水着回 【休日編】

 波の音、うだるような暑さ、強い日差し。そしてはちきれんばかりの肉体を包むわずかな布。

「そう!水着回!」

 婚約者のユカはドヤ顔でそう言った。ビタミンカラーのビキニは、ところどころユカの柔らかい部分に食い込んでいる。腰元のリボン結びがスリルを演出し、心拍数を高める。

「…………」

 私は黙って充電器に繋がれたスマートフォンから再生される『自然音「波の音」』を止めた。それからリモコンを持ち上げてクーラーをつける。

「ちょ、ちょっと!なにするの!」

「それはこっちのセリフだよ。水着はプールか海で着るもので、寝室で着るものではない」

 それを聞いたユカは上目遣いで睨みながら頬を膨らませた。

「それは海なりプールなりに連れて行ってくれる人のセリフだよ」

「仕方ないだろ。今月は何かと立て込んでるんだから」

 反論に困りながらも私は答えた。

「とにかく服を着てくれ。ベッドで水着でいられると、その……なんか変な気分になる」

 その言葉にユカは目を丸くして、それからニンマリと笑った。

「べつにぃ?私としては君には存分に『変な気持ち』になってもらいたいんだけどなぁ〜」

 そう言いながらユカがくねくねとポーズをとる。全身を伸ばして誘うようなポーズ、お尻を突き出してねだるようなポーズ。思わず赤面しながら後ろを向く。背後から含み笑いが聞こえて、ユカの手が私の腕をすーっとなぞる。

「気分だけでも、ビーチを満喫しよ?ね?」

 耳元で囁きながらユカがエアコンのリモコンを何かとすり替えた。見ると……サンオイルのボトルだった。振り返るとユカはもう離れていて、エアコンをピッと切っていた。それからベッドにうつ伏せになる。

「さぁ!塗ってもらおうじゃないか!」

 私は深いため息をついた。これは、あれだろう?どれだけ私がやらないと言っても最終的に押し切られるやつだ。諦めて、どうにか平静を保ちながらユカの隣に座る。

「あ。水着の下は触っちゃダメだからね?」

「誰が触るか!!」

 反射的に大声を上げたあと、深呼吸をして落ち着きを取り戻す。大丈夫だ。落ち着いてこなせば簡単なミッションだ。この、白くて滑らかで、華奢でしなやかで、ところどころ骨の浮いている見惚れるような背中だって、これまで何度も見てきたのだから。ボトルを振ってサンオイルを手に取る。肩の辺りからオイルを塗り広げていく。

「んっ、ぁっ」

 君が小さく喘ぎ声を漏らす。理性をフル稼働させながら手を滑り下ろしていく。

 そして私は水着のエッジギリギリのところまで塗り終わった。お尻の柔らかさにトびかけたが、どうにか踏みとどまった。

「終わったよ」

 見返すと、オイルを塗られた背中にはツヤがでていて、エッチだ。

「ふふっよく頑張ったね」

 そう笑いながらユカは仰向けになった。

「次はこっち側ね?」

 え?

「水着の下は、触っちゃダメだからね?」

 いやいやいやいや!だってそれは

「……自分で……塗れるんじゃ?」

「ん〜〜?」

 ん〜、じゃないその可愛い顔と声で圧をかけてくるな。心臓のビートが加速する。ええい、ままよ。

「じゃあ、塗るからな?」

 覆い被さるような体勢になり鎖骨に触れる。笑いを噛み殺したようなユカと目が合う。思わず下を向くと至近距離にユカの胸が。ワオ。前門の虎後門の狼。だが、そんなことを言っている場合ではない。心拍数さえ分かりそうなここより下には、ユカの豊かな膨らみが待ち構えている。谷間に指を滑りこませる。ああぁああぁぁぁーー!!たゆんて、たゆんてする!幸せの感触がする。外周部に指をすべらせる。ユカの息が荒くなる。つられて俺の息も荒く、熱くなる。

「頑張ってるね。えらい、えらいよ」

 そう言いながらユカが後頭部を優しく撫でる。もう訳がわからなくて泣きそうになる。下乳まで塗り終わって、大きく息を吐きながら鳩尾あたりに手を滑らせる。頭がふらふらする。肌の下の肋骨を感じる。腹筋が綺麗な筋を作っている。

「君に見られても恥ずかしくないように、ダイエット頑張ったんだよ?」

 そんな声が降ってくる。俺は筋肉に沿わせるように手を動かす。おへそ、下腹、赤ちゃんの部屋、、あとは、ふともも……

 ばたん

「ちょっと!そんなところに急に顔突っ込んでくるのはさすがに——」


 痛い、冷たい、とにかくいろんなものが刺すような感覚に目を覚ます。目を開けると、大きな二つの山が目に入った。

「軽い熱中症と、貧血だと思う。ごめん、はしゃぎすぎちゃったみたい」

 山の向こうからユカの申し訳なさそうな顔が覗いた。どうやら、私は気を失っていたらしい。両腋に氷水を詰めた袋が乗せられている。それから、頭がとても気持ちいいものに乗っていることに気づいた。

「ひざまくっ」

「まだ動かないで」

 身体を起こそうとした私の額をユカが押さえる。そんなこと言っても水着で膝枕とかすごいことになってるし、目を閉じても開けても目に焼き付いた絶景は消えてくれないし、気持ちよくて、幸せで、ああ、なんて地獄のような楽園だろう。

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