レベル72

 えっ、ちょっと寄って行きたいところがある?

 ほうほう、妹さんをカユサルに預けている? 難病?

 カユサル様のあの状況見て、放置されていないか心配になってきた?

 そりゃなるわな。


「その妹さんの病気というのは?」


 ボウリックさんの妹さん、その昔、未知の魔道具のモルモットに立候補したらしい。

 王家には時に、貴重な魔道具の商談が入る事がある。

 しかし、その中には効果が不明な物もあり、なおかつ、そういった効果の不明なブツほど価値が高い物が多いという。


 ボウリックさんの家系はそこそこ位の高い貴族であるが、家族が結構な浪費家で、当時はお金が底を尽き、このままでは屋敷を売って都落ち寸前だったとか。

 そこで、末の妹をそういった魔道具の実験に差し出したようなのだ。

 それに立候補すれば、成功しても失敗しても結構な資金を王家から頂けるとのこと。


「言い訳になるかも知れないが、そんなに危険な物だとは思っていなかったのだ。陛下も、俺達が路頭に迷わないようその仕事を回してくれた」


 だが、思惑と外れ、妹さんに使用した魔道具は大変危険な代物だった。

 最初は唯、魔力を蓄えるだけの大した事のない代物と思われていた。

 その実、その魔道具は確かに魔力を蓄える、しかし! 永遠にだ。


 10年過ぎた今尚、妹さんはその魔道具に魔力を吸い続けられている……


「壊したりは出来ないんですか?」

「蓄えた魔力を使ってな……すべての攻撃を無効化してしまう」


 そして妹さんは魔力増強のスキル持ち。

 そう、人より魔力が多いため、簡単に壊す事が出来なかった。

 それは時が経てば経つほど困難になり、今では終わりが来るのを唯待つだけとなった。


「いつかは、魔力が一杯になり吸い上げる効果が終わる。それだけが……今の希望だ」


 そうして訪れた妹さんの病室。


「随分小さいな……」


 どうみても5歳くらいにしか見えない。


「徐々に縮んでいるんだ」

「えっ?」

「王家に持ち込まれたこの魔道具、魔力を蓄えるだけではなく、蓄えた魔力により……若返る事が『出来るかもしれない』魔道具だった」


 有る程度効果は調査で絞られていたらしい、あとは魔力を流すだけという段階まで。


「……妹さんの年齢は?」

「当時16歳、結婚を……一ヵ月後に控えている時だった」


 タイムリミットは……あまり残されて居ないと言う訳か。

 ボウリックさんはベットの隣の椅子に腰掛けポツポツと語りだす。


「妹は日に何回か目を覚ますことがある」


 しかし、目を覚ましても1時間もすればまた眠りにつく。

 兄と両親は、すでに妹は居ないものと扱っている。

 婚約者であった……第一王子もこないだの戦で戦死。


「その話、本当なのですかリックお兄様……」

「ヒメリア……! 起きていたのか!」


 ツゥと妹さんの目から涙がこぼれる。


「そうですか……それでずっと……それに……お父様、お母様……ヒメリアはもう……貴方達の娘ではないのですね」

「ち、違うぞ。今は唯、疎遠になっているだけで、病気が治れば必ず!」

「お兄様……私を殺してください。もう、生きているのが……つらいんです」

「……っ!」


 なんだか見て居られない。

 ヤバいよ、なんでこんなにシリアスなの?

 自分、もっと楽しく生きたいです。


「これがその魔道具……?」


 小さな光が明滅している、ランタンのようなものが枕元に有る。


「こんなに近づけていいのか?」

「遠くに離れれば離れるほど、吸い上げる魔力が多くなってしまうのです」


 そうか……オレがその魔道具に近寄り、手を差し伸べようとした――――その瞬間だった!


 ――バリンッ!


 大きな音を立てて窓をつき破って入ってくる一匹の生物が!


「サワルナッ! ソレキケン!」


 それは真っ白な小さなドラゴンであった。

 そのドラゴンは勢いを付けてランタンに突進し――――それを噛み砕く!


「「「えっ……」」」


 ちょっ、おまっ、なんてことするの!

 そんなことしたら……あれ? どうなるの? たしか壊せないから困っていたんじゃ?


「ば、バカな! そんな簡単に壊せるはずが……」

「なるほどその手があったか……」


 そこへ部屋に入ってくるカユサル。


「やはり、その子は幸せを呼ぶホワイトドランだな。ホワイトドラゴンには……魔法を無効にする力が有る」


 カユサルの奴も、放置していた妹さんを気になって後をついて来た模様。

 やっぱり放置してたんかい。

 ちゃんとお城の人は世話してくれていたようだが。


「じゃ、じゃあもうヒメリアは……」

「その魔道具に魔力を吸い上げられることは……二度とない!」

「お、お、おおおお……!」


 ボウリックさんが両手を顔に当てて男泣きしだした。

 妹のヒメリアさんは、救世主であるホワイトドラゴンに抱きついて嬉し泣きしている。

 良くやったロリドラゴン! お前は凄い奴だ!


 ――ガチンッ!


 ちょっ、おまえ! ここは感動して頭をなでさせてくれる場面だろ!? オレもお前のフサフサなとこ触りたいんだよぉおおお!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る