レベル5
衝撃の、バニーさんペロペロ事件から2年の月日が過ぎた。
「お坊ちゃま、もうこの付近にはモンスターは存在しないようです」
しなやかな体つきをした、戦士風の美女がオレにそう言ってくる。
「よし、それじゃあ今日はもう帰ろうか」
「はい、了解いたしました」
その美女の頭からは、ピョコンと長い耳が2本飛び出している。
髪は良く目立つ、虹のように様々な色合いをしている。
誰であろうその美女は、例のウサギさんの成れの果てであった。
カードに捕らわれたモンスターにはレベルが存在している。
オレが始めてゲットしたモンスター、そのカードに書かれていた情報では、
表のタイトルらしき場所に、
『ラピス・オブ・アイリスブラッド』
たぶん名前だ。
その下に、
☆7・レベル1
と表示されていた。たぶんカードのレアリティとモンスターのレベルだろう。
裏面には、知力・腕力などのパラメータがゲージとして表示され、その下にスキル欄がある。
結構空白が多いので、レベルが上がるにつれ情報が増えると見た。
なので、ゲットした翌日から早速、ラピスを連れて周辺のモンスター退治に出かける事にしたのだ。
お店の方は裏方だから24時間付いておく必要もない。
基本、商品を仕入れた時か、店が終わってからが本番だ。
で、空いた時間を用いてラピスのレベル上げでござる。
なんせ早急に上げる必要がある。
受付に座ったエクサリーさん、やはり超不興らしく、お客がほとんど寄り付かなくなった。
14歳だというのにあの迫力、唯者じゃねえ。
本人は至極真面目なので、オレもおやっさんも強くは言えない。
ラピスでも隣に座っていればそれも緩和が出来るのだが、いかんせん会話が成り立たないのでは役に立たない。
なのでオレは、レベルアップした時のボーナスポイントをすべて知能にぶち込んだ。
レベル5辺りで日常会話が可能になり、レベル10現在では、少々の計算まで可能なレベルに上達した。
しかし、
「レベル上がらなくなったなあ……」
そうなのだ。
レベル5ぐらいは3ヶ月程度ですぐに上がったのだが、レベルが上がるにつれてどんどん上がりにくくなり、2年経った現在でもやっと10レベル。
「草原じゃここらが限界かもしれないなぁ」
「ですから言ってるじゃありませんか、私が冒険者登録をし、パーティでも組んで森やダンジョンに行けばいいと」
いや、危ないだろ?
「どうしてですか! 危ない事なんてどこにあるんですか!? 万が一、危険な場面に出くわしても、カードに戻れば一瞬にしてお坊ちゃまの元に帰って来られるのですよ」
ここでモンスターカードの仕様を説明しよう。
オレがカードから召還したモンスター、基本、時間制限はなさそうだ。
ラピスとかもう1年ぐらいカードから出っ放しである。
そして、オレの意思でも、本人の意思でも、いつでもカードに戻る事が可能だ。
即ち、どんなに遠くに離れていても、ラピスをカードに戻せば、一瞬にて手元に引き寄せることが出来るのだった。
次にダメージだ。
モンスター自身が受けたダメージ、まあ所謂、怪我とか病気になった場合にだ。
モンスターカードに戻すと自動で回復する。なんて便利。
怪我によって回復する時間が変わるが、ラピスが無茶して大怪我負った時でも、一週間くらいで治っていた。
もしかしたら、即死ダメージを食らっても、カードに戻るだけかもしれない。
そしてどうやら寿命がなくなる。
カードに戻して再召還すれば、見た目も装備もリセットされる。
知識は継続されるので、はっきり言ってこのスキル、とんでもない性能だと思わなくはない。
オレさえ無事であれば、モンスターにとっては不老不死になれる、という神性能だ。
そういや前世のマンガで、魂を差し出せば不老不死になれる、なんてのがあったなあ。
なんとなくそれに近い感じかも知れない。
ん、待てよ、確かそのマンガ、魂を差し出して不老不死にしてもらった後、主を拉致監禁して……
「私の顔に何か付いていますか?」
「ああ、うん、信じているからな」
「???」
これはヤバイ、モンスターカードでゲットするモンスター、良く考えて選んだほうがいい。
下手に知能の高いモンスターなんかゲットしたら、オレが監禁されていいように使われるかもしれない。
「そんな事よりどうですか! もう草原で戦っても得るものはありません! それに冒険者になれば……」
ラピスが力説してくる。
そんなラピス、瞳の中に$マークが浮かんでいる気がする。
「お金を、お金を今以上に稼げるのですよ!」
ああ、うん。
お店の為にとにかく知能上げすぎた。
エクサリーもラピスに対し、お金の重要性をコンコンと言って聞かせている。
エクサリーがどんなに頑張ってもお客が寄り付かないのに、ラピスが受付に入るだけで大入りになるもんだから、ちょっとばっかりやっかみも入っているかもしれない。
そんなラピスさん、すっかり守銭奴のような状態に。
「私と坊ちゃまの将来の為にも! もっともっとお金を稼いでおきたいのです!」
また不穏なセリフを……お前、自分のスキル理解しているか。アレはパンデミックもんだぞ。
「命に係わらずともな、冒険者ってのはならず者が多い。万が一、睡眠薬とかで眠らされでもしたら……」
なんせ見た目は絶世の美女。
少々犯罪に走ってでも、なんて考える男連中が後をたたない。
隣にエクサリーが居なければどんな事になっていたか、なんて事も多数あった。
うん、あの二人、一緒に居れば意外にバランスが取れているのかもしれない。
そして万が一、そんな事になった場合に怖いスキルをこいつは持っている。
そのスキルの名も『超繁殖』。
このスキルについて調べてみた。
まず第一に、避妊が利かない。どんな避妊をしようがしまいが、百発百中。
次に繁殖力。その種族が持つ、最大のスピードと数を最大限引き出すそうな。
そしてラピスの種族。こんな見た目でもウサギでござる。
ウサギの繁殖力を知っていますか?
一回の出産で10匹以上、
妊娠期間は1カ月。しかも、だ、出産前に次の妊娠が可能というトンでも性能。
そしてウサギに発情期はない。というより年中発情期なのである。
哺乳類の中でも、最も高い繁殖力を持つといっても過言ではない。
1年で100匹、そしてその子がさらに年間100匹。おお、数年で国が出来るな。笑えねえ。
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