レベル49

「なんか慌しくないか?」

「ですね」

「…………スヤスヤ」


 ちょっとアポロさん。こんなとこで寝ないでください。


「しつこいぞカユサル!」

「しかしっ、」

「これならばお前も納得出来る話であろう!」

「いやっ、でもな……」


 なんか姫様と誰かが言い争っている。

 バンッと扉が開かれる。


「クイーズ・ファ・ゼラトース、お前の亡命を認め、我が国の貴族として召抱える!」

「えっ!?」


 いきなり何言いだすのぉ?


「そしてお前は今日から私の婚約者となった!」

「は!?」


 今なんつった?

 どうにも状況に追いついていけません。

 一体全体なにがどうなってございますか?


「隣国ヘルクヘンセンが攻めて来た! これを私は迎え撃つ事になる! 王子が討たれ、王が重傷とあれば、もはや、どちらかが滅ぶまで終わりはせぬ」


 あの国、なんて事始めたんだよ。

 あの王様、そんなに頭悪かったっけ? ああ……悪かったかもしれない。

 姫様も苦労なされていたよなあ……今頃なにしているかなあ……


「国を滅ぼした暁には、お前にはヘルクヘンセンの王となってもらう。そこへ私が輿入れする訳だ!」

「待って待って! ちょっと、何言ってるのか分からない」

「反論は認めぬ、嫌だと言うなら、今ここで敵として斬り伏せるまでだ」


 そんな横暴な……

 というかオレの素性すっかりバレていたのですね。


「姉貴……こっちの国はどうするんだよ」


 姉というと……あちらの方は弟さん、王子様でございますか!

 ん? なんか、リーヴィと雰囲気が似てる気が……


「カユサル、お前はなんの為のスペアだ。こういった時の為にお前が居るのだろう?」

「いやでも、親父はきっと姉貴の方を……それに俺なんて誰も期待しちゃいない、ただの地獄耳しか持たない俺にはな。まだカシュアの方が希望があるぐらいだ。だからこそ宝剣を持たした」

「カシュアはもう居ない、そして王に次ぐ権限を持つのはこの私、王不在の今、この私がルールだ!」


 相変わらずのワガママ娘でございます。

 そしてカシュアは居ない事になっています。

 かわいそうな奴だ。今後はもっと優しく接してやろう。


「棚からボタ餅とはこういった事を言うのでしょうかねえ」

「そのボタ餅、もの凄く熱くて危険そうなんだが」

「贅沢は言ってられませんよ?」


 贅沢はいらない。だからそのボタ餅、返品してくれ。

 そうだ! このまま流されるのはまずい!

 なにがまずいって、エクサリーさんがまずい!


 ここははっきりお断りを!


「師匠、ここは抑えてください。今の姉貴はマジで反抗する者を斬り伏せかねない勢いです」


 なんで王子様がオレの事を師匠呼ばわり?

 えっ、リーヴィなの!? 変装してた? えっ、マジでぇ!

 ちょっと、王子様をお前呼ばわりしてたって、ガクブルじゃね?


「そうですよお坊ちゃま、こんないい話逃すにはもったいないですよ。大丈夫、エクサリーの事なら私がなんとかしますから」

「本当か? 信じていいんだな?」


 大丈夫ですよ、ほら知能だってこんなに伸びてます。ってカードの裏面を見せてくる。

 ……信じて大丈夫なのだろうか?

 これ、腹黒パラメータじゃないだろうな。


「…………スヤスヤ、もう食べられない」


 そんな寝言を言いながらオレの手にカプリと食いつくアポロ。

 イタタタ、オレは食べ物じゃないッスから!

 この騒動の中、まったく起きる気配のないアポロは結構な大物ではないだろうか?


 その後、バタバタと戦争準備に入るとかなんとかで姫様は出て行ってしまった。

 カシュアと合流したオレ達は、今のうちにとコソコソと王城を後にする。


「黙って出てきて良かったんでしょうかね?」

「まあいいんじゃないかな? 一応門番には伝えたんだし」

「…………何かあったの?」


 と、街の城壁を出た所で誰かに抱きつかれる。


「エクサリー……」


 無言でジッとオレに抱きつくエクサリー。


「心配した」

「ごめん」


 どれくらいそうしていたか、ポツリと呟くように囁く。


「帰ったら話がある」

「………………」


 まっ、まさか……別れ話!?

 ちょっ、ちょっと待ってください!

 謝ります! 謝りますから! どうか捨てないでやってください!

 婚約だって、向こうが勝手に言ってるだけで……


「婚約……?」


 あっ、やべっ!


「バカなお坊ちゃま……」


 しかしてエクサリーの話というものは……


「えっ、冒険者を辞めて欲しい?」

「そう」


 危険な冒険者は辞めて、お店に専念して欲しいと言うのだった。

 アレからなんとか話をごまかして店に付いた後、家族会議。

 エクサリーとおやっさん、アポロ達三人娘、ラピスにカシュアと勢ぞろいだ。


「あ~、なんと言うか、こうも立て続けだとな。ほら、エクサリーが今にも誰かを殺りそうだろ?」

「誰も殺らない」


 なるほど、もう私に心配させないでって事か。

 良かった別れ話じゃなくて……


「全然良くありませんよ? レベルが上がらないじゃないですか」

「お前らだけで行けばいいだろ?」

「何言ってるんですか? お坊ちゃまが行かないと誰も行きませんよ」


 いや、行けよ。

 効率も悪くなるし、やる気も起きませんし。とラピスが言ってくる。

 となりでカシュアも頷いている。お前は唯単に動きたくないだけだろ?


 ガタンと音がする。見るとアポロが立ち上がってエクサリーを睨み付けている。


「……そんなこと言われる、筋合いはない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る