第三章

レベル40

「師匠、こんな感じでどうでしょうか?」

「おっ、いいんじゃないか。さすがは絶対音感の持ち主だな」


 オレのバンドに、待望のベーシストが生まれた。

 なんかコソコソと、随分興味深げに眺めているんで、一つ楽器を渡して演奏させてみると、コレが凄い。

 聞いただけで楽譜無しでほぼコピーが出来ている。


 聞けば、音の一つ一つを別々に聞き分ける、絶対音感に近いスキルを持っているとか。

 これはぜひ、我がバンドに参加して欲しいとスカウトしたのであった。


 名はリーヴィ・スイ・ベリキュラス。

 オレより一個上の15歳のお貴族様だ。

 オレ達の音楽が聞きたくて、態々城壁を越えてこんな宿場町まで来ているらしい。


 貴族の癖に気さくな感じで、自分は次男で長男のスペアの様なもの、長男に何かない限り自由にできる気軽なもんだって言っていた。


「今日はエクサリーさんは居ないんですか?」

「エクサリーは今、お店の受付をしているよ」

「……無駄な努力は止めて、こっちに専念したほうがいいんじゃないですか」


 まあそう言ってやるな。

 あの努力こそがエクサリーたる所以なんだから。

 ちょっとコイツ、職人気質というかなんというか、音楽の事になると周りが見えなくなりがちだ。


「師匠はエクサリーさんに甘すぎですよ。才能が有る者は、その筋で努力を怠ってはならないと思います」

「手厳しいな。だが、一概にそうとも言い切れない。たとえばだ、」


 ひたすら同じ事を繰り返したとしよう。となると、同じ場所ばかり体を使う事となる。

 しかし人体はそうそう丈夫に出来てはいない。無理を繰り返すと指が動かなくなる、なんて病気になったりする。


「それにな、大事なのは心だ。どんだけいい歌声であれ、どんだけ凄い演奏であれ、心が篭って居なければ、誰の心にも届きはしない」


 そして人の心とは、体以上にメンテナンスが必要である。

 エクサリーにとって、その心のメンテナンスが店の仕事なんだろう。


「……心のメンテナンスですか。今一番俺達に……足りていないものかも知れない。しかし、師匠は14歳とは思えないほど達観していますね?」


 前世プラス14歳だからな!


「まあ他事しているのはエクサリーだけじゃない」


 オレとラピスだってレベル上げの為にダンジョンに篭っている。


「そうですね、俺だって……」


 ちょっと気難しい顔をしているリーヴィの肩をポンと叩く。


「もっと気軽に行こうぜ。まだまだ先は長い、少し立ち止まって振り返って見るのも、次のステップに進む為に大切な事だ」

「ハイ……」


 それじゃあ今日の所はここらで引き上げるか。

 リーヴィはお疲れ様です、と言って帰っていく。

 バンドは主に夕食が終わり少しの間だけだ。

 しかし、それだとリーヴィは参加できない。


 城門が閉まって帰れなくなるからな。

 だから偶にこうやって昼に演奏したりもする。

 今日は偶々エクサリーが居なかったけどな。


「そうだカシュア、お前もなんか楽器やってみるか?」

「うん? ボクは聞いている方が性にあっているみたいだ!」


 動きたくないだけだろ?


「しかし、リーヴィとか言ったか彼、どっかで見たような気がするんだよねぇ」

「知っている奴か?」

「いいや、まったく知らない。ベリキュラス家なんて聞いた事無いよ。まあ、ボクも全部の貴族を知ってる訳じゃないけどね」


 むしろ知ってる数の方が少ないね! って笑っている。

 そこ笑うとこじゃねえだろ?


「やってみるなら教えて差し上げますよ?」

「やらない! やらないから! もうラピス君のスパルタはコリゴリだよ!」


 すっかりトラウマになっているなあ。

 しかし、カシュアの奴もレベルが上がっていっぱしの冒険者並に活躍している。

 盾を使えばしっかりと壁になるし、剣を振るえばアンデッドはもちろん通常のモンスターもたやすく屠る。


 ラピスのスパルタのおかげだな。

 いい師弟じゃないか。


「だったら代わってみる? コワイヨ? イタイヨ?」


 遠慮しておきます。


「クイーズにお客」

「おう、入らせてもらうぜ」


 そこへエクサリーが一人のおっさんを連れて来た。


「冒険者ギルドの親父さんじゃないか。こんな所へいったい何しにきたの?」

「いやなにお前に指名依頼がきてな」


 そんなのギルドのトップが態々言いに来るほどの事じゃないんじゃない? あ、嫌な予感がしてきた。


「そうもいかねえんだわ。なんせ、王家からの指名だからな」

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