レベル105

 とまあ、色々あったが、とりあえずエルフ見に行くかって事になって。

 しかしながら、一つ問題点が。


「密入国かぁ……」


 そうなのだ。エルフが居る場所ってのはどこも南の方で、オレ達の居る北の国々とは仲が悪い。

 それはレンカイアの故郷である、ミューズって国も例外ではない。

 進入するには、変装やら、偽装やら、大層な手続きが必要になるとの事だ。


「姫様のグリフォンのカイザーをお借りできれば容易いかも知れませんが……」


 そこまでしてエルフが欲しいかといえば微妙なところだ。

 あのお方に借りを作ったら、負債の取立てがとんでもない事になりそうだしなあ。


「もう無理に行かなくてもいいんじゃないか」

「そうかも知れませんね」


 と、一旦は取り辞めになったのだが、


「ミューズですか? 確か演奏依頼のあった国にそんな名前が……」


 どうやら、カユサルがとある貴族の成人の儀にお呼ばれされているそうな。

 カユサルはもはやワールドワイドな存在になっているようで、例え敵対国であれ、特別にご招待される事があるそうな。

 これが、音楽は国境を越えるという奴なのだろうか?


「凄いなお前……」

「凄いのは音楽ですよ。音の世界には敵も味方もありません」


 という事なんで、その演奏に便乗させてもらう事にした。


 エレキギターでもクラシック曲は結構弾ける。

 ドラムも交えたジャズのようなものもいい。

 さすがにバイオリンの代わりにはならないが。

 吹奏楽器か弦楽器が欲しいところだ。


 エクサリーのオペラもいいかなあとは思ったが、今回はお留守番してもらう事にした。

 モンスターに狙われている上に敵国と、危険が満載だからな。

 その代わりといってはなんだが、今回アポロ達三人が護衛役と言う形で同行する。

 エルフの森に行くための戦力だ。


「師匠とクラシック曲の演奏が出来るなんて、今から楽しみです!」


 随分カユサルは興奮していたのだが。


「私どもとしては、カユサル様のピアノだけで十分だと思っておるのですが……」

「アチクシはカユサル様の演奏に雑音が加わるなど、耐えられませんわ」


 どうも向こうさんからはお呼びでなかった模様。

 まあ、それならそれでいいけど。

 とりあえず国には入れたんだ、エルフ観光ぐらい許してくれるだろう。


 って、ちょっと待てお前、握りこぶしこさえてどこ行こうとしてる?

 えっ、ちょっとあのアマァぶん殴ってくる?

 バカやめろよお前。


「師匠をバカにされたままでは収まりがつきません!」

「まあまあ、だったら相応しくないかどうか、今ここで判断してもらおうぜ」


『出でよ! マンドラゴラギター!』


 おめえの拳は人を殴る為にあるんじゃねえだろ?

 殴って聞かせるより、もっと他に出来る事があるだろう。


 それにおめえも、どうも、演奏してやっているって感じが拭えないぞ。

 音楽とは音を楽しむ。という事だ。

 その楽しみには観客は切っても切れない間柄だろ?


 演奏すれば楽しい、だが、その演奏を聞いてもらうのはもっと楽しい。

 一人が嫌だと、死者が眠る墓場で演奏していたお前なら分かるはずだ。

 音楽とは、聞いてもらって始めて、唯の音から音楽になるんだと。


 ならば、自分がやりたい事だけを考えるのではなく、観客の期待に応え、観客の事をもっと大切にしなければならない。


「……自分、バカな真似をする所でした。頼む、セレナーデ」

「承知致しました」


 ニッコリ笑って、一人の女性が巨大なピアノに変身する。


「どうせこうなるだろうと思ってましたよっ、と」


 そこへラピスがドラムを担いでやってくる。


 最初はお嬢さんのお気に入りのカユサルのソロを。

 そして少しずつラピスがドラムの音を入れていく。

 一瞬眉をしかめるお嬢さんだが、徐々にその険もとれていく。

 ドラムとピアノの伴奏が頂点に達した時、ギターの音を一つ入れる。


 一瞬驚きに溢れる観客達。


 その後、ギターのソロ伴奏を行う。

 会場の人々は驚きの表情を崩せずにいる。

 人々の表情が驚きから安らぎに変わり始めたとき、ドラムが入り、最後にピアノが被さって来る。


 徐々にギターからピアノへ主導権を渡していく。

 そうすれば、三つの楽器が交わる音を自然に聞く事が出来てくる。

 土台が出来ればあとは上々。

 最後はピアノソロへと戻り音楽が終わる。


「どうでしたか? ピアノ以外も捨てたものじゃないでしょう」

「素晴らしい! これは最初にカユサル様の演奏を聞いた時以上の感動だ!」


 そう言って、盛大な拍手をしながらオレの方へ向かってくる。


「ま、まあ、少しは、その……いいと思わなかったことも、ありませんわよ」


 そう言って、小さな拍手をするお嬢さん。

 それ以外にも、突然玄関で演奏し始めたオレ達を見に来た、使用人達からの盛大な拍手を頂ける。


「いやはや、見や目に騙されましたな。申し訳ありませぬ、カユサル様のお師匠様といえど見た目が子供でしたので侮ってしまいました」


 ん? そう言いながら手を差し出してくる。

 オレはその手を握り返しながら先ほどの不穏な台詞を聞き返す。


「誰が誰の師匠ですって?」

「カユサル様のお師匠様ですよね? これならば大々的に宣伝しても良いかもしれません」


 今後はお師匠様にもオファーが殺到する事でしょう。と言う。

 いや待って! 殺到しないで!

 カユサルさん、なんて紹介しているんですか!


「良かったじゃないですか。これからは師匠も一緒に演奏ができますね」


 良くねぇええよ!

 貴族向けってアレだろ、気難しい人達や、王族まで現れるんだろ?

 胃に穴があいちゃうよ!

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