レベル33

 オレは夜が明けると同時に、アポロ達が襲われたという宿屋へ向かった。

 そろそろ朝日も差してきている。

 宿屋の朝は早い。すでに起きだしてきている奴も居るだろう。


 オレはそんな奴らをひっとらえ、ピーなシブなサイトで上位に入った絵心を用いて悪人共の人相絵を完成させる。


 たとえ夜中とはいえ、サヤラの武器は目立つ。

 そんな目立つ武器を持っていればそりゃ目撃談もある。

 そしてソレを持って冒険者ギルドへ。


「ん? 捜索依頼だって、うおっ、結構な額だな。ん? 自分で掲示板に張りたい? ああいいぜ、ちょっと待ってろ書類作るから」


 冒険者ギルドは、ちょうど朝一の依頼を待つ冒険者達でごったがえしている。

 オレは受付の親父から貰った依頼票を持って掲示板の前に立つ。


 そして……


 ――バンッ!


 それを思いっきり叩き付ける。


「捜索依頼だ! 報酬は100万を出す!」


 ドヨッとざわめきがギルド内に起こる。

 世の中、金でなんでも出来たりはしない。だが、金でなんとか出来るものは結構多い。


「昨晩、ラピスのパーティメンバーが襲われた! 13歳の女の子だ!」


 ピクッと何名かの男性が反応する。


「一命はなんとか取りとめたが……顔に、一生消えない傷を残された!」


 ピクッと多くの女性が反応する。


「そしてヤロウ共に朗報だ! 本日中に生きて捕らえて来たならば……一人につき、ラピスの胸を一揉みさせてやろう!」


 ガタガタッて多くの男性が動き出す。

 お金だけでは人は動かない。特に冒険者のような疑い深い奴らはだ。

 だが! その上にほんのちょっと理由を足してやれば……


「いやあ坊主いい演説だな。まるでどっかの腹黒貴族みたいなやり口だな」


 なに言ってんですか、こんな純情ボーイを捕まえて。


「しかし最後のは良かったのか? 後でラピスちゃんにボコボコにされても知らないぞ」


 大丈夫だろう。きっとラピスも分かってくれる……はず……分かって、くれるよね?

 ギルドの受付譲が軽蔑した眼差しをオレに向けてきている。

 やべぇ、徹夜テンションでちょっとやりすぎたかもしれない……


◇◆◇◆◇◆◇◆


「お。おい、なんだよこりゃ! いつもは日和見の冒険者共が!?」

「こっちにもいるぞ! クソッ、あいつら全部ロリコンか!?」

「ひぃ! ヒィイイイ!」

「おい、どうし……まさか、S級のあんたまで……」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 そんなハッパ掛けが功を奏したのか、夕方には全員お縄について差し出される事になった。


「ラピスたん、ハァハァ……」


 しかし、そんな盗賊達を捕らえて来たのは――少々胸が残念そうな一人の女性であった。

 一揉みって言ったのに……一心不乱にラピスの胸を揉んでいる。

 ラピスがエクサリーがごとく、オレの事を人を殺しそうな視線で睨んでくる。


 やばいな、今日はちょっと宿屋で泊まっていったほうがいいかもしれない。


 そして、そんな騒動から数日が過ぎた。


「ほらアポロ、今日はあいつらの裁判の日だよ?」

「特別に城壁の中に入れてもらえるッスよー」


 あの日以来、アポロは一言もしゃべらなくなった。

 オレが部屋に行くと、布団の中に潜り込んで頭すらださない。

 捕られた物は現金が少し減ったぐらいでほぼ戻って来たのだが……やはり顔に傷が残ったのが堪えているようだ。


「やっぱり無理か?」

「まあ別に、あいつらの顔をもう一回見させる必要もないです」


 しかし、今日はせっかく城壁の向こうに入れるんだ。ちょっと寄って見たい所が有るんだがな。


「仕方ない、お前達二人だけでも……」


 そう言った瞬間、ムクリと布団が持ち上がる。


「行けるの? アポロ」


 コクンと頷く。

 久しぶりに見るアポロは、顔に包帯をグルグルと巻き付けていた。


「そうか、じゃあオレは外で待っている。別に急がなくてもいいぞ」


 裁判は別に行かなくてもいい。予定は夕方に入れてある。


「すっかり遅くなっちゃいました。もう裁判終わっちゃってますかね?」


 まあそっちはどうでもいいさ。


「あれ? そっちは指示された方向じゃないッスよ?」


 いいんだよコッチで。

 そろそろちょうどいい時間だ。

 オレ達が向かった場所、そこは――――王都にある大神殿であった。


「スキル開放するんだろ? 予約を入れておいてやった」

「「ええっ!?」」


 オレは受付で料金を手渡す。二人分だ。


「ちょっ、ちょっ、ちょっとクイーズさん! さすがにそれは……!」

「そんなもの受け取れないッス!」

「出してくれたのはおやっさんだ」


 先行投資だろ? って言って渡してくれた。

 二人とも、ポーションのお金を返済する為にお店で下宿しながら働く事になった。

 あの二人スキル持ちかも知れないんだって? じゃあコレ持ってけよ。

 スキルがあったら、おいちゃんの店ももっと繁盛するかもしれないだろ。


 なんて言ってさ。


「店長……」

「親父さん……」


 二人とも涙ぐんでいる。


「期待しているぞ! 最高のスキルを頼む!」

「まかしといてください!」

「了解ッス!」

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