レベル39 第二章完結

「いいね! クイーズ君とはまた違う趣でとても聞きやすい! 女性の楽師はあまり見かけないが、エクサリー君はそっちの道に進んでも大成しそうだよ!」

「なんだかこう、たかーい音? って言うのか、そこらへんがとても澄んでいる気がする。これなら金を払ってでも聞きたいって奴はいるだろうな」

「こりゃおいちゃんの娘、スキル持ってるかもしれねえな……」


 歌が終わると同時、オレ達三人は声援と拍手に包まれる。


 あっ、エクサリーさんが気づいてなかったようで動揺されている。

 あっ、落ちた。

 慌てて立ち上がろうとして台に頭ぶつけている。超痛そう。


 フラフラしながら駆け出そうとして、洗濯物に躓いてすっころんだ。

 ラピスがスティックでつついている。また何か囁いている様だ。


 ゆっくりと立ち上がったエクサリーさん、またぞろ、どいつを殺そうかという視線で周りを見渡す。皆さんがゴクリと喉を鳴らす。

 そして、もう一度ステージに立ち――――大きな声で叫ぶ!


「私の歌を聴けぇーー!!」


 お前、今度は何を吹き込んだ?


「超恥ずかしい、もう表を歩けない……」

「いや、ほんとにやるとは思いませんでした」


 翌日、朝から顔を机にくっつけて、ピクリともしないエクサリーさんであった。

 どうやらラピスの奴、最後にああいうのが礼儀なんですよって言ったらしい。

 そんな礼儀はごく一部の話だから。


「クイーズ、おいちゃん、ちょっと用事で出かけてくっから。店の事頼むわ」

「ウイッス!」


 でも昨日の夜は良かったよな。あれこそライブって奴だな。

 おやっさん、ライブスタジオとか作ってくれないかなあ。

 確か、この世界には防音に適した素材があるとか言ってたな。

 しかし、聞いたのは貴族時代の話だからきっと高いんだろうなあ。


「あっ、あのっ、クイーズさん。昨日のライブ? でしたっけ、とても素敵でした! コレにサインをお願いします!」


 そう言ってサヤラが黒板とチョークと差し出してくる。

 いやお前、それでサインしてもすぐ消えるぞ?

 とりあえず言われるままにサインをすると、ヤッタって可愛くジャンプして走っていく。

 意外とミーハーだなサヤラの奴。


 通路の隙間から、それを羨ましそうに見つめるアポロ。お前もいる?

 コクコクと頷くと急いで黒板とチョークを買いに走るアポロ。


 いやあ、コレで生計を立てていくのも悪くないかもしれない。

 となると、いつまでも前世の曲にお世話になる訳にもいかないな。

 歌詞も日本語だと意味も分からないだろうし。


 オレがギターを弾き、エクサリーがその隣で歌い。

 ラピスがドラムを叩き、カシュアは……あいつなんか楽器出来るかな? 出来ればベースとか弾いて欲しいんだが。

 キーボードは確実に無理だろうな。


 ああでも、いいなそういう未来図……


 モンスターカードを使って貴族なんかに帰り咲かなくても十分幸せな未来はある。

 しかし、アポロ達の件だけはなんとかしないとな。

 オレの所為で不幸になったんだ、このままにしておける訳が無い。


 そんな事を考えていたら、おやっさんが戻ってくる。


「おうクイーズ。明後日予約が取れたから、エクサリーを神殿まで連れてってくれ」

「ウイス! えっ!?」


 神殿?


「エクサリーのスキル、開放するのですか!?」

「ああ……実はな、今までずっと悩んでいたんだ。万が一、盗賊向けのスキルがでたらどうしようってな」


 ただでさえ、エクサリーは母親が大盗賊だった事を気に病んでいる。

 なのに自分もその盗賊向けのスキルなんて持っていると知れたら……


「いいんすか? その万が一があったら……」

「だからおめえに連れて行って欲しいんだ。エクサリーはもう、お前さえ居れば……きっと何があっても大丈夫だ!」

「おやっさん……」


 そうして開放した、エクサリーのスキル。

 その名も、


『ハウリングボイス』


 その名の通り、大きな声を出す、有る意味、盗賊向けのスキルであった。

 しかし、それはオレの異世界スキルが影響していなければの話。


「これは……声がどこからでも、どこにでも飛ばせる……」


 オレとずっと一緒に過ごしていたエクサリー。アポロ達なんて比にならないぐらい近くで一緒に居たエクサリー。

 やはり、異世界のシステムであるオレのスキルは、天啓と同じく他者のスキルに影響を与えるようだ。

 エクサリーの『ハウリングボイス』ただ大きな声を出すのではなく、声を自由な場所から自由な大きさで発する事が出来る。


 まるで、どこにでも設置出来る異次元スピーカーであった。


 そしてそれは、オレのギターの演奏スキルでエクサリーの声を中心に思う事により、一緒に自由な場所からまとまって音が発せられる。

 即ち、オレのスキルとエクサリーのスキルは相性がコレ以上ないほどマッチしているのだ!

 オレのギタースキルがアンプとミキサーの変わりをし、エクサリーのハウリングボイスがスピーカーの変わりとなる。


「こりゃあすぐにでも、クイーズが言ってた、ライブハウスか? それ作らねえとな」

「いいですね、私も協力いたします。ちょっと近所の大工さんにお話を通してきます」

「おお、頼んだよラピスちゃん」


 オレ達のバンドを聞きながら、軽食やお酒などを提供する。

 暇な時間帯は喫茶店として営業してもいい。

 そんなスペースが、こんな異世界にでもあってもいいんじゃないだろうか。


「お前の母親はな、そりゃもうすげー大声でな。洞窟の端から端まで聞こえるぐらいだったんだ」

「これは母が私に譲り渡してくれたもの?」

「その顔と一緒だな。でも、どっちもクイーズには必要なものだった。それはエクサリー、お前を幸せに導いてくれる、母からのプレゼントなんだよ」


 それを聞いたエクサリーが目に涙を溜める。


「母は、世の人々にとっては災害であった。だけど、私にとっては愛すべき、母であった」


 そうだなって、優しそうな顔でエクサリーの頭をなでるおやっさん。

 これで、エクサリーが母親に対する一つの区切りになったのかもしれない。そう思える、そんな場面であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 しかし、連続で城門を越えた事により、とある人物を招き寄せる結果になる。


「あのドラゴンスレイヤーが生きている、だと?」

「ハッ、大神殿にてかの者が現れたと報告が上がってきております」

「カシュアは……帰って来ていないという事は見捨てられたか、助からなかったか……いやそれはいい、問題は王家の宝剣だな。アレが王家以外の者の手に有るのはまずい」

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