そして、お風呂 【後日編】

「ふろいで しゅーなー ぐーたーふんけん とふたーあうふ いりゅじうん」

 お風呂に入っているからというわけではないけれどそんな鼻歌を歌いながら髪を洗っていた。それくらい私は浮かれていた。

「ユカ」

 扉の向こう、脱衣所から婚約者の、いや、私の夫の、そう私の夫の君が声をかける。

「ん、なに?」

 歌を中断して訊ねる。

「入るよ」

 返答を待たずに浴室のドアが開いた。

「ルートヴィッヒ!?」

 高名な作曲家の名前は今は関係ない。単なる無意味な奇声だ。突然の事態に驚いた私は、結露した鏡に背中と両手のひらをつけて凍りついた。

「な、な、ななな」

 君はそんな私の反応を見て、満足そうに少し口角を上げた。それから少し視線を下ろして

「……やっぱりおっきいね」

 そう言った。

「なんで入ってきてるんですか!!?」

 我に返って私は叫んだ。おっきいと言われたものを両腕でかばって背を向けたけれど、そうするとこんどはおしりが見えてしまう。

「新婚なんだし、一緒にお風呂に入りたかったからかな」

 かな、じゃない。

「かな、じゃないよ」

「いいでしょ、夫婦なんだし。それにもうお互い裸で恥ずかしがることもないでしょ」

「いや恥ずかしいよ!!現に自分はタオル巻いてるじゃん!」

 そう、君は裸じゃなかった。白いフェイスタオルを巻いている。でなければ、ここまでの余裕はないだろう。かなり大きくテント状になってはいるけれど。

「外した方が、いいかな?」

 そう言って君は腰に手を当てて、結び目に指を……

「取らないでくださいお願いします!!」

 間違いなく襲われる。それに、こんなものモロで出したらカクヨムの運営に怒られてしまう。

「それがわかってるなら結構」

 そう言ってパッとタオルから手を離した。

「それで?私もう上がろうか?ずっと立ちっぱなしっていうのも辛いだろうし」

「ん?べつに座るけど?いや、そうじゃなくてさ……」

 君が続ける。

「この間はずいぶん気に入ってくれてたみたいだし、背中をながしてあげようかなって」

 私は直感した。これは、やばい。

「い、いいねそれ!また今度ね!」

 そう言って私は君とすれ違ってドアに手をかける。

「いや、シャンプーは流した方がいい」

 そう言って君は話のお腹あたりを抱きしめるようにして私を捕まえた。何気ない言葉とは裏腹に、自分の手首をがっちりと握って逃がさないように。というか……当たってる当たってる!硬くて熱くて大きいものが私のお尻に当たってるから!!

「……例え夫婦でも合意のないエッチはレイプだからね?」

 私は振り向きながら震える声で釘を刺した。

「お、よくわかってるね。大丈夫、がんばるから」

 がんばるって、何?がんばるって何!?


 そうして、押し切られる形で私はお風呂椅子に座っている。緊張で身体を強張らせながら。心臓がうるさいくらいにバクバクいっているのも緊張のせいだ。期待してるわけではない。断じてない!

 君は両手を擦り合わせてボディーソープの泡を作っていた。ナイロンタオルもあるのだけれど、手で洗うつもりらしい。

「じゃあ、洗うね」

 そう言って君は、私の首の後ろに泡をつけた。手を滑らせて洗っていく。首から、肩。優しい手つきに心臓が落ち着きを取り戻す。どうやら考えすぎだったようだ。

「手、伸ばして」

 私は言われるままに右手を上げた。君の手が、繰り返し円を描くようにして滑っていく。腕が終わると、君の手は背中に移った。誰かに身体を洗ってもらうのは、なんとも贅沢な体験だ。私はしばし、その心地よさに身を委ねた。

「少し腰あげて」

 洗っている箇所が腰にきた辺りで君がそう言うので私はバスタブのへりに手をついて立ち上がった。君の手が、私のお尻を揉みしだきながら擦る。ゾクゾクゾクッという感覚が背筋を走る。

「そこは、ちがうよ……」

「ごめん、よくわからないや」

 そう言って君ははぐらかす。君の手はそこで止まらずに、前へ滑って来た。

「前は自分で洗えるからぁ!」

「そうかもね。でも、こっちの方がもっと気持ちいいよ」

 君が耳元で囁く。やっぱりそのつもりだったんだ。私は今エッチなことをされてるんだ。その間、君の手は私のおっぱいを洗っていた。大きな円を描くように、乳房の外周をなぞるように、触れるか触れないかくらいの力加減で。

「んっ!んっ!」

 気持ちいい。でも、まだ乳首には触れない。もうすぐ乳首にくると思う。あと一周したらくると思う。早く乳首。早く。早く乳首責めて。そして、君の手のひらが乳首を撫でた。

「ああぁっ!あぁあーっ!!」

 私は身悶えながら喘いだ。君の手のひらが乳房全体を撫でる。指が乳輪をなぞる。指先が乳首を転がす。親指と中指で乳首を擦る。

「ああっん!やぁんっ!」

 これだけで終わるはずがなかった。君の手はお腹まで降りて、優しく擦る。下腹部、鼠蹊部。リンパの流れを良くするようにぎゅっ、ぎゅうと押さえながら、一番いけないところに近づいてくる。

「そこは……ダメ……」

 今そこを擦られたら、すぐに絶頂してしまう。君の手は、鼠蹊部からふとももに流れていった。内腿が擦られてビクッとする。自分でダメと言ったのに、一番いけないところを、一番気持ちいいところを素通りされたことに落胆のようなものを感じていた。

 君は前に来てふくらはぎを揉むようにして洗う。脚を閉じていられない私は羞恥に顔を背けながらただ快感に耐えた。

 君が爪先まで洗い終わる。全身くまなく綺麗にされて、気持ちよくされてしまった。

「ユカ」

 さっきまでひざまずいていた君の声が、目の前から聞こえた。私は顔をあげる。

「大好きだよ」

 そう言って、君は私にキスをした。強く抱きしめながら。全身に蓄積されていた快感が一気に解放される。君の身体と正面から触れ合って、ぎゅうっと強く抱きしめられて、身体中が泡でぬるぬるになっていて、まるで君の中にいるみたいだった。

「っ———!!!」

 私はビクンッビクンッと身体を痙攣させた。それが治った後も、腰のあたりはヒクヒクと痙攣が続いている。

(キスと、ハグだけで……)

「早く……早くベッドいこ?ね?」

 脱力した身体を君にもたれかけさせながら、私は甘えた声でねだった。


 結婚してからひと月は、万事がこんな感じだった。

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