レベル25 第一章完結

「アレ? どうしたのエクサリー、そんな何人か殺ってきた様な顔して」

「誰も殺ってない」


 夜寝ようとしたら、部屋に枕を抱えたエクサリーが訪れて来た。


「一緒に寝る」


 そう言うとオレの布団に潜り込んで来る。

 えっ、ちょっ、ちょっとエクサリーさん?


「居なくなっちゃ、ヤダ」


 そう言ってギュッと抱きついて来る。

 えっ、なんなのこのかわいい物体!

 ウワッ、ヤバイ、我慢できなくなりそう!


 思わずギュッと抱き返してしまう。


「どこにも、行かないよ」

「ほんとに?」


 上目遣いで見上げてくるエクサリー。

 ズキューンってキタっす。

 もうこのままやっちゃってもいいでしょうか?


「あっ、お坊ちゃまとエクサリーが同衾している」


 そこへピョコンとラピスが登場。

 おまっ、空気読めよ!


「私も入りまーす」


 そう言って逆サイドに入ってくるラピス。

 狭いんだから無理だって!


「ラピスもありがとう」

「えっ?」


 エクサリーがラピスにお礼を言う。


「ラピスが居たから、居てくれたから、こうしてクイーズが無事に帰って来れたの」

「いえ、まあ、そうですけど……」

「それにあの時、躓いて転んだ私に、勇気を与えてくれたのもラピス」


 えっ、なんの話?

 なんでもオレがプロポーズしたみたいになった日、答えも返さず逃げようとして躓いて転んだ時、ラピスから、このまま逃げちゃっていいんですか? じゃあお坊ちゃまは私だけの物ですね、なんて事を言われたとか。

 あの枝でつついていた時、そんな事言っていたのか。


「ありがとうラピス、ありがとうクイーズ、二人が居てくれたから私は……」


 セリフの途中でスウスウと寝息を立て始めるエクサリー。


「きっと、何日もまともに寝て無かったんでしょうね」

「こっちこそありがとうだよ、エクサリー」


 オレはそっとエクサリーの髪をなで付ける。


「ああ、ちくしょう、なんとかエクサリーを幸せにしたいよなあ」


 生まれた時から、ずっと顔が怖いコワイって皆に避け続けられていた。

 親が盗賊だって敬遠されていた事もある。

 本来なら商家の娘として学校に通ったり、もっと商売上の仲間だってたくさん出来ているはずだ。


 だけど、いつだってエクサリーは一人ぼっちだった。


 そんなエクサリーだけど、決して俯かず、努力だけは一人前で。

 毎日顔のマッサージを欠かさない。

 目元もいつだって押さえている。


 子供が近くに来たら、怖がらせないよう顔を隠そうとする。

 お客さんには一生懸命笑顔を見せようとしている。

 前世でも今世でもこんな一生懸命生きている人間は見たこと無い。


「もう十分、幸せになっていると思いますけどね」


 ラピスがエクサリーの頬をつつきながらそう呟く。


「ほら見てください、こんなに幸せそう」


 その寝顔は、どこか微笑んでいるようで、怖い顔なんて影も形も無い。


「ずっとこんな風に微笑んで居られればいいのにな」

「えっ、いいんですか? 皆さんが知ってしまえば、取られちゃいますよぉ?」

「それは困る」


 オレは苦笑いしながらラピスに答える。

 それでも知って欲しいと思う。誰かに、皆に。

 エクサリーはこんなにも可愛いんだって。


「だったら、私にはクイーズしか居ないって言わせるぐらい頑張りませんとね」

「……そうだな」


 その時、エクサリーが、


「私にはクイーズしかいないの」


 そう呟いた。

 えっ、起きてる?

 エクサリーの頬に手を当ててみる。起きている気配は無い。寝言かな……


「クスッ、言われちゃいましたね」

「よし、オレも頑張らないとな。まずは手始めに……ラピスのレベルを40ぐらいまで上げるか」

「ええっ、商売の方頑張りましょうよ」


 何言ってんだお前、もっと知能上げて、前世知識をフル活用しようぜ。

 それにお前、このままだとメタルスライムに抜かれるぞ?

 いいのか? リーダーの権限だって持って行かれるかもしれないぞ。


「むむっ、それは由々しき事態ですね……」


 それから幾ばくかの日々が過ぎた。


「いやー、ここは天国か。ギスギスした宮廷闘争も無い! 料理はうまい! そして、いくら食べて太ってもカードに戻れば元通り!」


 何たるダイエット方を……

 最近食っちゃね、食っちゃねしている王子様もといお姫様である。


「ほら、今日は冒険者登録行くんだろ? 早く用意しろって」

「働きたくないでござるぅうう」


 お前もか!


「いいから行くぞ、自分の食い扶持ぐらい、自分で稼げ!」

「え~」

「え~言うな」


 ちょっと待てラピス、今日はこのプリンセス連れて行ってくれ。


「え~」


 お前までえ~言うな。


「分かった、オレも一緒に行くから。ほら行くぞ」

「「え~」」


 二人してハモんなよ!

 そもそもオレはお前達のご主人様なんだぞ。ちょっとは言う事、聞いてくれよ!

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