第二章

レベル26

「前方10歩ほど先、落とし穴があるね」

「便利だなあそのスキル」


 お姫様になったカシュアのスキルだが、王子様だった頃のスキルと内容が異なっていた。

 以前は危機察知・極ってスキルで、発動中、自分に対して危機の対象となる事を、恐怖、という感情で通知する物だった。

 これが大層使い勝手の悪い物であって、ほんのちょっとした悪戯心でも、気絶級の恐怖が訪れると言う。


 命が狙われるレベルだと、リアルで心臓が止まりかねないんだと。

 はっきり言って使えない。

 極みさえ付いてなければ結構使えるらしいけど。


 そして、プリンセスナイトになったカシュアのスキルは『未来予見』と言う物に変わっていた。


 発動した瞬間、これから起こりえる未来が早送りで視えるんだと。

 なので、こういったダンジョンで時々スキルを発動してやると、罠などの発見に役立つわけだ。


「以前のように常駐型じゃないから、怪しいと思った場所で発動させなくちゃならないけどね!」


 そんなカシュアを、ちょっと訝しげな目で見ながらラピスが問いかける。


「ちなみに、その罠に落ちていたのは誰ですか?」

「もちろんボクに決まっているじゃないか!」


 それを聞いて頭を抱えるラピス。


「お坊ちゃま、このお方、スキルはともかく、冒険者には向いていないと思われます」


 いや向いているんじゃないか? スキルと合わせてという意味で。

 未来予見、ということは、実際に起こりえた可能性のある未来。

 即ち、罠に引っ掛からなければ罠が有るのは分からない。


 このプリンセス……スキルが無ければ全部の罠に掛かっているな。


 うん、ポジティブにいこう!

 カシュアがドジな所為で全ての罠の場所が分かる。

 うん、もうそれでいいじゃないか!


「いいならいいですけどねえ……」


 カシュアのパラメータ、器用性がどん底なんだよなあ。

 レベルが上がればなんとかなるだろうか?

 そこへ、大型犬並みの大きさをしたネズミ型のモンスターが現れた。


「モンスターが現れました。ほら、行きますよ」

「えっ、ボクが戦うの? えっ、ちょっとまだ心の準備が……」

「いいから、はよ行け」


 ラピスに蹴飛ばされるプリンセス。

 あだ、あだだだだ! かじられてる、かじられてるよ! って涙を流すプリンセス。

 お前の腰の剣は飾りか? とりあえずそれ抜けよ。


「痛い! いたたた、無理ムリムリ!」

「いいから剣を抜きなさい。そしてスキル発動、敵の攻撃が見えたならそこに剣を突き出すのです!」


 ラピスの奴スパルタだな。

 なんとかラピスの指導を受けながらモンスターに攻撃を加えるカシュア。

 その一撃がクリティカルしたようで、サックリと眉間に突き刺さる。


「良くやりました。やれば出来るじゃありませんか」

「えっ、ぼっ、ボクが……倒したの……か……ヒャッハー! キミィ! ほら、ボクだってやれば出来るんだよ!」


 小躍りして、剣を高々と掲げ勝利のポーズをとるプリンセス。

 まるでボスモンスターでも倒したかの騒ぎだ。

 でもそれ、このダンジョンで最弱に近いモンスターだから。


「ほら、次が来ましたよ」

「うむ、任してくれたまえ!」


 ラピスの指示により次のモンスターに向き直るカシュア。

 だがそれは……


「…………ねえ、いきなり、アレはちょっと?」

「いいから、はよ行け」


 いやそれはまずいと思うぞ。

 なんたってそいつ、例のアレがついてるから。

 このプリンセスナイトのカードの備考欄、天敵・オークって書かれていた。

 うん、お約束だね!


「あれ? なんで簡単に鎧が壊れちゃうのかな? あれ、あれれ? ちょっ、やめっ、服を脱がさないでください! イヤーッ! ヤメーッ! なんか硬いの当たっているぅううう!」


『戻れ! プリンセスナイト!』


「なんで戻しちゃうんですか?」

「いや、それはダメだろ? ほら、カードにも書いてるし、オークはそいつの天敵だぞ?」

「はい。ですからその天敵の効果を見るのに、ちょうどいいじゃないですか」


 お前……意外と鬼畜だな。

 もう十分見ただろ? 許してやれよ。

 ほら見てみろ、


「オーク、コワイ、オーク、キケン。ボクモウ、カエル」


 オークを倒して再召喚したカシュア、座り込んでダンジョンの壁とお話ししておいでだ。すっかりトラウマに。


「そうですね、今日はここまでにしましょうか。それじゃあ外に出たらお弁当にしましょう」

「お弁当! うん、そういえばもうお昼だね!」


 お弁当の一言で復活した。

 ラピスの奴、うまい具合に手綱をとっているなあ。


「いやぁ、エクサリー君の弁当はじつに格別である。なんというか愛情に溢れている!」


 外に出て弁当を食べながらそうエクサリー弁を絶賛する。

 確かにエクサリーの料理はうまい! だが愛情って……ま、まあもちろん入っているだろうけどね! このプリンセス、知っていて言ってるのだろうか?


「そういえば、王様になりたい、って言ってたのは吹っ切れたの?」

「王様? そんな事言ってったっけ? ああ、言ってたな。まあなにせ、あの頃は王様にならないと命が危なかったからね!」


 なんでも兄弟に毛嫌いされていたそうな。

 ブクブク太った醜悪な見た目、例の姉の成人式で粗相をやらかした事といい、このまま兄弟の誰かが王位に付くと、王家の恥部という事でどっか遠くで始末されていた可能性大。

 ならば自分が王様になればモウマンタイ。という発想だった……


「そんな発想をしたから命を狙われたのでは?」

「なるほど! 君は頭がいいね!」


 ……このプリンセス、知能も伸ばしたほうがいいな。

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