レベル207

 これが……トップクラスの冒険者の実力なのか……!?

 オレは目の前に立つ男の背中を、呆然とした表情で眺める。

 その男の前には五つ首のミドルドラゴンだったものが横たわっている。


 今は全ての首を落とされ見る影もない。


「おおい! だから言ったろ! ムハクがやられちまったじゃないか!」

「何をそんなに慌てておる、やられたと言ってもカードに戻っただけだろう」

「いや、そうだけどさっ!」


 ムハクがやられた!? と思った瞬間、ミドルドラゴンの首が一つ飛ぶ。

 次の瞬間、幾つかの魔法が飛んできて、ミドルドラゴンの足元を凍らせていく。

 その後は男が一人で次々と首を落として行く。


 最後に無数の弾丸のようなものが胴体に突き刺さり爆発した。


 その間、僅か数十秒ほどの間。

 俺達では傷一つ付ける事が出来なかったというのに。

 いや、そんな事は後回しだ!


 ムハクは、ムハクはどうなった!? くっ、この剣聖の息子、ダイギリが付いていながら!


「ん? まあ傷も浅かったようだし、このペースなら10分もすれば出て来られるかな」

「無事なのか!? そうか……良かった……」


 俺はその場に崩れ落ちる。

 その俺の目の前にペンテグラム師が立つ。

 そうか、俺達は今までこの人達に助けられていたのか……


 ダンジョンに入って始めて戦ったとき、即効で全滅しそうなぐらい追い詰められた。


 これはダメだ、引き返そうかと思ったところ、二戦目以降はそんなに苦労せずに倒す事が出来た。

 今思えば、なぜか体に傷がついていたり、急に動きが悪くなる奴がいたりしたのは、ペンテグラム師などが力を貸してくれていたのだろう。


「反省はしているか?」

「はい……」

「二度目はない、次は助けぬからな、己の技量を決して過信するな」


 そう言われてうな垂れる。

 これは、完全に俺の判断ミスだった。

 やれるからやる。じゃない、初戦にダメだと思ったら引き返すべきだった。


 なにせ、ボスともなれば初戦より強いのは当然の事。


 一階層目ぐらいなら、と思った俺の大間違いであった。

 それにしても……あの五つ首のミドルドラゴンはヤマタノオロチと言われるSランクのドラゴンの幼生体。

 それをあんな一瞬で切り裂くだなんて……


 父上との一騎打ち、始まった途端、背中を見せて逃げ出して、なんて臆病者なんだと思っていたが……逃げ出さなくても十分にやりあえたはず。

 いや、今ならなぜ壁際に走り寄ったか分からない事も無い。

 このダンジョンに潜って、気づいた事がある。


 剣士と冒険者では、まったく違った戦いになるのだと。


 モンスター相手に一騎打ちなどありえない。

 仮にありえたとしても相手は人間の力など赤子のような化け物ばかり。

 真面目に打ち合うなど、大バカのやる事だ。


 俺は強い、少なくともそこらの大人よりも技量はもっている。


 ムハクと比べても、遥かに上にいると自負していた。

 だが、実際このダンジョンで活躍したのはムハクのほうだ。


 俺がなんとか一匹を切り伏せている間に、ムハクはレリン達の協力を得て片っ端から片付けて行く。


 決して一人で戦おうとはしない。

 仲間と共に、地形も利用して、力を合わせて戦おうとしていた。

 それに引き換え、俺はどうだ?


 俺はただ、剣を振るしか能が無かった。


「師よ……剣士とは現実にはこんなにも役立たずなのですか?」

「それは違う、剣士と冒険者、それぞれに違う役目、違う仕事を持つ」


 剣士とは、人と人との争いを鎮めるもの。

 冒険者とは、モンスターから人を守るもの。

 その戦い方も、心構えも違う。


「剣士として有能であったとしても、冒険者としても有能であるとは限らない。技術は近くとも、それはまったくの別物であるからだ」


 ただし、どちらも有能である、奴が居ない事もないのだがな。と、とある人物を見つめるペンテグラム師。

 俺もそちらの方へ目を向ける。

 アレが俺の目指す姿なのか?


「さてどうかな? 二兎を追う者は一兎をも得ず、お前は一体、この先何がしたい?」


 俺が目指したものは父上のような立派な剣士。

 決してダンジョンに篭ってモンスターを倒す仕事ではない。

 だがっ、俺の剣で守れるものがあるのなら、人からもモンスターからも守りたい!


「ふむ、良い目をするようになったな。まあ今は悩め、悩みの無い人生を送っている奴ほど、薄っぺらい剣はない」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「アクアの奴が、チラチラ後ろを見てたから居るんだろうなとは思ってたけど、もっと早くに出てきてくれよ!」


 いや、オレもそうしようとは思っていたのよ?

 でもペンテグラムが止めるのよ。

 ハーモアがプリプリした表情でそう言ってくる。


「まあ、おさえてハーちゃん。そのおかげで私達のレベルも上がったんだから」


 レリンちゃんはええ子やなあ。

 ……出来れば伝えたくないなぁ。


 最後のボスモンスターを倒したとき、レリンとサウが、ぎりぎり20レベルに届いた。


 子供達だけで、結構頑張ってボスモンスターにダメージを与えていたおかげだろう。

 で、ここで問題が発生した。

 レリンちゃんにスキルが生えたのですよ。


 えっ、何が問題だって?

 いやあ、それがですね、生えたスキルが、


「器用貧乏……?」


 あ~、まあなんていうか、悪い事じゃないよね?


「えっと、これ変えられないの?」


 それがですねえ、タップしても候補が出なくなっていてですねえ。

 なんていうか、それで固定されてしまったご様子で。


「ええ……」

「ケケッ、レリンにピッタリだナ」

「落ち込むなよ、いいじゃねえか器用。なんでも出来るって事だろ」


「貧乏はいらないよぉ……」

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