レベル38

「今度はうまくいったんだね。おめでとう」


 ビックフットを連れて帰ったオレ達を見て、エクサリーがそう言ってくる。

 うまくいった……? んだろうか? ちょっと違う気もする。


 あれから、このダチョウもどきが嘴でつついて来て演奏をせがむんで、アンコールを披露した。

 そしたらすっかり懐いてしまったようだ。


「うぉっ、レア種かよ! ついてるなクイーズ。しかし……店の護衛増やさねえとダメかもな」


 おやっさんがそう呟く。

 確かに、盗まれる心配とかがありそうだな。でもコイツ、危機察知のスキル持ってるから、なんとかなるんじゃない?

 しかしこのダチョウもどき、ちゃんと荷物引いてくれるのかな?


 ちょっと心配だったのだが、ちゃんと荷物を運ぶ役を担ってくれた。

 ギターで音楽を鳴らしてやれば上機嫌で言う事を聞いてくれる。

 偶にクエー、クエッって、ギターに合わせて歌っている様な時もある。モンスターでも音楽で心を通わす事が出来るのだろうか?


 あと、カシュアと結構仲が良さそうで、


「君も危機察知スキル持ちだってね! ボクも昔は持ってたんだよ、それがあれば悪い奴といい奴がすぐに分かって良いよね!」

「クエー!」

「イダッ、イダダダっ、ちょっ、やめっ、ボクは悪い人間じゃないよ!?」


 ちゃんと言葉が通じているかどうかは不明だが。


「お坊ちゃま、ドラムってこんなんでいいのですかね?」


 それと、ラピスがやけに音楽に凝り始めた。こっちの世界じゃ娯楽が少ない、しかしラピスはモンスターカードの効果でオレの前世界の娯楽を知っている。

 その一旦を感じた事により、どうせならフルセットを再現しようと挑戦しているようだ。

 あちこちからモンスターの素材を取り寄せては、あれでもない、これでもないって、試行錯誤してドラムやらベースギターやら、楽器作りに精を出している。


「おっ、結構いい音がするな。でも、アンプとスピーカーが無ければ、音の大きさがバラバラになるんじゃないのか?」

「それにはそのギターのスキルの熟練度を上げてください」

「ええっ?」


 ラピスの言う事には、スキル自体に熟練度みたいなものがあり、使えば使うほど上達するそうな。

 サヤラに言ったアレ、実はほんとの事だったようだ。

 そしてこのギターのスキル『オート演奏』オートの部分と演奏の部分で分けて考える事が出来る。


 エレキギターは元々、それ単体ではほとんど音が鳴らない。

 にも係わらず、きちんと音は響いている。願えば音量の調整が出来る程だ。

 しかもだ、その音量の中にオレの歌声も混ざっていたらしい。


「それが演奏と判断されたなら、このギター以外の音も一緒に拾えるってことか……?」

「だと思われます。なので、こちらのドラムやベースの音も一緒に拾って、演奏部分のスキルで調整して頂きたいのです」


 出来るのかな? やってみるか。


「よし! ラピス、ドラムを頼むぞ!」

「アイアイサー!」


 最初はうまくいかなかったが、練習して行くうちに徐々にまとまった音となっていく。

 なるほどこれが熟練度か。

 という事は、もっと練習すればさらにいい音楽が奏でられると。

 これは、さらに練習量を増やさないとな!


 そうして夜な夜な裏庭でギターの練習をしている時だった。

 ふと、オレの演奏に合わせて歌声が聞こえる。

 いい声だ……遠くから聞こえているはずなのに、なぜかすぐ近くで聞こえるような気がする。

 高く、低く、緩やかに……心に染み込んでくる。


 フラフラとその人物を求めて彷徨い歩く。


 そして見つけた。

 洗濯物を取り込みながらメロディーを口ずさむ、エクサリーに。


「あっ、クイーズ……恥ずかしぃ……」


 オレを見かけたエクサリーは恥ずかしそうにシーツで顔を隠す。


「エクサリー、今の歌は?」

「クイーズの練習をジッと見てたら覚えちゃった……下手でしょ?」


 そんな事はない! 確かに技術はまだまだかもしれない。

 だが、ボーカルとして必要な、聞かせる『声』を持っている! それだけは、生まれ持っての才能でしか手に入れられないものだ!

 オレはもしかしたら、至高のボーカルを手に入れたかもしれない。


「エクサリー、オレの……パートナーになってくれないか?」

「えっ……えっ! そっ、それはもちろん……約束だから……いいけどぉ……」

「ありがとう! さっそくこっちへ来てくれ!」

「えっ、ええっ?」


 オレはすぐに木のブロックを使って簡易なステージを作る。


「さあここで、思いっきり歌って欲しい!」

「えっ……もしかしてパートナーって……」


 あれ? なんだかエクサリーの顔から表情が消えて……


「さっき誰か殺ってきた?」

「殺ってない」


 とにかく! エクサリーの歌声は天使の歌声なんだよ!

 あんな澄んだ歌声は聞いたこと無い!

 オレにとってエクサリーは天使なんだよ!


 などと、オレの褒めごろしに気を良くしたのか歌ってくれる事になった。


 オレが演奏を開始する。

 エクサリーがそれに合わせて歌いだす。

 そしてそれは、ギターのスキルに乗って様々な人達に届けられる。


「懐かしい声がするな……」


 それはオレを拾ってくれて、エクサリーやラピスに巡り合わせてくれたおやっさんだったり、


「うん? これはクイーズ君じゃないね、でもクイーズ君以上かもしれない!」


 それはドジでウザくてバカで能天気なプリンセスだったり、


「いい声……」

「心が洗われるッス……」

「………………」


 それは様々な苦労を共にした三人の少女だったり、


「よいしょっと、お坊ちゃま、ドラム、入りますよ」


 それは演奏を聴きつけた耳をピコピコさせているバニーガールだったり、


「あら、スラミィちゃん踊ってるの? かわいいぃいい!」

「ほうほう、コレ売ったらかなりの金になるんじゃね? あっ、やめっ、売らない! 売らないッス! びでぶっ!」


 それは近くに居る冒険者達だったり、


「これ誰が歌っているんだ?」

「金が取れるレベルだなこりゃ」

「ちょっと見に行ってみようぜ」


 それは近所の鍛冶屋さんや細工士さん達だったり、


 気が付けば、裏庭の広場には大勢の人々が詰め掛けて来ていた。

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