レベル136 ヘルクヘンセン王城宝物庫

「大丈夫か? もしなんかあったらすぐに言うんだぞ?」

「うん、大丈夫!」

「主も心配性であるな。なに、学校と言っても少人数の塾のようなものだ。心配する事は無い」


 本日は、レリン達の学校への入学の日である。


「やっぱ初日は付いて行ったほうがいいんじゃないか?」

「子供は子供同士、大人が出る幕はありますまい」


 骸骨が言うには、あまり大人は顔を出さない方がいいらしい。

 貴族には家格があるので、顔を出すと他の皆を萎縮させてしまうそうな。

 特にオレのような大貴族は要注意だと。


「もう、呆れるわね。ほんと情けない姿、シャキッとしなさいよ、貴方の背を見てこの子達は大きくなるのよ」


 レリンの目線に合わせて屈んでいるオレを、腕組みしたパセアラが見下ろしてくる。


「さあ行きなさい。ここから先は、貴方達自身が切り開いていくのです。いつまでも他人に頼ってばかりでは、この先明るい未来は有りません」


 ちょっとパセアラさん、言い方きついんじゃないですか?

 えっ、あんたが甘やかすのなら私は厳しくする方だって? いやそんな夫婦みたいな言い方しなくても。


「誰が夫婦ですか!」

「イデッ」

「それでは、三人とも気を付けていくのだぞ」


 三人はいい返事を返して王宮を出て行く。


「何処行こうとしているの?」

「いやちょっと、こっそり後を付けようかなと」

「バカな真似はやめなさい」


 イダ、イダダダ、耳を引っ張らないでください。


「これから後を付ける気だったという事は、暫くは用事がないわよね」


 えっ? まあ今日は特に用事はないけど。


「だったらちょっと付き合いなさいよ。確かその、モンスターカード? でしたっけ、それで処分して欲しいものがあるのよ」


 ふむ?


 宝物庫に大層危険なブツが眠っている。

 危険なのでオレのモンスターカードで持って帰って欲しい?

 いや、そんな危険なものいらないっすよ?


「あなた男でしょ。かよわい女性に危険な物を持たせておく気?」


 いやそんな睨まなくても。

 分かりました、分かりましたよ。


 確かに強制的にパセアラを女王にしたのはオレだ。

 今現在、王家の宝物庫に入れるのはパセアラのみ。

 ヤバいものがあったら処分ぐらいはしないといけないか。


 で、パセアラと共に宝物庫に向かったのだが、


「うっわぁ……ほんと随分禍々しい、封印だなあ」


 宝物庫の中央に、黒い霞がとぐろ巻いている祭壇のようなものがある。


「ちょっ、ちょっと! それホントにヤバイ奴だから、触っちゃダメよ! 触れるだけでおかしくなるからね!」


 ええっ、そんなにヤバいものなのか。

 ゲットして大丈夫なのだろうか……


「そっちじゃないから、ほら、こっちよ!」


 そう言って手を引かれた先に有った物は……


「これ……蒼神の瞳じゃないか」


 蒼神の瞳。それは、スキルを暴く国宝級のアイテム。

 この水晶を通して人物を見ると、持っているスキルが表示される。

 どんなに遠くに居ようとも、視界が届く範囲を検索する事が可能で有る。


 これをゲットしたとなると……スカウターとかならないかな? ほら、戦闘力たったの5か、ゴミめ! みたいな。

 しかし、


「これの何処がヤバイものなんだ?」


 むしろ、あっちの祭壇に封印されているブツのほうがヤバイだろ。


「向こうにあるものは放置していれば問題ないわ。あそこに有るものは禁断の書物。それを手にすれば、世の全てが分かると言われている」


 ただし、強制的に知識が流れ込むんだと。

 その結果、良くて植物人間、悪くすればパンと弾け飛ぶとか。

 超コエエ。

 過去、あれに触れて無事だった者は存在しないらしい。


「ヤバイっていうのは、品そのものじゃないわ」


 蒼神の瞳みたいな国宝級の品物、このままでは全てピクサスレーンに奪われかねない。

 今ここに入る資格があるのは、女王で有るパセアラ、そして相談役となっているオレだけだ。

 そしてここには、王家の血を引くものしか入れない封印が施されている。

 なので骸骨も、ピクサスレーンの王族も入る事は出来ない。


「あなたには、薄くても王家の血が流れている。まったくの他人に取られるよりはましなのよ」

「…………パセアラ、もしかして、オレの為に?」

「勘違いしないで、私はあなたに押し付けているのよ。ヘルクヘンセンの未来を」


 しかし後でピクサスレーンの王様が文句を言ってこないかな?


「この宝物庫に何が有るかなんて知っているのは、今じゃ私とお父様だけ。そして何が有るかなんて口が裂けても言わないわ。知らなければ無くなった事も分からない」

「オレが、ピクサスレーンに差し出すかもしれないぞ」

「フフッ、そんなことしないわ。でしょ?」


 ……パセアラの奴、なんだかんだ言ってもオレの事を信用してくれているんだな。


「それに、ただ眠らせて置くより、あなたが使ったほうが、きっと、いいような気がするの」


 結局、本音はそうなんだろうな。


 パセアラの奴は、口は悪いが、中身は悪くない。

 それは、ずっと昔に、オレが知っていたことだ。

 最初からパセアラは、オレの力になりそうなものを選んでくれていたのだろう。


「分かった! ならばゲットさせてもらう!」


『モンスターカード!』

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