レベル86 『モンスターカード!』で、ゲットしてみたら決してボケてはいません。

「負けるのか……この私が……」

「どんな強靭な生き物も、時の流れには、勝てはしない」

「そうか…………お前は一体何者だ? どこか懐かしい香りがする」


 骸骨が、ぐったりと横たわる竜王へと向かって行く。

 そしてその鼻面を叩く。


「数百年前、我輩が付けた傷、未だに残っていようとはな」

「なに……!? だがお前、人間はそんなに長くは生きられん! それにその姿!?」

「いや、この姿は我輩も意外だったのだがな」


 骸骨がカッカッカと笑う。


「そうか、あの時のクソ生意気な小娘か……変われば変わるものだな、ククッ」

「笑うでない。結構気にしているのだぞ?」


 その二人は、まるで往年の親友のような雰囲気で語り始める。

 骸骨の昔話はサンムーンの経緯を聞いて以来だな。

 そうこうしている内に徐々に生気を失っていく竜王。


「お前には一つ貸しが在ったよな? 今ここで返してはもらえぬだろうか?」

「聖剣の事か?」

「そうだ、この剣は我が愛しき人の物。私にはもう差し出せる物は何一つとして無い。交渉する余地も無い。だからもうお前だけが頼りなのだ」


 竜王が剣が刺さっている台座を見て一筋の涙を流す。


「人の人生は儚い。たったの30年、そうたったの30年だぞ? 共に過ごせた日々は……まさしく黄金の日々であった」


 竜王が目を瞑る。その瞑った瞳からは留め止めも無く流れ出る水分。


「目を瞑れば、今尚目の前に居るかのようだ……私は間違っていたのか? こんな剣など守ろうとはせず、彼女の後を追って……」


 そうすれば共に転生もありえたろうに。と呟く。

 この竜王は骸骨が生まれるずっと前から聖剣を守ってきた。

 この国を討ち立てた、カシュアと同じ、聖剣の担い手のスキルを持っていた人をずっと想いながら。


「若き竜よ、お前はどうする? 目の前の主無き世界を、生きていけるのか?」

「ロゥリハ、コイツシヌ、イッショダ」

「いい覚悟だ……お前が羨ましい」


 いや、ロゥリが言ったのは、モンスターカードのシステム上、仕方ない事なんですよぉ。

 オレが死ねば自動的にロゥリも死んじゃうらしいですから。


「太陽の街、サンムーンの王よ、答えを聞かせて欲しい」

「それは皮肉かな? まあ良い・」

「お待ちください」


 骸骨のセリフを遮るラピス。


「そろそろ時間もなさそうなので展開を進めさせて頂きます」

「なんの時間が無いんだよ?」

「そこの骸骨には聖剣を守っている暇なんてありませんし、このまま貴方が居なくなれば、この国は自由にその剣を扱うでしょう」


 そうしてラピスは続ける。


「聖剣は引き続きあなた自身が守ってください。そして、その手伝いを出来る手段を私達は持ち合わせています」


 なんか詐欺師みたいになってきているなあ。

 ちょっとオレ、罪悪感が……えっ、いいから早くしろって?

 何をそんなに焦っているんだ。


『モンスターカード!』


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ちょっとラピス君、ひどいよ! ずっと救難信号送っていたのに!」

「なんかいい感じでしたから言い出し辛かったのですよ?」


 すっかり忘れていた。悪霊の事。

 竜の間に居た悪霊についてはドラゴンの威圧で吹き飛んだのだが、まだ謁見の間に残っていた残滓がある。

 で、その残滓、ダンジョンコアに取りついて凶暴化したらしい。


「お前、聖剣持っているんだろ? とっとと片付けろよ」

「無茶言わないでよ! 出来るなら最初からやってるよ!」


 ダンジョンコアからは無数の触手が伸び出している。

 カシュアは、それらから必死に皆を守っている。


「なっとらんな。聖剣の使い方をこれっぽちも理解しておらん」


 白髪の老人が抜き見の剣を構える。

 腰を低く構え、剣は後ろに向ける。

 そこから一気に、裂ぱくの気合と共に剣を振り上げる!


 その瞬間ダンジョンコアから悪霊が剥がれる。

 するとその老人、ダンジョンコアを飛び越えその悪霊に斬りかかる。

 地面に着地と同時、悪霊が断末魔の悲鳴と共に掻き消えるのであった。


 そう、なにを隠そうこの老人こそが、オレがゲットした11番目のモンスター、竜王・ニースであった。


 その手に有る物は竜の間にあった聖剣。

 あの台座に刺さっていた剣である。

 そうこのお方、聖剣を扱える。聖剣の担い手のスキルを持っていた。


 なんと! さすがは竜王、レアリティは☆10! ドラスレと同じ最高レベルのレアである。

 スキルも3つもある!

 まずは先ほど言った聖剣の担い手。

 そして、


「あ、あの、あなたは……」

「おっと失礼、この姿では分かりかねますな」


 ユーオリ様の手を取っている老紳士。一言呟くと巨大な竜へと姿を変える。

 二つ目のスキル、竜化だ。

 こいつは他の奴と違って擬態で人間になるのではなく、元々が人間タイプで、竜に変身する事が出来る。という仕様らしい。仕様じゃ仕方ないよね?


「し、神獣様……!?」


 また人間の姿に戻りユーオリ様の手を取る。

 そして最後のスキルだが、


「永らく、本当に永らく待たせてしまいましたな。ヘルクォース様」

「えっ、ヘルクォース様? それは始祖様の名ですよね? 私はユーオリですが」


 輪廻転生。えっ、何ガって? 最後のスキルだよ。

 この竜王の最後のスキル、輪廻転生だって。


『竜王・ニース』

 ☆10・レベル1

 スキル:聖剣の担い手、竜化、輪廻転生

 備考:全属性特効(小)


 モンスターカードで居るうちは死にはしない。なのに輪廻転生。超無駄スキル。

 だと思っていたのだが……


「私には視える! そなたこそが始祖ヘルクォース様の生まれ変わりであると! 結婚してください!」


 ……どうやら他人の生まれ変わりが分かる模様。

 そしてそんな事を言われたユーオリ様、ドン引きでござる。


「ユーオリ! 無事か!」

「あなた!?」


 そこへ駆けつけるイケメン一人。


「おかあちゃま!」


 幼女も一人。

 あっ、竜王の顔がガビーンってなっているぞ。ちょっと面白くなってきた。

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