レベル137 『モンスターカード!』で、ゲットしてみたらスカウターになりました。

「えっ……そっちは……」


 モンスターカードによって照らされる、部屋の中央にあった、呪われた祭壇に飾られた一冊の本。

 オレは掲げたモンスターカードを、その祭壇へ向ける。

 そう、オレがゲットするものは、パセアラに勧めれらた蒼神の瞳ではない。


 呪われた一冊の本。


 スカウターは欲しいけれど、それよりもアレを始末するのが先決だ。


「クイーズ、あなた……」

「別にそっちは急ぐ必要は無いだろ? だが、あれはダメだ」


 万が一、パセアラが触れでもしたら取り返しが付かない。

 今ここに出入りしているのは実質パセアラのみ。

 掃除だって、整理だって、パセアラが行わなければならない。


「私はそんなにドジじゃないわ」

「ハハッ、ドジな奴は皆そんなふうに言うんだぜ」


 パセアラが不満そうに口を尖らせる。

 だが、その目はどこか優しそうな光を湛えてオレを見てくる。


「どちらにしろ、あんな危険なブツは無いにこしたことはない! 大丈夫だ、オレに任せろ!」

「フフッ、その大丈夫はフリかしらね? 何せ貴方、私よりドジじゃない」


 禁書か……まあ、本が人間化なんてよく有る話だろ。インデックスさんとか出ないかな? もうこれ以上幼女増やしても仕方ないか。

 光に照らされた古書が徐々に透き通っていく。

 完全に姿が消えたとたん、オレの目の前に光の奔流が集まり始めた。


「すごいわね……まるで大道芸みたい」

「おいおい、オレのモンスターカードを大道芸と一緒にするなよ?」


 そして光が弾け飛ぶ!

 その後には、黒い紋様が一面にびっしりと描かれた、古ぼけた一枚のカードが浮かんでいるのだった。

 オレはそのカードを手に取る。


 ん、んんっ?

 えっ!? なんで?

 いやいやいや、なんで?


 そのカードのタイトルは――――スカウター。

 ええっ!?

 なんでこっちがスカウターなの?


 ……とりあえず、出して見るか。


「出でよ! スカウター!」


 カードのイラストは唯の本、なのに名前はスカウター。

 意味が分からない。


 オレの目の前に一冊の本が浮きあがる。

 やっぱ本じゃねえか。どうしてスカウターなの。

 と、首を傾げていると、それは勝手にパラパラパラとページが捲られていき、空気に溶けて消えてしまう。


 ふむ、なるほど、なるほど。こう言うカラクリか。


「ふむふむ、ほうほう、88・60・84と安産型だな……ゲボァ!」

「ちょっと! なんで私のスリーサイズ知っているのよ!?」


 いやなにね? パセアラの方を見てみたらね、そんな数字がね、目の前に浮かんだんですよ。


「ふむ、黒、か」

「なんの色……!?」


 バッと手でスカートを押さえるパセアラ。

 いやっ、ちがっ! オレが見たのはブラジャーの色です。アベシッ!


 これはアレだ、調べたい物の情報が目の前に浮かび上がってくる。

 なんていうか、ほら、良く有る、チート鑑定魔法。みたいな?

 ウホッ! こりゃすげえ物をゲットしたぜ!


「まったく貴方は……そんな凄い物を手に入れておきながら、最初に調べるものがスリーサイズと下着の色? バッカじゃないの」


 ごもっともです。


 これ発動させておくと、チラッとでも知りたいと思ったら、その回答が表示されてしまう。

 えっ、いつもそんな事考えているのかって?

 いやいやいや、そんな事ありませんよ? たまたまですよ? ええ、たまたまなんです。信じてください!


 とりあえず持って帰ってラピスに見せてみようと、転移の間に向っているのだが、道中、パセアラさんのお小言がやみません。


 いやでも、隣にいい女がいたらまっさきに調べるよな? な!?

 ハァ……と大きなため息をつくパセアラ。

 すっかり呆れ返っている模様。


「ほんと、ちょっと見直したかと思ったらコレなんだから」


 そう呟くパセアラ。


 そして、ふとオレの両頬に手を添えてくる。

 子供の頃は同じぐらいの背丈だったが、今ではオレが随分パセアラより大きくなっている。

 そんなオレを見上げるようにして顔を近づける。


「あたなは随分変わってしまった。まるで別人の様。だけど……変わってない部分も有った」


 昔のオレのいい所は、バカ正直なところと……さりげない優しさだった。そう告げてくる。


「バカ正直なところは影を潜めたけど、優しいところは変わらないのね」

「パセアラ……」

「もし、私があなたを信じきる事が出来ていたのなら……貴方は今も、私を好きでいてくれたのかしらね?」


 そう言って寂しげに微笑んで離れていくパセアラ。

 オレは思わず手を伸ばそうとして、


「ダメよ」


 オレの胸に両手を当てて身体を遠ざけるパセアラ。


「貴方はもうここに居るべき人じゃない。貴方には、貴方を待つ場所があるのでしょ?」


 そう言って人差し指と中指でオレの唇に触れてくる。

 そしてそれを自分の唇に当てた。


「私はこれで満足しておくから、さあ、早く行って」


 俯いてオレの胸を押す。

 オレは押されるまま、背後の魔法陣に吸い込まれていく。

 最後に見たパセアラの顔は、とても綺麗で、どこか儚げに見えた。


「そんなに未練があるのなら、なぜ、つき離すような事をするのだね」


 オレが魔法陣から消えた後、何時までも魔法陣の前に佇むパセアラに、柱の影から現れたダンディが問いかけてくる。


「これは報いなのよ。彼を信じる事が出来なかった私自身の自業自得」

「されど、主が居なくなった時、泣きながら探し回ったのはそなただけであると聞いたが」

「チッ、誰がそんな事言ったのよ。根も葉もない出鱈目よ」


 別に泣いてなんてないし。と呟く。


「探し回ったという事は事実で有るか」

「一応、婚約者候補であった訳だからね」

「ならば、自業自得とまではいかんだろう、ほんの些細なすれ違い、我輩はそう思うがな」


 それでも、と言うパセアラ。


「私達の絆は切れてしまった。もう私達は……別々の道を歩んでいるのよ」


 って、何を言わせるのよ。別にクイーズの事なんてなんとも思って無いから! そう言って早足で去っていくパセアラ。

 ダンディはその背中を見て、ほんと意地っ張りなお姫様ね。と、そっとため息を吐くのであった。

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