レベル8

 しかもその討伐隊、胡散臭いのなんのって。

 『生存』して帰って来るだけで、数年は遊んで暮らせそうな大金をくれるとか。

 その上、恩赦ってのが付いてきて、犯罪者でも奴隷でも、誰でも参加出来る上、無事に討伐し終わった折には、犯罪者なら無罪放免、奴隷なら奴隷解放、など。


 これどう見ても……死兵だろう。


 どうせ囮か何かに使われて、生きて帰れる事がまずない、そんな作戦に使われる事請け合い。

 これに応募する奴は、よっぽど切羽詰っているか、人生に絶望しているかぐらいじゃなかろうか。


「なんでもこのドラゴン、山ほどある大きさで、いくつかの村と、そこそこ大きな街を壊滅状態にしたとか」


 ますます無理だろう。


「このままではここ王都まで攻め入られるのも時間の問題、とばかりに奮起した国軍が、大打撃を与え渓谷まで追い詰めたものの」


 狭い谷底に逃げ込められ、なかなか決定的な打撃を与えられないんだと。

 左右は高い崖で上からの攻撃は意味を成さない。

 谷底には、どこからかダンジョンに繋がっているようで、餌となるモンスターには事欠かない。


 討伐には正面切ってドラゴンに挑むしかないのだが、ブレスを吐かれると狭い通路、逃げ場がない。


「なんでそんなに詳しいんだよ?」

「冒険者ギルドでたくさん話を聞きましたので」

「………………」


 お前、なんでそんなとこ入り浸っているのよ?

 ダメだって言っただろ?


「お坊ちゃまがダメだって言ってるのは、パーティメンバーが私を襲う可能性があるからでしょう」


 ならば、ギルドに入り浸り、信頼できるメンバーを集めれば何も問題はありません。

 なんなら、女性のみのパーティを組むのもいいかも知れません。

 それには情報収集は欠かせないのです。


 などと力説する。


「冒険者になれば、今まで普通に狩っていたモンスターがお金に代えられるんですよ! 同じ事をして、同じモンスターを倒して、方や唯のお肉、方や討伐依頼でガッポガッポ!」


 いや、ガッポガッポはどうかと思うぞ。

 冒険者さん達も生活は苦しそうだし。


「それでも今の私の実力なら、かなりの所までいけると思うんですよ! それに! このままではお坊ちゃまのスキルも宝の持ち腐れです!」

「ああ、うん、話が逸れるから、そこのところは今度な」

「絶対ですよ! 約束ですからね!」


 それでその死兵に応募してどうするんだ?

 まさかお前がゾンビアタックするなんて言うのか?


「えっ、何言っているんですか、参加するのはお坊ちゃまですよ」

「えっ!」


 それこそ何言ってるのぉおお! 無理だろぉおお!


「まあまあ落ち着いてください」


 そう言うと、指を一本立ててズズイっとオレに顔を近づけてくる。


「お坊ちゃまのスキルの性質をもう一度思い出してください」


 ふむ、オレのスキルとな。

 オレのスキルは『モンスターカード』弱ったモンスターをカードに取り込み、使役する事が出来るスキルだ。


「そう『弱った』モンスターをカードに取り込む、事が可能なのですよ」


 そして、と続けるラピス。


「その『弱った』部分はすでに、国の兵士がやってくれています!」

「なるほどぅ!」


 いやお前、それ、手柄の横取りじゃね?


「全然違いますよ。お坊ちゃまはただ『止め』を刺しただけです」


 うまいことを言う。

 ちょっと知能を上げすぎたのだろうか。

 しかしそれ、お国の兵士は納得するのだろうか?


 だが、そんな思いは杞憂だったようだ。


「は? 討伐してもいいのか、だって? ぷっ、ぐははっ、ぐはははっ!」


 などと、大笑いする総大将さん。

 やはり集まった討伐隊、死兵だったようで、ドラゴンへの一番やりを任される大任だとよ。

 即ち、ドラゴンのブレスを真っ先に受ける部隊だ。


 今のとこ死亡率は100%らしい。

 これまでに何度か特攻を駆けたようなのだが、最初の部隊はブレスをもろに食らう事もあり、まず生き残れなかったようです。


「いいぞいいぞ、やれるものならな! がっはっは!」


 この総大将、犯罪者や奴隷を死兵に募集するだけあって、なかなかいい性格をしているご様子。

 決死の覚悟で集まったオレ達を前にして、


「ここまで来た以上、脱走は犯罪だ。逃げようとする者には容赦はしない。まあ精々、うまく生き延びる事だな」


 なんて言う。

 態々死亡率100%とか言わなきゃいいのに。皆さん、顔を青くしてブルブル震えておいでだ。

 これじゃあ士気も下がって役に立たないだろうに。

 あっ、もしかして、万が一オレ達が倒してしまわないように保険を掛けているのか?


 そこで確認の為に、オレ達がドラゴン倒したら、討伐報酬とか素材とかどうなるのか聞いたのだった。


「くっくっく、あのドラゴンを倒すとか、笑えるにも程がある。いいだろう、止めを刺した者にはそれ相応の報酬をやろう」


 それはいい話を聞いた。

 オレがあのドラゴンをゲットしたら、討伐報酬はともかく、素材は渡せないからな。


「それじゃあ、一人で倒してしまったら、素材はすべて独り占め、でいいんですかね」


 しかし、念を押しとかないとな。

 後で出せ、と言われても困る。

 それを聞いてふと真顔に戻る総大将さん。


「お前は私をからかっているのか? そこまで言うなら今すぐ行って倒して来い。そうすれば、討伐報酬も素材も全部お前のものだ」

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