レベル69

「俺の事が信用できないですか?」


 まあ勿論それもあるが。

 カシュアだって、いい顔しないだろう。向こうは気づいていないかもしれないが、裏切った張本人だからなあ。

 あれだけこっぴどく裏切られていればさすがのカシュアも……


「えっ、誰だっけ? ああ、そういえば居たね! すっかり忘れてたよ!」


 ……無駄でも知能を、もちっと上げといたほうが良かったか?


「どちらにしろ俺には選択肢がないんですがね。万が一あんたの身に何かあったら……俺だけじゃなく一族郎党の首が飛ぶ」

「いやまさかそんな事が」

「あの御仁は冗談は言わないからな」


 ……マジですか?

 オレが言って……聞くかな? あいつ頑固だからなあ。


「それにカユサル様だけじゃなく、エルメラダス様にも念押しされたからな。あの人は普通に首を刎ねる」


 ああ、確かにおっかなそうだしな。

 しかし、うちには護衛といっても、結構な戦力を持っているぞ?

 特に必要だとは思えないんだが。


「ならば俺の腕を試して頂きたい」


 どうするラピス?

 えっ、カシュアと戦わせて見る?

 お前がやらないのか? えっ、めんどそうだからヤダ? お前……


「えっ、ボクがやるの? いやいやいや、思い出したよ彼! 純粋な剣の腕ならば、この国でも2番目に強いと言われている人だよ!」


 そういや屋敷でもそう言ってたな。

 と、いうことは、もう一人のカユサルが変装してたのが……一番な訳か、どうりで強いはずだ。

 最初に穴に落ちなければ、ブラックドラゴンもなんとかしたかもしれない。


「大丈夫ですよカシュア、今のあなたなら、ちょっとやそっとの攻撃では傷一つ付けられません。使用するのは木刀ですしね」


 ほら、お坊ちゃまにいいとこ見せるチャンスですよ。って囁いている。

 いや別に、ソイツはオレの事はなんとも思ってないと思うぞ。

 しかしカシュアはニヤリと笑う。あっ、これはなんか嫌がらせを思いついた顔だな。


「いいねそれは! なら勝者には、クイーズ君の熱いベーゼをお願いしようかな!」


 おまっ、なんて事言うんだ! どっちが勝っても罰ゲームにしかならないだろうが!


「何を言うんだい? こんな美少女を捕まえて!」

「仮に向こうが勝ったら、オレはあのおっさんにチュウする事になるんだぞ!」

「だったらキミはボクが勝つように応援する事だね!」


 お前が勝っても大してかわらんだろうが!

 嫌だぞ、男にチュウなんてするとか。

 おい、聞けよ! ちょっと聞けってば!


 カシュアの奴はそんなオレを無視してスタスタと裏庭に向かう。鼻歌とか歌ってやがる。

 だが、そんな上機嫌も戦闘が始まるまでの間だった。


「ちょっと! 聞いてないよぉおお!」


 激しい攻撃に防戦一方のプリンセス。攻撃なんて一刀もさせてもらえない。

 ラピス君、大丈夫だって言ったじゃない! って吼えている。

 だから言ったろ、ラピスの大丈夫は大丈夫じゃないって。ん? カシュアには言ってなかったか?


「ちゃんと防げているじゃありませんか?」

「これは大丈夫とは言わないよ!」

「まさか俺の攻撃がここまで防がれるとは……」


 まあ、中々頑張っているのは確かだ。

 目にも止まらない速さの攻撃を、その巨大な盾を巧みに使って防いでいる。防御特化型にしただけの事はあるな。


「くっ、力で押してもビクとしない……スピードで隙を狙おうとも、隙がない。盾で視界が防がれているはずなんだが……」


 対して城から派遣されて来たオレを護衛するという、名をボウリックという人物。

 カシュアの堅牢な防御に驚愕している。


「確かに、このような女性が居れば、護衛など考えないか……」

「フッ、愚かな、奴は我々の中でも最弱。そんな奴にも勝てんとは底が知れて居る」


 お前はどこの悪役四天王だよ?

 そのラピスのセリフに思わず隙が出来るボウリック。

 すかさず攻撃を加えるカシュア。しかしさすがは第二位、ギリギリで受け止める。


「はい、そこまでにしましょうか」


 そこでラピスが手を叩きながら間に入る。

 えっ、もう終わりなの? えっ、そんなにチュウがしたいんですか。だって?

 ヤダヨ! よし終わりだ! 勝負は引き分け!


「え~」

「え~言うな」


 お前はほんとにオレにチュウされたいのかよ?

 なんなら今ココで本当にしてやろうか? ああん!?

 ふとカシュアが横目で何かを見たかと思うと、


「うん、いいね! ぜひともしてもらいたいものだ! ほら! ここに! ぶちゅ~とお願いするよ!」


 ウザッ。

 カシュアが横目で見た先、そこには、お昼が一段楽したエクサリーさんが。

 オレは顔を近づけてくるプリンセスを、アイアンクローで黙らせながらエクサリーに問いかける。


「今日の仕事は終わり? こっちもちょうど揉め事が片付いた所だから、一緒に休憩でもしようか」

「彼女は随分怒っているようだな。こんな所で戦闘を始めたのがまずかったのか?」

「いやあれ地顔」

「………………」


 そこで絶句してやるなよ。またエクサリーが落ち込むだろ?

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