レベル158

 気が付いたらラピスに抱え込まれていた。


 そのラピス、なにやら先ほどまでと服装が変わっている。

 レオタードにタキシードを羽織って、頭にはウサ耳のシルクハット。

 あ、これはあれだ、スーパースターのグラフィックだ。


「あのくそバカシュア、色々試そうと思ってたことが全てパアじゃないですか!」


 何を試そうとしてたの?

 うん、怖いから聞かないでおく。

 ふと見ると、頭上には星空が瞬いている。


「何が起こったんだ?」


 どうやらカシュアを中心に魔力の爆発が起こったらしい。

 その爆発は、アンデットを一掃したどころか、洞窟を崩壊させ、地形をも変えたと言う。

 良く見ると、地面がボコボコで、そこら中にヒビ割れが覗いている。


 ラピスは一瞬で危険だと判断し、クリスタルカードでスーパースターにクラスチェンジ。

 スキル『テンカウント』を駆使して螺旋階段を駆け上がり、洞窟を脱出したそうな。


「再召喚が可能になったら折檻です!」


 そのラピスが持ってるカシュアのカード、名前の下にマックスの赤ゲージ。


「なに、生き埋めにでもなったのか?」

「いえ、どうやら……ヒットポイントまで使って必殺技を繰り出したようです」


 気合、溜め過ぎだろ?

 なんでこんなとこで、全生命力まで使って全力だしてるの?

 バカなのか? これぞまさしく、馬鹿なの? 死ぬの? って奴だな。


 というか、ラピスの機転がなければオレまでお陀仏だっただろ!


 なにやってんだほんとに、ちょっと見直したとたんコレだ。

 まあ、オレがあの場面で必殺技の事を伝えたのも悪かったんだろうが……


「ところでやはりそのスキル『テンカウント』は時を止める系だったのか?」

「いえ、このスキルは10秒以内の未来に跳ぶ事が出来るスキルでした」

「は?」


 スキル、テンカウントの性能は、10秒先までの未来が視え、その好きな時点に移動することが出来るらしい。


「未来跳躍……!?」

「そういう事ですね」


 すさまじいなおい!

 えっ、しかもクールタイム無しの連続使用が可能だって!?

 それ、好きな未来に行けるも同意語じゃねえか。


「10秒ずつという制限はありますけどね」

「いやいや十分だろ」


 さすがスーパースター! 未来を先取り! って奴ですね。


「エンペラーの時も思いましたが……上級職は、とんでもないポテンシャルを秘めていますね」

「上級って名の付くだけのことはあるって事か」


 とにかく、そのスキルで10秒後の未来を視ながら、スーパースターのスピードを持って螺旋階段を駆け上がって地上に出たとの事だ。


「カシュアの未来予見に瞬間移動を合わせた感じだな」

「移動と言っても場所は変わらないので、使いどころは難しいですけどね」


 ただそれを使えば、敵の攻撃を未来跳躍でかわし、攻撃終了後の未来に移動し反撃が可能だという事に成る。

 相手からすれば10秒間、この世界に存在しなくなるので攻撃のしようもない。

 熟練度が上がればイレブンカウント、ハンドレッドカウントとか上限も上がっていかないかな?


「命名のスキルも捨てがたいのですよね。何せ人を思うがままに操ることが出来るのですから」


 だから怖いんだよ。


 そんなスキル持ってる奴は大抵悪役だぞ?

 えっ、悪役結構? 物語では悪役はやられ役だが、現実では支配者のほとんどは悪役だって?

 だったら支配者にならなきゃいい話だ。


 オレは悪い支配者より、良い村人でいたいんだよ。


「お坊ちゃまにはハングリー精神がたりませんね」

「いらないからそんなハングリー」


「ご、ご無事でしたか!?」


 そこへ霊の美女が地面から浮き上がってきた。


「私のスキルで脱出させようと思ったのですが……この私が認識する間もなく移動するなんて、やはり、今代の担い手様方は途方もない力の持ち主なのですね」


 えっ、カシュアはどこ行ったかって?

 ちょっと休憩している。

 この様子なら後、二時間ぐらいしたら戻って来られるんじゃないか。


「いったいどこに行っているというのでしょうか? この地なら私に察知出来ない場所はないはずなんですが……」

「企業秘密です」


 便利だな企業秘密。

 ははぁ……たった三人でここに来るだけの事はありますね。って何やら感心している。

 しかしこのお嬢さん、あのカシュアの必殺技を食らって平気でいるのか?


「平気、とはいきません。あの時、気を抜いていれば私も持っていかれたでしょう。しかし、私には貴方様方を無事に送り返す使命がありましたので」


 そう言ってニコリと笑う。


 オレ達の為に残ってくれたのか? アンデットなのにいい人だなあ。

 そう言えば良く見てみれば、なんだか少し透き通って向こうの背景が透けて見える。

 結構なダメージを食らってはいるようだ。


 そんなお嬢さんにラピスがステッキを掲げてみせる。


「このステッキにも霊体を浄化させる性能がついています。どうしますか?」

「…………聖剣の聖女様にばかり負担を掛けさす訳にもまいりませんしね。ぜひ、お願いいたします」


 別に剣振っているだけだから負担には……ふむ、なんだか悲しそうに見えた?

 ……感情移入しすぎたのかもな。

 むやみに明るく振舞っている奴は感受性が強いと言う。


 特にカシュアなんて幼少から兄弟に命を狙われ続けたんだ。

 いつも明るく振舞っているが、その心には闇が潜んでいるのかもしれない。

 仕方ない、今回の事は水に流して、折檻は取りやめにしてやるか。

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