第五章
レベル74
「本日より世話になる、エルメラダスと言う。今は一時的に要職はない、普通に振舞ってくれ!」
ほんとに来ちゃったよこの姫様。
おやっさん、なんで断ってくれなかったの?
「おめえ、王家からの命令に逆らえると思うか?」
うん、普通に無理ですよね。
と、一人の幼女がストンと椅子から飛び降り、エルメラダスの手を引いて部屋の外に出てしまう。
「なんだろ?」
「さあ?」
その幼女は部屋の外でエルメラダスに話しかける。
「ひさしぶりねエルメラちゃん」
「ふむ、私の事をそう呼ぶ幼女に見え覚えは……っ! ヒメリア姉!」
ガシッとエルメラダスは、その幼女であるヒメリアの両肩を掴む。
「いたい、痛いってエルメラちゃん」
「そんな……! こんな場所に! カユサルの奴、ぶっ殺してくれる!」
「ちょっ、ちょっと落ち着こうよ!」
鬼の形相で部屋に戻ろうとするエルメラダスを必死で押し止めている。
そして、なにやら一生懸命説明をしている。
「えっ……!? それじゃあ……」
「うん! もう私、自由に出歩けるのよ」
カユサルの奴、こんな大事な話を……と両目から火を噴かんがばかりに憤るエルメラダス。
「まったくあいかわらずなのね。ダメよ、姉弟仲良くしなくちゃ。めっ!」
「そうは言われましても……あいつの無頓着ぶりはちょっとひどすぎでしょう」
「あの子も興味がある事ならとことん拘るのにね」
なんというか、幼女が大の大人を諭しているとか……
ああそういやあの幼女、16歳のときから10年以上寝てたからもう……ヒッ、どこからともなく殺気が!
「ねえ、クイーズどういうことなの?」
エクサリーがオレに問いかけてくる。
えっ、いや、そのですね……なんと言いましょうか。ちゃんと断ったんですがね、
「諦めきれないんだとよ。まあ姉貴もいい年だ、にも係わらず今まで浮いた話一つない。今回の縁談逃がせば次はいつになるやら……まあ必死にもなるわな」
「お姫様なんだし政略結婚とか話は出なかったの」
「片っ端から断られた」
ハハッて笑うカユサル。
どんだけなんだあの姫様……お前も弟なんだし、ちょっとは心配してやれよぉ。
「今回もクイーズさんは断ったんでしょ? だったらいつもの事で諦めてくれないんですか?」
サヤラがそうカユサルに問いかける。
あー、そのー、なんだ、とエクサリーの方を見ながら歯切れの悪い言葉を返す。
と、エクサリーが立ち上がる。
「私が話をしてくる」
「えっ!?」
キッと部屋の扉を見据えるエクサリー。
そのまま歩いて行こうとして、
「ちょっ、ちょっと待つッス!」
ティニーに押し止められる。
「そんな今にも襲い掛かりそうな凶悪な面でいったら戦争ッスよ!」
「凶悪……」
フラッと倒れそうになるエクサリー。
さすがに凶悪呼ばわりは足にきたようだ。
ティニーも悪気はないんだがなあ。ちょっと正直過ぎるというか、なんというか……
「悪気が無い方がつらい……」
……慰めの言葉も思いつかないッス。
「…………私が行く」
「えっ、ダメよアポロ! 危険だわ!」
「そもそもアポロじゃ相手にならないッス」
グラリとよろめくアポロ。
……ティニー、ほんとに悪気は無いんだよな?
おい、私の何処が相手にならない。ってドスの聞いた声でティニーに詰め寄るアポロ。
そのティニーの視線は、しっかりアポロの胸に向いていた。
「………………」
「………………」
ガックリとうな垂れて席に戻るアポロ。
「いや、誰が言っても姉貴の耳には雑音程度だぜ」
えっ、平民なんて最初から相手にされて居ない?
自分は王族であり貴族であるから、平民の婚約者なんて歯牙にもかけていない。
どうしても欲しいなら妾として宮の隅にでもおいてやろう。
と思っているそうだ。カユサルが言いにくそうに教えてくれる。
「そういう事で相手が平民のエクサリーやアポロでは話にならない」
「そういや貴族ってそんな感じでしたね」
「位が第一、それが貴族社会の原点だ。その考え方は庶民には理解出来んだろうが、逆もまた然り。しかも姉貴は恋愛のイロハなどまったく分かっておらん。真実の愛? それって強いのかって言うほどだ」
なるほどなあ、同じ人間とみなしていない訳か。
オレがいくらエクサリーがいいって言っても、じゃあペットとして飼えば、みたいな感じなんだろう。
「…………私、元貴族」
「色々足りてないだろ?」
「…………ゲシッ」
「イデッ!」
まあ、どうしてもスケープゴートを立てたいと言うのなら……。と、ある人物を見つめるカユサル。
それにつられて全員の視線がその人物に向く。
「ん、どうしたんだい? 皆ボクの顔を見つめて?」
そういや居たな、こっちにもプリンセス。プリンセス(笑)なのがタマに瑕だが。
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