第十章

レベル149

 そうして始まった腕自慢大会。

 ラピス、カシュア、ロゥリ以外に、ハーモアやサウ、その上スラミィを連れたアスカさんまで参加する事になった。

 そりゃもう上位独占な訳ですよ。


 一等前後賞に、各種部門を総なめ、3億近い資金をゲット出来た! ウハウハだぜ!

 もう二度と来ないでくれって言われた。

 招待したのそっちなのに。


「うっは~、臨時収入すごいわ~。私、今後これで稼ごうかしら」


 アスカさんが金銀財宝を見て目がくらんでいる。


「おいちょっと俺達にも分けてくれよ」

「え~」

「え~言うなよ、同じパーティだろ?」


 スラミィちゃん売ろうとしたくせに。って呟いている。

 じょ、冗談に決まってるじゃないか。とパーティメンバーの男性が拝み倒している。


「まあ、スラミィちゃんが、こんなにも強くなったのは皆のおかげだしね。ちゃんとパーティ資金にするわよ」

「「おおっ! さすが神様、アスカ様!」」


 メンバー全員でアスカさんを拝んでいる。

 よきにはからえ、ハハーッて、なにやら小芝居まで始めだした。


「スラミィ、強かったですねえ」

「ロゥリはあれだな、スラミィとは相性が悪過ぎた」

「ボクなんて一度も剣を振らせてもらえなかったよ!」


 さすがにラピスはスラミィに勝ったが。

 なお、こいつらの戦いは実戦形式の模擬戦。

 その方が実力が良く分かる。

 どんなに危険だろうとも、カードに戻ればダメージは消えるしな。


「あの~、それで、つかぬ事をお聞きしますが……なんでも、鑑定・極のスキルをお持ちだとか」


 なにやら、手揉みしながらフロワースさんが近寄って来る。


「もしかして、もしかしてなんですけど、私のスキルもバレていたり……」

「未来操作ですか?」

「ぐっ、」


 このフロワースさんのスキルは予知でも予見でもない、未来操作と言って、どのように行動すれば希望する未来に近づくかが分かるそうだ。

 一見凄いスキルに思えるが、予知でも予見でも無いため、ゴールの方角と道筋は見えても、その過程において突発的事象が起これば道筋は簡単に乱れる。

 また、分かる道筋も当たり前の事が多い。

 いい大学に入りたければ寝る間を惜しんで勉強しろ。みたいな感じ。


 目指したい未来に向かって、何をすればいいのか分からない人も居れば、間違った行動を起こす人も居る。

 それが無いだけでも、実用的なものではあるかもしれないが。


 くっそあのボケェ、そんなスキルあると分かった時点で連れてくるなや。なんて心の声が漏れていたりする。


「私だって、私だって……予知でも予見でもそんなスキルが良かったわよ!」


 なにやら涙目になっておられる。


「そんなスキルがあれば、本物の聖女にだってなれたのに! 未来操作なんて! 名前だって悪いわっ!」


 私は別に誰も未来も操作していない!

 なのに周りの人間は皆、私の傍に居ると操作されているのだと勘違いする。

 両親だって、兄弟だって!

 分かる!? つい昨日まで可愛がってくれた兄がっ! 急に豹変して殴りつけてきたのよ! 全部お前の所為だったのかって!


 とうとうボタボタと両目から涙を溢れさせてオレに訴えてくる。

 いや、オレに言われても……

 なにやら周りの視線がとても痛い。

 どうやらオレが泣かしていると勘違いされている模様。


「フロワース……!?」


 そこへ、例の優男が登場。オレとフロワースの間に入って剣をつきつけてくる。


「女性を泣かすとは! 君は男の風上にも置けないな!」


 え~……もしかしてオレ、フロワースに嵌められた?

 だがそのフロワース、その優男をつき飛ばす。

 あぶなっ! 剣がこっち向いているだろ!? やっぱ嵌められていた?


「貴方だって! 私の事、恐れているのでしょ!? 私なんかと一緒に居たくないって思っているのでしょ!」


 ええ……って、顔をしてオレの方を向いてくる優男、モブディ。

 えっ、何があったかだって? オレが聞きたいよ。

 どうやら地雷を踏み抜いてしまった模様。


「フロワース、僕は君を嫌ってはいないよ」

「じゃあどうして! 最近目を合わせてもくれないのっ!」


 おめえ、避けてたのか?

 いやだって、君があんな事言うから。なんて言ってくる。

 オレの所為か?


「まあまあ、別に操作したっていいだろ? 誰だって誰かの未来を操作しているんだ」

「えっ?」


 オレが一つ行動を起こすとしよう。

 その行動を見て、それをマネようとする人も居るかも知れない。

 そんな事があった場合、オレがその人の未来を操作した事に繋がる。


「誰もが誰かの影響を受けて未来は存在する。いいじゃないか他人の未来を操作しても。だけど操作する以上は、その人が幸福になれる方向へ向かわなければ成らない」


 君のお兄さんが、君の所為だって責め立てたのは、現状が不幸だったからだろう。

 もし、現状が幸福だったならば、きっと君のお兄さんは、君に感謝していたのじゃないだろうか。


「そういえば二人はコンビなんだったよな? 一人は英雄を導く者、もう一人は未来を切り開くもの。いいコンビじゃないか」


 英雄の中には人々を不幸にする存在だっている。

 英雄が常に正しい事を行うとは限らない。


「二人で、人々を幸福にする英雄を導いていけばいい」


 フロワースと優男は互いに視線を交わす。


「貴方は私の傍に居て不快じゃないの? 私と共にこの先も進んで大丈夫なの?」

「フロワース、僕は一度たりとも、君と居て不快だなんて思った事は無い。それが例え君に操作された結果としても。なぜなら僕は、君に正しい道を教わっているからだ」

「モブディ……」


 モブディがフロワースの手を取って答える。


「僕のパートナーはフロワース、君だけだ」


 そう言って、ジッとフロワースの顔を見つめるのだった。

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