レベル106 大森林ディープフォレスト
師匠云々はとりあえず横に置いといて、逆にオレ達の方がカユサルの弟子という事にしてもらう。
そもそもの話、なんでこいつはオレの事を師匠と呼んでいるのか。今更だけど。
音楽指導なんてほとんどしていないぞ? オレが教えたのって基礎の基礎ぐらい。
あとはほとんど独学だ。
才能もあるんだろうが、ひたむきすぎる努力の結果でもあるのだろう。
「音楽に必要なのは技術だけではありません。それを教えてくれたのも師匠ですから」
なんて、よく分からない事を言っていたが。
なお、演奏会の方は大層な好評であった。
前回の反省を踏まえ、最初は前座と言う形でオレとラピスのセッションから入る。
やはり一瞬でも嫌な気分にさせるのは気が引けるからな。
それで、ギターとドラムも中々だなと思わせたところへカユサルのピアノソロ。
2曲目に3つを合わせた軽い音楽。
そこから再度カユサルのソロを入れ、その後は大々的に3つの楽器で音を奏でる。
ラストは曲の途中からピアノソロに変わる現地の有名な曲をアレンジしたもので締める。
そしたら会場の皆さん、スタンディングオベーション。
立ち上がって盛大な拍手を贈られる。
演奏後は、ひっきりなしに大勢の人々が挨拶に訪れる。
その中で実は自分、エルフ見た事がないので見たいんスよー。とか広めて。
出来れば○○地方のエルフがいいんスよー。とレンカイアの故郷の話を混ぜる。
するとなんか、大層良さそうな服を着た御仁が紹介状を書いてくれた。
で、それを持ってレンカイアの実家に向かったのだが……
「なにやら、お坊ちゃまの暗殺計画が進行しているようですよ」
などとラピスが言う。
どうもレンカイアの話を持ち出したとたん雲行きが怪しくなってきた。
少々用事がと言って出て行った後、戻ってこない。
ラピスが聞き耳を立てていたところ、どうやら森に連れて行って亡き者にしろ、という相談がされているとかなんとか。
「どうしますお坊ちゃま」
「まあ慌てる事もないだろう、いざとなりゃ竜王を呼び出して飛んで逃げればいいし」
とりあえず目的の一つであるレンカイアの件は、駄目だったって事は分かった。
奴隷にまで落ちた人間を、呼び戻す事は出来ないというのが本音なのだろう。
レンカイアもこの事を予想してたか……あるいは、知っていたか。
もう一つの目的であるエルフについては、森に連れて行ってもらえさえすれば問題ない。
どんな罠を仕掛けていようとも、うちには腹黒ウサギがいる。
ラピスにかかればその程度の事どうとでもなる。だろう?
「お任せください」
そう言って胸を張るラピス。
うむ、コイツに任せておけば大丈夫。……大丈夫だよな?
あれ、大丈夫なのか? 大丈夫だった試がないような……なんだか嫌な予感がして来た……
と、いうわけで、一人の案内役の男性と一緒に森へ入っていくオレとラピスと三人娘。
カユサルとセレナーデは、まだまだお呼ばれが残っているらしく、あちこちを転々としている。
態々カユサルの日程に合わせてパーティをずらしている貴族もあるそうだ。
「ちょっとおじさん、エルフって海岸沿いに住んでいるって聞いたけど、どんどん森の奥に向かってない?」
サヤラが案内役のおじさんに問いかけている。
「……寝床は森の奥だべ」
ソレに対し、辛気臭い顔をしてポツリと呟くように答えてくる。
(クイーズさん、いくらなんでも怪し過ぎですよ? 狩場からこんなに離れるなんてありえません)
(おいラピス、エルフの群生地に向かっているのは本当なのか)
(ええ、本当ですよ。まあ、エルフはエルフでも――――ダークエルフの住処ですけどね)
「「えっ!?」」
ダークエルフ、それはエルフの過激派とでもいおうか。
エルフと違って、こちらは森の果実を主食とする。
そして、森を荒らすものを容赦しない。
どっちかつ~と、こっちの方がオレの知るエルフに近い行動ではある。
自らの縄張りに入った侵入者を徹底的に排除し、森の恵みを独占する事に重きを置く。
エルフは人間と友好的だが、ダークエルフに至っては、もの凄く攻撃的で人を見るとまず襲いかかってくる。
捉えた獲物の血を全身に浴びる事で、緑の肌が黒く変色していったという逸話まである。
ダークエルフの縄張りに足を踏み入れたものは、決して生きては帰れないと言う。
そう、今の状況のように。
「すまねえなあ……こうでもしないとレンカイア坊ちゃんの命が危ないんでさ」
辺りを見渡すと、木々の隙間から弓を構えた黒い子鬼が多数見受けられる。
あれがダークエルフか……すっかり囲まれてしまったようだ。
おいラピス、どうしてこうなる前に回避しなかった?
「相手は所詮ゴブリンです、態々避けるまでもないでしょう」
いい経験値になりそうですし。などと言っている。
やはり大丈夫じゃなかった。
いかにダークエルフといえども、惨殺したら普通のエルフも引くだろう。
「だったらエルフも殲滅すればいいんですよ。従わぬものには死を」
「おめえは魔王にでもなるつもりか?」
いかん、ラピスに任せるんじゃなかった。
「サヤラ、ゴム弾っての作れるか?」
「ゴム弾ですか?」
オレはサヤラにゴム弾の構造を語って聞かせる。
「なるほど、弾丸を伸縮性のある物質で覆うわけですね」
「ああそうだ、それにより殺傷性を落とし、衝撃による痛覚ダメージだけにする」
「殺さずに行動不能にするわけですね。あっ、それじゃそれに、パラライズなどの麻痺系の魔法を付与すれば、さらに効果がアップしませんか」
ほうほう、さすがはサヤラだ。
こちらが少しヒントを与えるだけで、すぐに理解し、改良点まで考え付く。
これが、一を聞いて十を知る、という人間か。
ラピスのような腹黒より、サヤラのような子が参謀になって欲しいぐらいだ。
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