レベル156

 カシュアが、戻って来た聖剣を抱き締めてキスをする。

 キメェから止めろ!

 益々聖剣に嫌われるぞ?


「さてと、それではカシュアのレベル上げと行きましょうか。少々敵のレベルは高いですが聖剣の敵ではないようですしね」

「当たらなければどうという事も無い。なんて言う変態が現れない限り大丈夫だね!」


 おいバカ止めろ、変なフラグを立てるんじゃない。

 ほんとにそんな変態が現れたらどうしてくれる!

 と、思った時だった。


 突如、上空に黒い渦巻きが現れた! フラグ回収早いな。


「時空魔法か!?」

「時空魔法を使うアンデット!? 明らかに上位種ですね……」

「お前があんな事言うからだぞ!」


「ええっ、ボクの所為なの?」


 その黒い渦から人型の何かが現れる。

 そこから現れたのは、真っ黒なドレス、真っ黒な長い髪を携えた、一人の美しい女性であった。


「人間……なのか?」

「アンデット…には見えませんが……古代王国では、如何に死体を腐食させないかといった技術を研鑽していたと聞きます。人間そっくりのアンデットがいても不思議ではありません」

「え~と、敵、なんだよね?」


 カシュアが聖剣と盾を構える。

 人型の上位アンデットと言えば、リッチかバンパイアか……

 今のカシュアで勝てるだろうか?


「どう思うラピス?」

「実はスカウターの熟練度が上がったのか、モンスターのレベル表示がされるようになったんですよね」


 ほうほう。


「それによりますと、リッチロード、レベル92、スキル時空魔法・極と表示されています」

「うん、逃げようか」


 幾らなんでもダブルスコアは無いだろう。


 レベルが倍以上離されていたら、たとえ聖剣を持ってしても勝てはしない。

 つーか92って何よ? もうほとんどカンストレベルじゃね?

 ゲームで言ったらラストダンジョン並、どうやら今のオレ達では、ここは厳し過ぎたようだ。


「ちょっと待ってください。何か様子が変ですよ?」


 地面に降り立ったその美女は、片膝をつき、ずっと頭を垂れている。

 トイレでも我慢しているのか?


「いや、それは無いと思うよ?」


 その美女は、そっと頭をもたげると、


「お待ちしておりました、聖剣の君よ」


 そう言ってくるのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「先代の聖剣の担い手が約束をしていた?」

「はい、その通りでございます」


 ロゥリを除いたオレ達は今、先ほどの美女に連れられて、暗い螺旋階段を下に降りて行っている。ロゥリの奴は外で待機だ。

 なんでもこの美女の言う事には、先代の聖剣の担い手、所謂、聖皇国の始祖、竜王ニースの主人であったその人から、いずれここに留まっている魂を解放してもらう事を約束していたらしい。


「例え自分が無理でも、その子が、子孫が、何時かは必ず私達を解放しに来ると。貴方様方はその為に、ここへ来られたのではないのでしょうか?」

「ああ、うん。まあ、やる事は同じだけどね」


 その昔、南の大地は、ここに居たアンデット達の所為で、人が住めるような状況ではなかったらしい。

 それを憂えた先代の聖剣の担い手が、ここを支配してたリッチロードに戦闘を挑み、長い死当の末、かじろうて討ち勝ったと言う。


「その伝承なら聖皇国に広く伝えられていますね。不毛の大地に住むアンデット達を討伐し、その時に共に戦った部下達が南の国々を打ち立てたと言う」

「南の国々は、聖王国のプロパガンダだと言って認めて無いけどね!」

「確か、自分達は古代王国の末裔だとか言ってるのでしたっけ?」


 それを聞いて美女はフフッと笑う。

 今の南の人々には古代王国の血は流れていない。

 なぜならば、それらは皆、ここで骸と成り果てているのだから。


 そう自嘲気味に呟く。


 人は誰しも自分に都合のいい様に解釈をする。

 それが証明のしようも無い過去の事なら、なおさらだ。

 歴史は出来るのではなくて、作るものだと言ったのは誰のセリフだったか……


「まあそれはいい。今更出来上がった歴史をどうこう言っても誰も耳を貸さないだろう」


 それよりも、先代がどういう経緯でそんな約束をする事になったかだ。


「私はその時倒されたリッチロードの娘なのです」

「えっ!?」


 先代は、リッチロードにかじろうて勝てはしたが、未だ周りは無数のアンデットに囲まれた状態。


 リッチロードの意思は、次代の王である自分に引き継がれることになった。

 このまま戦えば聖剣の担い手を屠る事はたやすい。

 だが、屠ったとしても、また一人、アンデットが増えるだけ。


「ならばと思い、交渉を持ちかけたのです」


 古代王国では、たとえ死しても魂は肉体に残る。と信じられていた。


 それもそのはず、実際に魂は肉体に固定されていたのだから。

 故人を弔う特定の儀式が、思いもよらない魔術となってしまっており、魂は空へと還る事が出来ず、死体という牢獄に捕らわれる事になっていたのだと。

 そんな誰かを憎むわけでもない、望まずして亡霊と成れ果てた魂を解放する代わりに身の安全を保障しようと。


「なぜなら私も、そういった亡霊のひとつでしたから」


 ……なるほどな。それを先代は受け入れ、いずれ彷徨える魂を解放する事を約束した訳か。


「まあボクは聖皇国とはなんの縁も無いけど、それぐらいなら容易い御用さ!」

「それは誠ですか? ありがとうございます!」


 またお前、安請合いして……知らないぞ後で泣いても。


「ただ、少々問題が発生しまして」


 なんて言いながら階段を降りたその先、巨大な扉に手を掲げる。

 ギギギィという重い音を立てながら、ゆっくりと開くその扉の向こう。


「あれから千年近くが経ちました。長い年月を経た事によって人への憎しみが薄れた魂も集って来て……」


 広大な地下空間。まるでどこまでも広がるかのように終わりの見えない世界。その中には……


「その数、100万と5千。これらがみな、解放を心待ちにしている魂なのです」


 多過ぎだろッ!

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