レベル71 『モンスターカード!』で、ゲットした物のご利用は計画的に。
結論、ロゥリのレベルを上げる前に、オレが音を上げてしまう。
「いい案だと思ったんですけどね」
あと、ボウリックさんのオレへの好感度が駄々下がりだ。いや上がっても困るが。
それに、もう自由にさせたほうがアイツはレベルが上がりやすいと思う。
ん?
カード並べて見ていたところ、不審なレベルのカードが約一枚。
グランドピアノのレベルがすでに7とかに上がっていた。
……まだ渡して一週間ぐらいしか経ってないんだが。
ちょっと異常じゃね? なんかカユサルの事が心配になってきた。
翌日、さっそく王宮へカユサルを尋ねに行ったのだが……
「えっ、どこに行ったか分からない?」
「はい、カユサル様におかれましては、戦功祝典の翌日からまったく姿を見せない始末。婚約者のパセアラ女王の出立にすら現れませんでした。大変困ってございます」
……なんだか嫌な予感がするぞ。
「ラピス、グランドピアノがある場所は分かるか?」
「お任せください」
ラピスに案内されて向かった先、そこは小高い丘の上。古びた洋館であった。
それを見てボウリックさんが呟く。
「なんでこんな所に……」
「知っている場所なんです?」
「ああ、ここは代々の王が眠る静謐」
墓場ですか!
アイツ、何考えてこんな所へピアノを持ち込んだんだ?
館に入ると、奥の方からピアノの旋律が聞こえてくる。
オレ達は音源の元へ急いで駆けつける。そしてそこで見たものは……
「カユサル!」
まるで亡霊のように、げっそりとやけこけた第二王子、カユサルの成れの果てだった。
「兄上!」
カシュアがカユサルの元へ走り寄りピアノからひっぺがそうとする。
「カシュア……カシュアなのか……迎えに……来たのか? そうか……お前も地獄に……」
「ボクまだ死んでないからね!」
「兄上だって……? ハッ、まさかっ! カシュア王子に似たその風貌、もしかして……!?」
おっとボウリックさんに気づかれてしまったか。
「王の隠し子!?」
あ、違ったようだ。
とにかく、オレ達は慌ててカユサルとピアノを引き離す。
どこにそんな力があるのか必死の抵抗を試みるカユサル。
「師匠! 弾けない! 弾けないんですよ! 思った通りの音楽が! 人に聞かせるようなレベルに! 全然ならないんだ!」
拳を地面に叩き付けるカユサル。
ああ、うん。絶対音感だけあってもやっぱり無理ですか。
『戻れ! グランドピアノ!』
オレは一旦ピアノをしまう。
カユサルがガックリとうなだれる。
なにかをブツブツ呟いている。憑かれてないよね?
こんな墓場で一週間以上篭りっぱなしとか。しかも、まともに食事をしてさえなさそうだ。
「カユサル、良く聞け。ピアノの真髄とは一日二日で手に入れられる物ではない。最低でも10年、弾き続けて始めてプロと呼ばれるレベルとなる」
ゆっくりとカユサルが面をあげる。
「音楽をなめていないか? 数日練習しただけで人に聞かせられるレベルになるだと? そんな事出来る訳がないだろう!」
オレはガシッとカユサルの両肩を掴む。
「一つ一つ丁寧に。一歩一歩慎重に。音楽の道は長く険しい、近道をしようとするんじゃない」
「師匠……」
「お前、剣の腕はこの国一なんだってな。それって、どれくらい練習した? 一日二日で手に入れられた物なのか?」
カユサルの両目から滝のような涙が流れ出す。
そして、おいおい泣きながらオレにしがみついてくる。
どうしよう、ピアノなんて出すんじゃなかった。まさかここまで思いつめるだなんて……
数日後、
「まずは姿勢だ。いい音楽はいい姿勢から始まる」
「はいっ!」
オレはカユサルにピアノのレクチャーをすることにした。
必死で小学校の時に習ったパートを思い出す。
「鍵盤を抑えるときはこう構える。そして指の使い方はコレ。あと爪は必ず切っておくこと」
「はいっ!」
あとなんだっけかなあ。
えーと、ペダルの使い方は音の長さを調整するのだったか。
ハイフィンガーテクニックはやらないほうがいいんだったよな。
ピアノなんてほんと小学校の時ぐらいだからな。
こいつ、10レベルになったらオート演奏覚えてくれないだろうか?
「とりあえず毎日少しずつ弾いて行く事。最後になるが、怖い話をおまえにしてやろう」
「はい?」
「シストニアという病気がある。指が思ったように動かなくなる病気だ。体を酷使し過ぎると、二度と音楽が出来なくなるぞ」
ゴクリと唾を飲み込むカユサル。
そして自分の両手を見つめる。
「手を大事に、いや、体を大事に。ピアニスト含むミュージシャンは体が資本だからな」
カユサルは真剣な顔で頷く。
ほんとに分かっているのだろうか?
誰かコイツが無理しないように見張って居てはくれないだろうか。
「ところで、どうしてあんな所で弾いていたの?」
えっ、あまりにも酷くて人に聞かせられない。しかし、誰かに聞いて欲しい。
そう葛藤した結果、死者に聞いてもらう事にしたとか。
どうしてそういう発想になるの?
「……毎週聞きに来るから、無理だけはしないで」
「勿論です」
信用出来ないのよ、君の勿論は。まあしかし、
「それだけ打ち込めるなら、いずれ人に感動を与えられる音を鳴らすことが出来るだろう。それがいつになるか分からないが、その時までゆっくりと待っている」
カユサルはオレの両手をギュッと握り締めてくるのだった。
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