第15話 激闘本能寺
数名の明智軍が本能寺、門扉脇の塀を乗り越え寺内に降りていく。
ほどなくして本能寺の門扉は大きく開かれる。
すると、明智軍が隊列を作ったまま、門前の橋を渡り、本能寺寺内に開かれた門よりなだれ込んでいった。
本能寺攻めが開始された。
本能寺は大きく分けて2区画に区分されている。信長の宿舎たる部分と、元々の寺の機能とに分けられていた。
寺の部分は、本堂や伽藍、僧坊となっており、信長の宿舎は定宿と定めた後に拡張された部分にあたり、厩、御座所(信長宿舎)、控え長屋、台所などが建てられている。
本能寺はすでに、寺としての機能は失われており、寺の管理のためだけの必要最低限の僧呂しかいなかった。
最初の激戦が開始されたのは厩口だった。
厩口の扉が破壊されそうになると内側から扉と明智兵に槍が突き刺さる。
おのれの腹部に刺さった槍を見つめ明智兵は驚愕の表情をする。
一瞬の驚愕が周囲の明智兵に伝播していった。
その時、扉が内側から蹴破られ短槍を持った屈強な信長小姓衆が5人ほど鎧姿で躍り出た。
我に返った明智兵たちは躍り出た小姓衆を半円型に包囲を始めるが気の逸った明智兵が鎧姿の小姓に向かって槍をつける。
繰り出された槍は、小姓の槍が難なく弾き返し、隙をさらした腹部に小姓の槍が吸い込まれる。
密集体制にある明智兵は小姓衆と距離を取ろうとするが、5人の小姓衆は右に左へと巧みな連携をして槍を繰り出していった。
小姓衆5人が5人とも鋭い槍先で明智兵たちを翻弄していくが、対応せざるを得ない槍先が多くなるにつれ、少しづつ傷を負っていった。
本能寺境内に明智兵が侵入を果たしたことで重圧な包囲の必要性がなくなり、明智光忠軍、四千は妙覚寺へと移動を開始した。
玄関口や裏手台所口などの場所でも同じような攻防戦が繰り広げられている。
また、明智兵は宿舎の庭先に回り込み広縁周辺にも群がってくる。
明智兵が雨戸に手をかけるが雨戸は釘で打ち付けられているために、容易には開かず、業を煮やした明智兵は雨戸を打ち壊しにかかる。
雨戸の破壊と同時に数名の明智兵が槍で突かれた。
森乱丸を中心とした小姓衆20人ばかりが一斉に躍り出ると同時に明智兵10人ばかりが、槍で突かれた。
「上様を守れ!!謀叛人どもを討ち取れ!!」
いきなりの反撃に明智兵が押し返される。
「引け――――!!」
乱丸が叫ぶと20人の小姓衆が建物内に戻る。
明智兵が血走った目で逃げた小姓衆を追う。
突然、部屋の襖が外側に蹴倒されると広間に10人の鉄砲隊が待ち構えていた。
「放て―――!!」
森坊丸の檄が飛んだ。
轟音と砲煙と鉛玉が、10竿分、明智兵を目がけて放たれた。
鉛玉を食らった明智兵10人が倒れこむと、再び乱丸を中心とした小姓衆が砲煙の中から躍り出て、明智兵を槍にかけていく。
さらに、弓隊の援護が入り戦闘は小姓衆の優勢に傾いていった。
そもそも、鉄砲隊は乱戦には向いていない。距離をとり射線を確保し味方に当たらないように注意して運用しなければならない。また、一発撃つと次弾発射準備に30秒から40秒ほどかかってしまう。
さらに、弾込めしたまま持ち歩くと暴発の恐れがあった。
ちなみに、普通の戦ならば、初戦に鉄砲隊の打ち合いがあり、砲煙で視界が悪くなると槍隊が進み出て槍合わせが始まる。その後、弓のけん制などが入りつつ、騎馬隊が弓隊や槍隊の側面を突こうとする。すると、鉄砲隊が騎馬隊を阻止せんとする。
これが、戦国後期の鉄砲運用が中心となった戦のセオリーである。
また、この頃騒ぎを聞きつけた外の宿舎にいた小姓3人程が本能寺に駆けつけ台所口や厩口の援軍として活躍していた。
本能寺宿舎、庭先の戦は終始、小姓衆の優勢に傾いていたが、厩口、玄関口、台所口では小姓衆の増援があるものの徐々に建物内部に追い詰められていく。
「乱丸殿―――!!」
「放て―――!!」
5度目の突撃を終え一呼吸入れ、6度目の鉄砲の一斉射撃を命じた、乱丸のもとに猪のような体型をした武者が近づいてきた。
「突撃―――!!」
乱丸は命じると猪武者に近づく。
「虎松殿いかがしましたか。」
「そろそろ潮時かと思われます。」
そう言った虎松の身体は返り血で染まっており、虎松自身も無数の傷を負っていた。
「そうですか。では、手はず通り火をかけて退路を切り開きましょう。」
乱丸も返り血で真っ赤に染まっていたが、乱丸、虎松は二人そろって破顔して笑い虎松は玄関口へと引き換えした。
「引け引け―――!!鉄砲隊構え―――!!」
乱丸は明智兵を充分引き付けると号令を発する。
「撃て―――!!突撃―――!!」
乱丸達は七度目の突撃を始める。すると、厩、玄関、台所で次々と爆発が起こっていった。
爆発音の後、生き残っていた小姓衆は庭先の部屋に集まってきた。
「矢、鉄砲、放て―――!!」
矢、鉄砲が入り乱れて放たれた。
「皆、突撃―――!!切りひらけ―――!!」
乱丸が大声で叫ぶと集まっていた小姓衆全員が明智兵に向かい突撃を敢行する。
本能寺の建物は猛火に包まれた。火薬の爆発により宿舎だけでなく、寺全体に燃え広がっていた。
炎を背にした森兄弟は縦横無尽に槍を繰り出す。
互いに背中合わせになり車輪のように回転する。
「兄上、屍山血河ですね。」
あらたな返り血を浴びた坊丸は、背中の兄に話しかける。
「悪鬼羅刹の間違いですよ。」
明智兵を槍にかけ乱丸は弟に話しかけた。
炎を背に生き残った50人の小姓衆は明智兵を屠り、あるものは明智兵に倒されていった。
「斬死上等!!滅せぬものの!!あるべきか―――!!」
明智兵の鉄砲が一斉に放たれた。
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