レベル75

「ほうほうカシュア、お前、私と戦おうというんだな」

「えっ!?」


 なんで戦う事になってるの? とオレの方へ驚いた表情を向けてくる。

 うん、オレにも分からん。

 良かった、エクサリーさんじゃなくて。


「いいだろう! 今すぐ表にでろ!」


 カユサルが頭に手を当ててため息を吐いている。

 おい、お前の案だろ? なんとかしてくれよ。

 結局あの後、こちらオレの『現在』の婚約者です。ってカシュアを面に立てた。


「うふっ、クイーズちゃんの、フィ・アン・セ、のカシュアで~す。よろピク☆」


 ウザッ。

 もしかしてコイツの挨拶が気に障ったのだろうか?

 オレだって演技中でなければ一発ぐらいぶん殴っていたかも知れない。


「姉貴、腕ずくで決めるのはまずいだろ?」

「なぜだ?」


 間髪入れずにそう答えてくる。


「……カシュア、頑張れ」

「ええっ!?」


 こいつ諦めやがった。


「今のお前ならスキル無しならいい勝負になるだろう」

「何を言っている。スキル有り、真剣での勝負に決まっておろう」

「……スキル有りにしたら姉気に適う奴なんて居ないだろ?」


 そのお姫様、腕を組んで鼻で笑う。


「戦争というものはな、実際に斬りあう前に勝負をつけておくものだ」


 なんでも彼女の中では、戦いに持てる全てを出し切る事は当然のことらしい。

 王族としての立場を利用出来るなら最大限利用するし、使えるものがあるのならなんだって使う。

 領民がどんなに占領を嫌がろうとも、善政をしていればその内気にしなくなる。だってさ。


「……この戦争脳がっ」

「おまえっ、この私はいずれ女王になるのだぞ! あまりにも無礼だと追い出すぞ!」

「ハッ、そりゃ願ったり適ったりだな! 一人で孤独な王座に座っとけ。俺たちゃ、あんたをフった師匠と一緒に楽しく過ごすさ!」

「まだフられておらんだろうがっ!」


 また始まったよ。ほんと仲悪いなこの姉弟。

 おいカシュア、どこ行こうとしている。

 えっ、痛いのはヤダ?

 お前があんな挨拶した所為でエキサイトしてんだろ? 責任はとっていけよ。


 その時、はいはい、ストップ、ストップと間に幼女が入ってくる。


「貴方達、ほんとーに変わってないわね。10年前から全然成長してないよ?」

「だってコイツが……」

「……チッ」


 舌打ちしないのってカユサルのホッペをつねる幼女。

 大丈夫なのか? そんな事して。

 どうも二人ともこの幼女に頭が上がらない模様。


「とりあえずクイーズ君の話を聞こうよ。エルメラちゃん、夫婦になるっていうのはね、占領して押さえつけるものじゃないの。そんな事したら、表面上はにこやかでも、全然違う方向を向いているよね?」

「そ、それも、時間が解決……」

「してくれなかったのをいっぱい見てきてるよね? 最低でもお互いが納得して最初に向き合ってからやっとスタートラインに立てるんだと思うよ」


 その幼女のヒメリアさんはエルメラダスの頬を両手で押さえる。

 そして無理やりオレの方へ向かせる。


「エルメラちゃんはここに来て一度もクイーズ君を見ようとしてないよね? 女性陣を見て、カユサル君を見て、本当に一番最初に向かい合わないと駄目な相手を無視して。それで本当に理想の夫婦になれるの?」


 オレの顔を見たエルメラダスはとたん体を硬直させる。


「はい、ちゃんと話をして」


 なにやらモジモジとしだす姫様。

 こないだまでとはだいぶ雰囲気が違うような気がする。

 一体どんな心境の変化があったのだろうか?


 ヒメリアさんが目の前まで来たエルメラダス姫様の背中を押す。

 そしたら姫様、キッとオレを睨んで口を開く。


「わ、私のものとなれ、クイーズ!」


 男らしい告白だ。ならばオレも男らしく答えよう!


「申し訳ありません! カンベンしてください!」


 土下座で答える。えっ、全然男らしくないって? 仕方ないじゃん! 怖いんだもの!

 だってこのお姫様、オレを睨みながら腰の剣を少し抜いているんだぜ?

 なんで告白の場面でそこへ手をやるの? 断ったら赤い糸どころか首までスッパリですか?


 暫く頭を下げている。何もおこらない。周りのみんなも一言も発しない。もう頭上げて大丈夫だろうか? 上げたとたん首ちょんぱとかないよね?


 ふと、オレの目の前にポタポタと雫が落ちる。

 そっと目線を上げると……両目から滝のような涙を流しているお姫様が。


「ひっ、ぐすっ、私のものとなれクイーズ! それ以外認めないのっ! ウェーーン!」


 ええ……

 ヒメリアさんもカユサルも愕然とした顔でそれを見ている。

 カシュアなんてまるで亡霊に出会ったかのように恐怖の表情を湛えている。


「あ、姉貴……」


 カユサルが突然地面に両膝をつく。


「師匠! いま少し! いま少し姉貴にチャンスを与えてくれませんか! こんな姉貴、見ていられないッ!」

「うん、そうだよ! フるにしても、もっとよく知り合ってから考えて!」


 ヒメリアさんも同じようにお願いしてくる。


「俺からもお願いします」


 ボウリックさんまで。


「おっ、お前達……」


 そんな三人の姿を感動した目で見つめるエルメラダス。


「ちょいとおいちゃんからいいかな?」


 その時、おやっさんが口を挟んできた。


「クイーズはまだ15歳だ、結婚できる16になるまでまだ一年近くある。とりあえず答えは保留して一年後、改めてクイーズから答えを出させようと思うんだが」


 そう言ってエクサリーの方を見る。

 エクサリーはそれにコクンと頷く。


「私だって負けない……」

「…………好機」


 アポロが小さくガッツポーズしている。


「うふっ、カシュアちゃん、がんばる☆」


 お前はもういいから。

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