レベル87
「あなた……!? おかあちゃま……!?」
ユーオリ様が申し訳なさそうな顔で答える。
神獣様にそう言われるのは光栄な事なのですが……既に自分には愛する夫と娘が……。それを聞きまいと両手で耳を塞ぐ竜王。
「おのれ! また貴様か! 何度私からヘルクを奪って行けば気が済むのだ!?」
どうやらユーオリ様の旦那さん、始祖ヘルクォース様の旦那さんの生まれ変わりだった模様。
刻を越えて結ばれる愛。うん、感動的な話ではないか。
その影では、うぉおおおって、地面に拳を叩き付けて咽び泣く老人が約一名。
そしてそんな老人の肩に手を当てる幼女。
ふと老人の顔が上がる。
「なんだかわからないですけど、がんばるのでちゅよ」
「お、おお……ヘルクォース様。結婚してください!」
その幼女の手を取る竜王。
いかん、あの老人、ちょっとボケが入っているかも知れない……
そしてそんな情熱的な告白を受けた幼女、真っ赤な顔で両手を頬に当ててイヤイヤしている。
「あたちのなまえは、くぉーすでしゅよ。へるはちゅきましぇん」
「おお、おお、クォース様! ぜひに我が嫁となってくだされ!」
けっこんはじゅうろくちゃいになってからですよ。と場違いな事を言っている。
大丈夫なんですかお母さん。
娘さん、今すごいロリコンに迫られて居ますよ?
「神獣様に見初められるとは……いい事なんでしょうか?」
「いやロリコンは神獣でも駄目だと思いますよ」
「ロリコン、ボクメツ!」
ロリドラゴンがドラスレで竜王を殴っている。
さすが竜王、ドラスレの一撃を受けても……かじろうで無事だ。
「なにをする貴様! あだっ、あだだだ! やめっ! カンベンしてください!」
ドラゴンスレイヤーの力は偉大だな。
というか、なんでお前はそっちのロリ姿に戻るの?
エロいままでいいじゃないか?
「ヤレ、リュウオウ!」
やめろ! そいつはシャレにならん! オレは普通に死ぬんだからな!
「あなたは我が国の恩人です」
深々と頭を下げてくるユーオリ様。
あれから一旦客室へ通されて待機。
皇帝陛下の意識が戻ったという事で、陛下の寝室にお呼ばれされている。
「みっともない所をお見せしてしまいましたな」
ベットの上で半身を起こしている皇帝陛下。
悪霊に操られていた間の記憶は残っているらしい。
なお、骸骨はヘルクヘンセンでの仕事が在るとの事で早急に帰って行った。
「まさか、聖皇国の皇帝が悪霊に取り憑かれ様とは……」
「永い時の間、この国は私が守って来た。悪霊など一匹たりとも進入は許さなかった。だが、私の力も衰え、聖剣を守るので精一杯になっておった」
「その為、悪霊にとってはいい餌場になってしまったのかもしれませんね。進入を許されなかった、という事は、進入された場合の対策は何一つとっていなかった。という事でしょ」
ラピスがそう問いかける。
無菌の楽園の無が取れた時、そこは、菌の楽園になるという訳か。
「私の力は未だ全盛期には程遠い、早急に対策を取られる事をお勧めする」
「そうですな……」
元気のない皇帝陛下。
「案ずるな、二度とこのような事は起こさせぬ。城域ぐらいは私が守ってやろう、未来の嫁もいる事だしな」
だからアレは、その始祖さんの生まれ変わりじゃないだろ?
えっ、違う? ユーオリ様もクォース様も同じ生まれ変わり? 魂が分裂した訳?
「魂とは死した後、世界に溶け込むのだ。そうしてまた新たな魂となり生まれ変わる。完璧に、そのものを残す事は決してありえない」
ありえないのだよ、本来ならばな。と、意味深な視線をオレに向けてくる竜王。
「二人共に始祖の魂の一部が混ざりこんでいる。という事か」
「そういうことだな」
「お父様、元気を出してください。神獣様も城は守って下さると言っています。それに我が子クォースも愛して下さって居ますし」
「まるで孫を生贄に差し出した気分だ」
大丈夫ですよ。嫌がるようでしたらオレが力ずくで止めますんで。
だよなロゥリ。
「ガウガウ」
しかし相変わらず俯いている陛下。
「陛下、私達が持って来たものはあのダンジョンコアだけではありません」
「ふむ?」
「それを披露したいと思います。少し騒がしくなりますが、よろしいでしょうか」
オレ達は広々とした皇帝陛下の寝室に例のブツを運び込む。
陛下もユーオリ様もそれを興味深そうな表情で見てくる。
そして最後に、
『出でよ! マンドラゴラ・ギター』
――ギュイィィーン!
静寂を切り裂く稲妻の様な音が走る!
ラピスがドドドドとドラムを叩き、暫くの後、カユサルがベースギターを弾き始める。
グランドピアノのセレナーデさんがキーボードに手を添える。
このセレナーデさん、擬態のスキルでキーボードを作り出せる。同じ鍵盤楽器なら作り出すことが可能だそうだ。
そして、音楽が完成する。
二人とも、始めて聞くその音に驚いた表情を見せる。
だが、これはまだ序章でしかない。
出だしが終わり、ゆっくりとしたバラード曲へと変えていく。
一歩前に出るエクサリー。
音楽が歌に変わる瞬間。エクサリーから聞こえてくる澄んだ歌声。全てがそこへ集約されていく。
気が付けば、目を閉じて、うっとりとした表情で耳を澄ましている皇帝陛下とユーオリ様。
「私達だけ聞くのは勿体無い程のものですね……」
「うむ……後で皆にも、聞かせてやりたいものだ」
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