相違
「誰?」と言われたときには若干心が折れかけたが、何かの冗談だろうと思った。しかし、今度のその発言は冗談にしてはあまりに本気すぎる聞き方だった。全く与り知らぬとでも言いたげな、そんな聞き方。本当に何で俺が逢坂のケー番を知っているのか理解できていない様子だった。おかげで、一瞬俺の思考が停止した。一瞬と言わず3秒くらい停止した。逢坂に対して「何言ってるんだ、こいつ」とさえ思った。
「な、何でって・・・ついさっき番号交換したじゃないか」
「あれ?そうだっけ?そんなことしたっけかな・・・」
「う、嘘だろおい。冗談ならやめってって」
かすかに笑いながら言うが、内心はものすごくビビッていた。微妙に声が震えている。間違い電話でもしてしまったかのような気分だった。
「冗談じゃないんだけど・・・ホントに私達ケー番交換した?」
「したよ、ついさっきしたって言ったじゃないか?」
「でも私のケータイに登録されてないみたいだったし・・・うーん?」
どうやら本当に冗談ではなく、本気で今の状況に困惑しているようだった。もちろん、それは俺も同じだった。
「・・・・・」
「・・・・・」
お互いに、変な沈黙を口にする。それ以外に何を口にすればいいのか分からなくなっていたようだ。頭を回転させようにも、回転させて何を引っ張り出せばいいのかが分からない。
「・・・・・ま、いいや。それで、何の用?」
先に現状を受け入れたのは逢坂のようだった。どうやら俺より順応性がいいようだ。悪く言うならば楽観視だが、まあどうせ何かの勘違いでしかないだろう。深く考えないほうがいいってものか。
「ああ、実はさ、妹から聞いたんだけど・・・今度また新しい・・・・・」
と、そこで。
ブツッ、と電話が切れた。
「アクセサリーが発売されるって・・・あれ?」
ツー、ツー、ツー、と。後に、無機質な機械音が流れた。
「うん?間違って終了ボタン押したか?」
ケータイを耳から離して画面を見る。画面には「通話終了:1.00」と映っていた。続けてボタンを見てみるが、間違って押すとも思えないつくりになっている。となると逢坂が何か操作をミスったか?それなら向こうから折り返しの電話が来るか。
そう思って待ってみたものの、幾ら待っても逢坂から電話は返って来なかった。痺れを切らしてこっちから電話してみたが、どういうわけか電話は繋がらなかった。
「・・・何かあったか?」
よく分からないが・・・明日学校で聞いてみればいいか。そう思って俺はケータイを手から離した。そうだ、考えてみればわざわざ電話することもなかったな。明日学校で離せばいいわけだし。
訳の分からない会話になってしまい、逢坂に電話したことをちょっと後悔した。こんなことなら情けなくてもいいから踏み止まっておけばよかったかなあ・・・。
そんな後悔を抱えながら、俺は眠りについた。
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