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 冷たい。身体の裏側はなんとも言えぬ揺らぎを感じ、表側は湿り気と蒸気、そしてじりじりと焼けるような空気を纏っている。手に伝う感触は些か心地悪く、指先にまとわりこびりつく。

 俺は何をしている。若草色の地面、深い藍の視界、目まぐるしく移り変わる白と黒、今までに体感したことのない、衝撃波。なんとなく、眩しい気はする。何故だか瞼は閉じたままだが。

 いや、違う。瞼が重い。異常な程に。瞼だけでなく身体中が、上手く動かせない。

なんだ? 俺はどうしたんだ?

 ひやり、額に何かが触れた。髪の生え際から眉間程までを伝う、冷感。

「ねぇ、今どんな気分? 」

 頭上から透き通った言葉が聞こえる。

「え」

 薄ら目を開くと、整った顔立ちが映った。

 真白い肌と色素の薄い猫毛の髪。長い簾まつげと、ヘーゼルという言葉をそのまま垂らしたような淡い瞳。柔らかな薄紅の唇が、深紅のリボンの合間からちらちらと見えた。

少女が、丁度正座のような体勢で俺の顔を覗き込んでいるのか。

「今、どんな気分って聞いてるんだけど」

 これは現実だろうか。変わり映えのしない灰色の日常。面白みのない人間達との日常。ひたすらに人格を否定され続ける日常。そういったつまらない人生が、俺の生きる世界だったはずだ。

だが、この状況は何だ?

何故、少女が俺を覗き込んでいる?

「君、何で……」

「オジサン、人の質問に答える気無いでしょう」

 はぁ、と軽いため息を漏らし、少女は目を閉じた。

「ある所に、一人の少女がいました」

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