不埒な輩をこらしめてきただけ』

「あんまりひどいことしちゃ駄目よ?」


 大丈夫、ちょっと脅しただけだから。って言いながら人型に姿を変えたホウオウちゃんは、冷蔵庫の扉を開けている。


『か~! 一仕事した後のアイスは旨い!』


 ホントに大丈夫かな?

 クイーズも、


「竜王クラスはレベルが上がりにくいはずなのに、結構なペースで上昇している。エンゲージリングだからまた違うのかな?」


 なんて言って首を傾げていた。


 ホウオウちゃんがアイスを食べ終わった後、私はお料理セットをカードに戻す。

 こないだ正式にクイーズからこのカードをもらい受けたんだよね。

 カフェの方はこいつに任せて、もっと一緒の時間を作ろう。なんて言って。


 ……だと言うのに、昨日も帰ってこなかった。


 アポロ達と一緒に夕方出て行ったきり何の連絡もない。

 ちょっと慌てた感じだから私も何も聞かなかったんだけど……

 せめて一言あってもいいと思うんだ。


『えっ、もう浮気? たとえ我等が神であろうとも、煉獄地獄を味あわせてあげる!』

「大丈夫、そういうんじゃないから」


 クイーズの周りには人がいっぱい集ってくるから仕方がないよね。

 うん、いつも賑やかだし、私も優しい気持ちになれる。

 そう思って気を取り直して立ち上がる。


「ようやく起きたか! こないだの演奏はとっても気持ちよかったぞよ! 次は何時やるのじゃっ」


 扉を空けるとローゼマリアが立っていた。

 もしかして一晩中そこに立っていたの?

 ちょっと怖いのでやめてくれないかな。


「怖いのはお互いさまじゃろ?」


 ………………そうだね。


 私は落ち込んだ表情で店の方へ歩いて行く。

 そこではもう開店準備をしている従業員達がすでに居た。


「みんな大丈夫? 最近、店の方に顔出せなくてゴメンネ」

「気にする事ないべ、最近は客も多くてやる気モリモリだべ!」

「店長は歌をうたうのが仕事ッス! それが一番の営業ッスから!」


 うん、私は従業員に恵まれてるよね。


『出でよ、お料理セット!』


 私はお料理セット呼び出し、料理人召喚のスキルを使う。

 すると髭を蓄えた紳士風の男性が現れる。


「それでは、今日もお願いしていいですか?」

「お任せあれ」


 優雅にお辞儀をしてその男性は、さっそくコーヒー豆の選別にとりかかる。

 さてと、お店の方はこれでいいとして、来週の準備をしなくちゃね。

 来週は始めて行く場所だから、なにかお土産でも買って行ったほうがいいかな?


「のうのう、ほんとに次は何時やるのじゃ?」


 街に買い物に出かけた私にローゼマリアがついてくる。


「来週、アンダーハイトという国で演奏を行う事になっているよ」

「ふむ、それは確か、こないだまで敵国であったと言ってた名前と似ておるな」


 似てると言うより、そのものなんだけどね。


「大丈夫なのか? そんなところで演奏して」

『私が居るのよ? エクサリーには指一本触れさしゃしねえわよ。それより自分の事心配したら?』

「ハッハッハ、わらわは不死者だぞ! 人間ごときに遅れはとらぬわっ」


 その時、ボッと言う音と共に私の後方で小さな炎が上がる。

 振り向くと、小さな虫のようなものが地面に落ちて燃えている。


『まったく、手加減してあげてれば、つけあがりやがって……』


 ブツブツ言いながらどこかへ飛んで行くホウオウちゃん。

 それから暫く歩いていると、突如、大勢の男性が私達を取り囲む。


「エクサリー卿でありますな。我等と共に来てもらいたい」

「なんじゃおぬし等は? さてはあれじゃな! わらわ達を誘拐して人質にしようと言うのじゃなっ! そうは問屋が……イダダダ、ヤメッ」


 即効お縄になっているローゼマリア。

 さっき人間ごときって言ってたのはなんだったのだろう?

 そしてその男達の手が私にも伸びようとしたとき、


『まったく……あのクソラビットも何考えてるのやら、こんなゴキブリ共は根元から根絶してやれば良いのに』


 炎の壁と共に巨大なホウオウちゃんが現れる。


「バカな! まだ合図がっ!?」

『ん~、もしかして、アレ一体しか出せないと思ってる?』


 そう言うと、ホウオウちゃんの体がいくつにも分身する。


『コレぐらいの大きさなら幾らでもだせるわよ~。本体になると別だけど、あんたらにゃそれを出す必要もないでしょ』


 次の瞬間、私達を囲んでいた不審者達が一斉に燃え上がる!


「ちょっ、ちょっとホウオウちゃん! ヤリスギッ!」

『大丈夫、大丈夫。ちゃんと加減してあげてるから、ほら、燃えてるのは装備品と……髪の毛ぐらい?』


 髪、燃やすのはやりすぎだと思うんだけど。


「アチッ、アチチチッ! おまっ、わらわまで燃えておるぞっ!」

『あら、ごめんあそばせ』

「おぬし、わざとじゃろうっ!」


 コレ、調整難しいのよぉ。ってホウオウちゃんが言っている。

 そんな事より火、消して上げたら?

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