レベル32
「クイーズ、これを……」
ふと見ると、エクサリーがオレに一つの瓶を差し出してくる。
「これは……?」
「最上級ポーション。万が一の為に買って置いたの」
「クイーズにもしもの事があった時の為にってな。おかげで一時、店の蓄えが底を尽きかけたぜ」
そんな、そんな高価な物を……
「元々はクイーズのおかげで買えた物だ。お前の好きにすればいい」
ありがてえ、ありがたすぎて涙が止まらねえや。
最上級ポーションと言えば、コレ一個で豪邸が立つという。
ソレをオレの為に買って置いてくれただなんて。
あの頃はまだ店だってどうなるか分からなかっただろうに。
ありがたくこのポーション使わせてもらうぜ!
この料金はもっともっと店を大きくして倍にして返してみせる!
オレはそれを口に含んでアポロに口移しで飲ませる。
これでなんとか、助かってくれ!
オレ達の祈りが通じたのか、徐々に傷口がふさがり、顔色も良くなっていく。
「先生、どうなんでしょうか?」
「ふう……どうやら持ち直したようですね。さすがは最上級、体の方も健常者と変わりありません。ただ……」
お医者さんはアポロの顔を見つめる。
そこには額から顎まで、斜めに走る傷跡が……
「それでも……それでも命が助かって、ぐすっ、良かったッス」
「クイーズさん、このご恩は一生忘れません! ポーションの代金も、必ず! 必ずお返しいたします!」
オレは二人の頭をグシャグシャって撫でつける。
「二人とも頑張ったな」
「うっ、ぐすっ、……」
「…………ふぇーん・・」
ティニーが、気の強そうなサヤラまでもが、涙を流しながらオレに抱き付いてくる。
後ろで良かった良かったとカシュアまで涙ぐむ。
こいつも頑張ってくれたようで、最後の方は僅かだが手元が輝いていた。
二人は暫くそうして泣いたあと、ポツポツと語ってくる。
どうやら魔石をお金に変えた後、柄の悪い連中に付けられていたらしい。
巻いたと思っていたのだが、宿屋に戻り、アポロが一人になった所を襲われたようだ。
盗賊たちの狙いはあくまで金目の物だったから、アポロも素早く逃げれば良かったのだが、どうやら激しい抵抗をしたらしく斬りつけられてしまった。
騒ぎを聞きつけた宿屋の人達が部屋に入った時にはもう、金品どころか装備まで持っていかれ、後には血まみれで倒れているアポロだけだったと言う。
真夜中な上、無一文になった3人はすがる思いでオレがいる店の戸を叩いたとの事だった。
もしかして、結局の所、今回もオレが悪いんじゃないか?
大金持った女の子達をそのままにして……
やべえ、どんどん借りが溜まっていく……人情の借金地獄やぁ。
「クイーズさん、厚かましいお願いなのですが……武器を貸して頂けませんか?」
「うちにもお願いするッス」
その二人が何かを決意したような顔でそう言ってくる。
……それで一体何をする気だ?
「さっきまで言ってた、ポーションの代金を必ず払うってのは嘘だったのか?」
「……万が一、私達の身に何かあれば、アンデッドとして使役して頂いても構いません」
「もし無事に事が終わったら、クイーズさんの奴隷にしても構わないッス」
そんな物は欲しくない。
お前達は勘違いをしている。
取り戻すものと失う物が天秤につりあって無い事を。
「お前達は、アポロの最後の宝石まで奪ってしまうつもりなのか?」
「えっ、どこに宝石なんて……」
「もううちらには何も残されてないッス」
オレは二人の頭にそれぞれ右手と左手を乗せる。
「あるじゃないかアポロの宝石、それはお前達自身の事だ。どんな金品にも変えられない、どんな高級な装備にだって変えられない。世界でたった一つの宝石」
「私達がアポロの宝石……」
「なあ、お前達にとってアポロはかけがえのない宝石だと思わないか? そしてそれは逆もまた然り」
二人はハッとした表情で互いに見つめあう。
「全ての物を取り戻したとしても、そんな宝石が傷ついてしまっていてはなんにもならないだろう。心に手を当てて考えてみろ、今お前達が怒っているのは、物を取られたからか? アポロを傷つけられたからか? どっちだ」
「どっちも……と言いたい所ですか、正直取られた物はどうでもいいです……」
「ウウッ、クイーズさん! ウチ許せないッス! アポロにこんな消えない傷をつけたあいつらが!」
オレだって同じ思いだ!
こんな事をしでかした奴らを放置するつもりはない。
「でも、衛兵なんてまともに捜査してくれないッスよ!」
「冒険者ギルドに……ダメよね、誰も本気で探してなんて……」
「それはどうかな」
落ち込んでいる二人にオレは不敵に笑いかける。
「オレに任しておけ! あいつらは後悔する、お前達に手を出した事を、アポロを傷つけた事を。そう、すぐにな……」
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