「なに?改まって話なんて」

 いつものローテーブル、彼の正面に座る。真面目なのはいつものことだけれど、今日は眉間に少ししわがよるくらい真剣な顔をしていた。

「僕たちはもうすぐ結婚するでしょ?そしたら、その……そういうこともすると思うし、子どももできると思う」

 君は少し口ごもりながら言った。……なるほど、好きな体位の話かな?私はやっぱり体面座位が好きだけど。ああ、でも騎乗位も捨てがたい……

「だから結婚する前に、子どもの教育方針について話し合っておかなきゃと思ったんだ。……どうかした?」

 ガクっと額を手に当てた私を見て、気遣わしげに君がいう。私は精一杯の笑顔を浮かべながらこたえた

「なんでもない、なんでもないよ。うん。すごく大事なことだね」

 ……禁欲期間が長いせいか、思考がすぐにそっち方向に飛んでいってしまう。ふるふると頭を振る私に、君が言った。

「それで、君は子どもにどんなふうに育ってほしい?」

 真面目なのはいいけれど、少し気が早いんじゃないかなぁ。こういう話って、妊娠がわかった時とか、それこそ出産した日でも遅くはないと思うんだけど。少しだけ苦笑いの混ざった微笑みを浮かべながら、私はこたえた。

「あなたに似た、おもいやりのある子どもに。あなたは?」

 その返事を聞いて、あなたは目を丸くした。それから柔らかく目を細めて言った。

「あれ、僕は……君に似た、おもいやりのあるこに…。」

 そう言って、私たちは微笑みあった。


「違う!」

 突然君が大きな声を上げるものだから、私はびっくりしてしまった。

「確かにM○THER3は名作だけど今はそういう話をしてるんじゃないんだ!」

「その伏せ字は何か意味があるの……?ふふっ、でもよかった。私、あのやりとりに結構憧れてたんだよね。まさか現実に同じやりとりをできるなんて」

「わかるけど!わかるけども!もうちょっと君自身の言葉で何かないのか!?」

「え?引用だとしても本心だよ。私は君に似た思いやりがある子どもになってほしい。それにね」

 私が一度言葉を切る。君はきょとんとした顔で私を見ていた。

「私たちを形作ったものは、深いところでつながってる。私たちが美しいと思うもの、正しいと思うものは、根っこの方では同じなんだよ。それこそ、ゲームのこんな些細な1シーンを一緒に思い出せるくらいに」

 それから、こんどは100%の微笑みを浮かべて言った。

「だから、大丈夫だよ。きっと、私たちが願うことは同じだから」

 そう、眉間にしわを寄せて深刻に考えなくても、私たちは同じものを見ていける。君は少し居心地が悪そうに頬をかいた。

「僕は、ひとつだけこうなって欲しいって願いがあるんだよな」

「どんな?すこやかに大きく、どこまでも伸びて欲しいとか?」

「そっちはドラえもんだな!?」

 君は身体を乗り出しながら、勢いよくツッコむ。それから一息置いて、続けた。

「夢を、叶えて欲しいと思うんだ」

「……夢?」

「野球選手でも医者でもいい、いや、なんなら仕事じゃなくてもいい。何か人生をかけて達成する目標を見つけて、それを叶えて欲しい。そのためには、どんな手助けだってする。それが僕の次の夢だ。……僕の夢は、もうすぐ叶うから」

 私は、君の言葉をかみしめた。ありふれた、それでいて真摯な願いに思えた。

「……うん、いいと思う。私にも、同じ夢を見させて」

「……ありがとう」

 そう言って君は肩の荷が降りたように深いため息を吐いた。

「そういえば、君の夢って何だったの?」

「え゛っ」

 君の表情が固まる。

「確か、夢のために家を出たとかなんとか言ってなかったっけ?どんな夢なの?もうすぐ叶うって、仕事で何かいいことあった?」

「いや、仕事じゃなくて……これ、言わなきゃダメなやつ?」

 歯切れの悪い様子に私は頬を膨らませる。

「暫定十戒その7『互いに隠してはならない』」

「あぁ、もうわかったよ。いうよ。僕の夢は……」

 観念したというように両手を上げて、目を逸らしながら、少し頬を赤くしながら、君は言った。

「世界で一番大好きな人と結婚すること」

 私はすっと立ち上がって、君のとなりに座った。

「そっか、それが君のこれまでの夢か」

「……はい」

「で、子どもが夢を叶えるのが次の夢」

「うん」

「——じゃあ赤ちゃんを作らないとね!」

 私は君に飛びかかって床に押し倒した。もう限界。好きの気持ちが抑えられない。好きすぎる。

「君に似た思いやりがある子どもを作ろうねっ!」

 君の胸に頬ずりしながら、腰をくねらせながら私は言った。

「だから!エッチは夫婦になってから!!」

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