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「でもね、気づいたの。自分一人が死んだところで、やっぱり何も変わらないって。両親は厄介事が無くなって離婚して、学校からは名前が消えただけだった」
微笑む少女は一体何処を見ているのだろう。華奢な体躯を包む制服がはたはたと揺らめく。……制服?
俺が知っているこの制服は、祖母が着ていた時代のものだ。それが、今でもずっと?
「君、一体……」
「ねぇオジサン。自分のために死ぬのは、そんなに悪いことかな」
俺の言葉を遮り、話し続ける。
「私は、誰にも見てもらえない事が悲しくて飛び降りたんだと思ってた。でも違った。私は、今までの十数年を簡単に捨てられるほど、自らを愛せない自分に絶望したんだよ。死んでみて、初めてわかった」
「……」
額に置かれた手が微かに動く。
「過去の自分のために、今の自分を殺す?いいじゃん。その選択が出来るくらいには、あなたはまだあなたを愛してる。それはとても素敵なことなんだよ」
「なぁ、俺は」
「自分を愛せるうちは、まだこっちに来ちゃだめ。それさえあれば、あなたにはまだ未来が残ってる。」
人の体温にしては冷たすぎるそれは、俺をすっかり正気に戻していた。身体の節々がズキズキと痛む。
「……そんな、勝手なこと言うなよ。俺の未来がどうだとか、そんな適当なことばっか。なんの確証もないのにさ」
「絶対に死ぬ確証もなければ、死なない確証もないよ。そんな運命が決まってるなんて、冗談じゃないと思わない? 」
「はは。なんだそれ。意味わかんねぇ……」
視界がぼやけて、崩れ落ちた。
「ねぇオジサン
あなた、実はけっこう素敵だよ」
波の音だけが鼓膜にこだました。
火照る身体と顬に流れる水滴と、聞き覚えのあるサイレン。足音が近づいてくる。
俺は静かに、意識を手放した。
月曜日のサボタージュ 霜徒然 @shimonagi_1129
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