レベル157 ホーリーノヴァ
カシュアが何か言いたそうな顔でこっちを見てくる。
良かったな。いっぱい経験値が稼げてウハウハじゃねえか。
「え~」
え~言うな。お前がやるって言ったんだろ?
「もちろん一度でとは言いません。出来るとこからで構いませんので、少しでも王国の民を救っては頂けませんでしょうか」
「……分かったよ! ボクだって男だ、一度言った事には責任を持とうではないか!」
今は女だけどな。
まあ、カシュア以外も聖剣を扱えるなら皆で回せばそれほどもかからないだろう。
しかしあれだな、なんと言うか、地獄の釜と言うか……アンデットが100万とか集ったら、もうまさしくこの世の地獄である。
至る所で苦しそうな呻き声を上げながら、崩れた顔を地面に押し付けている奴が居る。
喉元をひたすら掻き毟りながら血涙を流している。
生まれたばかりの赤子が、泣きながら這いずって両手を差し伸べてくる。
「ちょっとこの中に入って行くのは勇気がいるよな」
実は少々足が震えております。
こっちの世界へ来て、魔都サンムーンで散々アンデットを見て耐性が付いていたと思っていたが、これは恐ろしどころの騒ぎじゃない。
この先、夢に出なければいいが……
だが、カシュアは平気な顔でアンデット達へ近づいていく。怖くないのか?
「ボクは恐怖には耐性があるからね! 昔の危機察知・極の恐怖に比べれば、これぐらい大した事は無いよ!」
そんなカシュアにアンデットの一体がしがみついて来る。
「苦しいのかい? もう大丈夫だ! ボクに任せてくれたまえ、君をあるべき所へ還してあげよう!」
そう言って頭に手を当てる。
聖剣も抜いていないのに、そのアンデットは光の粒となって空へ舞い上がって行く。
それを見た他のアンデットも次々とカシュアに殺到してくる。
「もう少しの辛抱だ。必ずボクが君達を救ってみせようじゃないか」
そう言って損傷が激しい部位をさする。
すると、そのアンデットが一瞬美しい女性に変わり、パァッと弾ける様に消えていく。
カシュアは、その殺到するアンデット一人一人に声を掛けて、傷をさすり、頭を撫で、嫌がるそぶり一つ見せることなく浄化していく。
「……あいつ、聖剣も無しにあんな芸当が出来たのか」
「スキルの熟練度でも上がったのでしょうか?」
そのうち、カシュアを中心とした輪が出来上がっていく。
いつの間にか随分奥まで移動している。
カシュアを取り囲んだアンデット達は、神に祈るが様にカシュアに向かって手を合わせている。
それは、聖人が人々を救う絵画の一場面のようだ。
「彼女は神の御使いなのでしょうか? まるで慈愛に満ち溢れた聖女のようです」
どうだろな。元々あいつは人が良い所があるのは確かだ。
ちょっと調子に乗りやすいところはあるが、誰かの為に労力を使うことを厭わない。
なんだかんだ言っても、頼めば大概はやってくれる。
いざという時は結構頼りになったりもする。
本物の女なら惚れていてもおかしくないくらいだ。スタイルもいいしな!
「さあいくよ、聖剣ホーリークラウンよ! 今こそ、その真価を発揮させようではないか!」
そう言うと盾から抜いた聖剣を地面に突き刺す。
その聖剣を中心に、虹色のスピリットサークルが広がっていく。
カシュアを中心とした、その円形のサークルに呑まれたアンデット達が、次々と虹色の色彩をまとって光の粒と成り空へと舞い上がって行く。
それはまるで、前世で見た、ゲームの中のような幻想的な景色であった。
「ああ……素晴らしい! 今代の聖剣の聖女は、なんと神々しいのでしょうか!」
隣にいる美女は感無量で涙すら流している。
「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます! 彼女はただ、魂を浄化させるだけでなく、その心までも救ってくれているようです」
「あいつもやれば出来るんだな……」
ふとカシュアのカードを見てみる。
結構な数を浄化させたはずだかレベルは一つしか上がっていない。
「戦闘していませんから経験値は微々たる物でしょうね。しかし、これにはレベルには代えられない価値があると思います」
「そうだな。ん、なんか備考欄に文字が増えているな?」
よくよく見てみると、備考欄にホーリーノヴァという文字が追加されている。
何だコレ? 必殺技でも覚えたのか?
「おいカシュア、なんか、ホーリーノヴァとかいう必殺技を覚えた様だぞ」
「それは本当かね! 良し!」
あっ、なんかやな予感がして来た。
カシュアが聖剣を掲げて思いっきり力を溜めている。
おい、ちょっと待て、始めて使うんだからお試しで弱いのにしとけ!
なんていうオレの思いを他所に、全力で地面に剣を叩き付ける。
『ホーリーノヴァ・ウルトラバーストォォオオオオ!』
その瞬間、オレの視界は真っ白になった。
ああ、あいつ、お人よしで頼りに成るのはいいんだが、調子に乗りやすいのが玉に瑕なんだよなあ……
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