レベル7
「それがだねえ、少々まずいことになってしまってね」
「まずいこと?」
おやっさんはため息を付くとラピスの方を見やる。
「どうやら貴族のおえらさんに見初められてしまったようでねえ」
「「ええっ!」」
オレとエクサリーが同時に声を上げる。
いやしかし、妥当といえば妥当かもしれない。
どっからどう見ても、非の打ち所のない美女。
ちょっとばかし変わった耳としっぽが付いていようが、むしろそれがいいと言う感じでもある。
髪は虹色という、非常に珍しい色をしており、それは幸せを呼ぶ、と言われている、アイリスブラッド種のモンスターに通じるものがあり、それだけでも貴族は喜ぶであろう。
オレがもし貴族であり、こんな綺麗なお姉さんが下町の片隅で埋もれていたなら、どんな大金を使ってでも手に入れたいと思うかもしれない。
「でも貴族ってあの壁の中から出て来ないでしょ。どうやってラピスの事を知ったの?」
「そういやそうだな」
この国は、実は非常に危険な場所に作られている。
この国の初代王様も例に漏れず、天啓のスキルの持ち主であった。
だがまあ、よその国を奪うことをよしとせず、モンスターがひしめく、魔境を開拓していったのである。
で、その王様が居る間は良かったのだが、ふと気づけば強力なモンスターに囲まれたど真ん中。
ちょっと街から足を伸ばせば、致死級のトラップがごときモンスターが沸いて出る。
どの街も、高い硬い城壁を作り上げ、有力者どもはそこに篭ってしまいましたとさ。
そういう訳なんで、この国では城壁の外に有る宿場街まで、貴族が降りてくる事はめったにない。
「別に実際に見た訳じゃなくとも、ちょっと毛色の違う女が居るってよ、じゃあ俺ちょっくら呼びつけてみるわ、みたいな感じかも知れん」
「なにそれ、そんな奴らにうちのラピスはあげれないわよ」
その人殺しそうな目つきやめてもらえませんでしょうか。
怖いんでちょっと落ち着いてください。
「別に殺そうなんて思ってないし……」
エクサリーはちょっとショックを受けた表情で、目元をしきりにもんでいる。
「それ断るとまずいんでしょうか?」
「んーどうかなあ、直接言って来た訳じゃないし……とりあえず断っても問題ないんじゃないかな?」
「もしかして商会長から言ってきたんじゃ? それだとそっち方面から圧力かけるぞって意味じゃない?」
なるほど、えげつない真似をなさる。
こんな小さなお店、商会から追い出されれば仕入れすら満足に出来なくなるだろう。
だからと言って、ラピスを差し出すのは問題外だ。
貴族のお手つきなんてなってみろ、例のパンデミックまっしぐら。
1カ月足らずで突然10人以上の子供が出来て……さらにその翌月プラス10人……慌てるだろうなぁ、ちょっと見てみたい気分も、いやいやダメだ駄目だ。
うちのラピスはあげられません!
「事情を説明してみる?」
「それはダメッ!」
突然声を荒げるエクサリー。
「あっ、その……クイーズのスキルはとっても特殊だから……それこそクイーズが……」
なんだか赤くなって俯くエクサリー。
そんなエクサリーの頭を、ポンポンと軽く叩きながらおやっさんが言ってくる。
「そのスキルはあまり人に言わないほうがいい気がするぞ。なんとなくだけどな」
そうなのかな? オレの故郷ではゴミスキルだの、たったそれだけで何が出来るだの、さんざんな言われようだったんだが。
個人的には神スキルだとは思っているがな!
「しかしまいったな、商会には結構な借金もあるし、今すぐ耳を揃えて返せって言われるとどうしようもない」
「なんで借金が?」
「ああ、前に事業に失敗した時にな」
そういや最初の頃に、昔はそこそこ大きい商団を率いていたとか言ってたな。
それで色々やらかして、今のように小さなお店まで落ちぶれたとか。
最悪、オレとラピスがここを出て行くしか手がないのかも知れない。
とはいえ、オレの所有権はおやっさんが握っているから、勝手に出て行くと逃亡奴隷になり、捕まったら鉱山行きだ。
それとなくおやっさんに相談してみるか。
エクサリーの居るとこではちょっと……今も心配そうな目つきでこちらをチラチラ見ている。そんな事言ったら即効反対されそうな感じだ。
などと悩みながらラピスと二人っきりになった夜、
「その全てを解決する方法を、このラピスが提案致します」
それまで無言を貫いていたラピスが突然立ち上がって発言する。
「ようは、お金があれば全て解決するのでしょう?」
「いやまあ……その通りかもしれないが」
そのお金がないのよ?
そんなラピス、それがどうしたかという態度でこう言う。
「なければ稼げば良いのでしょう」
その通りだよ? いやその通りなんだけどね? あっ、なんか嫌な予感がしてきた。
「ちょうどいいものが、通りに張り出されているじゃありませんか!」
「えっ!?」
通りに張り出されているもの……えっ、もしかしてアレ!? えっ、アレは無理だろう? いやいやほんと無理ですよ?
その通りに張り出されて居るものは……
『ドラゴン討伐隊大募集!!』
であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます