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 少女は、ごく普通の家庭に生まれました。両親は共働きで、少女はいつも家に一人でした。両親とは時たま顔を合わせることがあっても、そこに会話はなどはありません。二つのスーツ姿はいつもどこかへと消え、少女はその行先を知りませんでした。

 少女はいつも考えていました。どうしたら、この退屈極まりない日常を変えられるのか。

ある日、食事を摂りませんでした。

特に変化はありません。

ある日、学校を無断欠席してみました。

特に変化はありません。

ある日、家に帰りませんでした。

特に変化はありません。

 そうしてまたある日、少女は家出をしようと思い立ちました。

電車に乗り、とりあえず終点まで行ってみます。人ひとりおらず、自然だけがのびのびと生きる田舎。何処へゆくでもなく歩き回り、やがて黄金色の咲き誇る岬を見つけました。その先端から泡立つ岩肌を覗きながら、ふと、少女は思ったのです。

 ここから飛び降りてみたら、この退屈な日常は変わるかしら、と。

 何をしても自分に興味を示さない両親が、何かしら反応を示すんじゃないかと。学校へ行っても生まれ持った色素の薄さ故に少女に話しかける者は居ませんでした。誰に迷惑をかけることもありません。

 ふと、空を見上げてみました。透き通るほどの蒼さと重量感のある入道雲。あぁ、綺麗だなとそんなことを思いました。

ふわり。

少女の記憶は、それきりでした。

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