レベル6

「今日はやけに豪勢ですね」


 本日の夕食は、特に豪勢な物が用意されていた。

 おやっさんはオレが奴隷だからといって、特別粗末な対応を取る事はなかった。

 むしろ、娘さんと同じように扱ってくれている。ありがたいものだ。


 まあ、店の運営がオレとラピスのおかげで、グンと上向いた所為もあるのかもしれないが。


 オレは、ここぞとばかりに前世知識を総動員して、店の売り上げに貢献する事にしたのだ。

 まずはなにはともあれ看板だ。

 お店にとって最も大事なのは視認性。

 ここがお店でありますよーってのを、知ってもらうのが第一なのである。


 それも唯知ってもらうだけじゃダメだ。

 何を売っているか。この店に行けば何が手に入るか。それが重要である。

 そしてこの辺り、識字率が思ったより高くない。

 即ち、字が読めない人がそこそこ居たりするのだ。


 それなのに、ごちゃごちゃ字を書いてもしょうがない!


 先行投資だ、なんて言って、おやっさんにたっかい絵の具を購入させ、オレの前世で培った、ピーなシブなサイトで上位に入った事もある絵心を、遺憾なく発揮させてもらったのである。

 しかしおやっさん、奴隷の言う事なのに良く信じるな。

 ここでもおやっさんの商才のなさが(言い意味で)発揮されたのであった。


 そして認知をしてもらった後は差別化。

 他とは違うゼってのを見せ付けなければならない。

 おやっさんの扱っている商品は、


 ・薬草、ポーションなどの冒険者向け。

 ・日用雑貨などの一般家庭向け。

 ・アクセサリーなどのちょっと裕福なお方向け。


 の3点がメイン。売ってる物はどこにでも有る物ばかり、だとすれば、サービスで差をつけるしかない。


 そこでだ、サービスディ、などと言うものをやってみる事にした。

 何日か置きに、目玉品を設定し、それを安く売るっていうやつだな。

 なに? そんなの誰でも思いつくだろだって? 確かに、その通りだ。誰だって思いつく、誰だってやっている。

 だが、そんな限定サービス、どうやって告知する。

 ネットも新聞も無いこの時代、日替わりサービスなんてどうやってお客さんに伝える。


 知ってもらわなければ、やっている意味はない!

 そこでだ! ペッペケペー! こ、く、ば、ん~!

 おやっさんの扱っている商品で黒板と色チョークが有る。

 そう、これを商売で利用させてもらうのだ!


 黒板やチョークは正直、あまり売れていない商品だ。

 ちょっと裕福な子供が居る家庭が、字の練習用に買っていくぐらいだ。

 だか、チョークは原価が意外に安い。

 そんなに材料を必要としないし、加工も容易だからだ。


 黒板を玄関に立てかけ、オレの、ピーなシブなサイトで上位に入った事もある絵心を用いて本日の目玉を描く。

 チョークならさっとひと拭きで消せることが出来る。

 まさしく、日替わり公告にもってこいの看板でござる。


 しかも、コレを始めた事により副次的な売り上げもあった。

 なんと! 黒板とチョークがバカ売れし始めたのだ。


 とりあえず、オレの真似を始めるお店が続出した。

 それで結構チョークが捌けるようになり、価格が下がり始めた。

 そうなると裕福じゃない家庭も、文字を覚えさせたいと欲が出始める。

 それに、別に字じゃなくても絵が書ける。


 オレがこうやって絵を前面に押し出したことにより、絵だって十分な収入源になるんじゃないか。

 なんて考える人もでてきた。

 文字は難しくても、絵ぐらいなら……なんて軽い気持ちで買って行かれるお方が続出。

 子供達も絵を描くのなら楽しんで勉強が出来る。


 そこで、ちょろっとお絵かき教室なんてやってみたら……売れるわ、売れるわ。

 それになぜか、その黒板とチョーク、ほとんどの人がうちのお店に買いに来る。

 これがブランドと言う奴なのだろうか。

 一時チョークの在庫が尽きかけたりするほどだ。


 だが、どんないい商品を作って、どんないいサービスをしたって、売るのは人だ。

 人が良くなければ当然、物も売れない。

 仏頂面のエクサリーだけでは問題がある。


 そこで、見た目だけなら、ちょっとそこらじゃあ太刀打ち出来ないラピスの登場である。


 しかし、ラピスだけだと問題が発生した。

 お客が店に溢れすぎたのだった。主にヤロウどもが。

 一日中ラピス目当てに店に居座る始末。普通に営業妨害じゃね?


 なので、ラピスとエクサリーは必ずセットで受付をするようになった。

 まだまだ子供なのにエクサリーさん、しっかりなさっていらっしゃいますから。


「あ~なんだ、クイーズにちょっとばかし相談があってな」


 そんな豪勢な料理を前にして、オレに話しかけてくるおやっさん。

 なぜかエクサリーを横目でチラチラ見ている。


「その、なんだ、店も結構繁盛してきただろ? そこでだな、少々拡張してみようと思うんだが」


 ふむふむ。


「それにはだな、人員がだな。そのな、出来れば若い女の子がな、いいと思うんだがな」


 おやっさんはエクサリーの方を恐る恐る見ながらそう言ってくる。

 なるほど! 分かりましたぞ!


「ラピスのようなエロい子がもう一人欲しいと!」

「こっ、コラ、声がデケエ!」


 その時、ガツンと机から鈍い音が響く。

 オレ達は二人してこっそりエクサリーさんのご様子を見やる。


「普通に求人すれば?」


 そうですよね、そりゃそうですよね。

 でもほら、オレのカードだと、色々便利じゃありません? 人件費も浮きまっせ?


「ラピスがいれば十分でしょ?」


 取り付く島もありませんでした。

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