第24話 浮ついた話
小太郎たちは、働きに対する褒賞として小田原城内に屋敷をもらった。
四人で暮らすには広すぎる。
使用人を雇うかという話になった。
四人はかなり悩んだが、結局、経済を回すことを優先した。
すでに彼らの働きは噂になっている。
下手に私生活を隠すとろくなことにならないことは容易に想像できた。
早雲から出る給料の他に、輝夜から預かってきた軍資金もあってお金の心配はする必要がなかった。
この時代の人らしい生活を満喫する四人。
特に森人の二人にとって料理は新鮮の一言に尽きた。
今まで食べる必要はなかったとは言え、もったいないことをしたと思う小太郎と愛。
味がしないのでなんでそんなに喜んでいるのかよくわかっていない将門。
時々輝夜からお金をもらって食べ歩きをしていた銀孤だけはなんとも言えない表情だった。
彼女はもっと美味い場所を知っていた。密かに今度連れて行こうと決意する。
戦国大名のはしりである北条早雲に仕える以上、休める時間はあまりなかった。
山内上杉家と
18年間続いた
相変わらず大活躍する愛。情報こそが古代から現代に至るまで最強の武器である。
それを握る愛には社畜としての運命が定められていた。
悲しみの残業戦士の誕生である。
他の3人もそこそこ忙しかったが、実行部隊としての働きが本分なので愛ほどではなかった。
仕事の愚痴を言う愛とそれをただ聞く小太郎という図式が屋敷の定番になっていた。
使用人達は色恋に結びつけて噂話をしたが、二人は気づいていなかった。
それに聡い銀孤は密かに大和杉の元に行って
今まで700年近く一緒にいたためだろうか。
お互いを恋愛対象と見れなくなっている。
銀孤と使用人達はじれったそうだった。
ちなみに将門は何も気づいていなかった。にぶちんである。
北条早雲の活躍により、扇谷上杉家は
なおも幾たびか戦はあったが、そろそろ両家ともに戦を続ける余裕はなくなっていた。
20年近く続いた長享の乱は終結した。
この頃の上杉家は二つに別れて争っているとはいえ、関東を預かる関東管領の一族。
関東一円に勢力圏を持つ関東の覇者であった。
だが、このお家騒動とでもいうべき長享の乱により、その軍事力は衰退の一途を辿ってしまう。
早雲に頼らなくては戦争に勝てなかったことからもそれは良くわかるだろう。
そして、長享の乱終結後まもなくして起こったごたごたの中で、北条早雲は相模(神奈川)一国を手に入れることとなる。
北条家が関東の覇者となるための足がかりが手に入ったのだった。
●
小太郎たちが出て行く前からそうだったが、俺の近くでは戦乱が多かった。
堀越公方と鎌倉公方の戦いというのが30年ばかり続いたかと思えば、
お前ら、この前の戦いでは一緒に戦っていたよな。裏切るの早くないか。
これが戦国時代ということかもしれないが。
近くに城も出来上がるし、迷惑だ。
当然のように俺の下を戦場にしている。
久しぶりに葉っぱを飛ばして経絡秘孔をひたすらついていった。
輝夜一人では手が回らない。
葉っぱを飛ばすのは樹勢が衰えるからやらないほうがいいのだが。
「私がもっと力を持っていればよかったのに。」
輝夜は悔しそうだった。
彼女はおよそ万能だ。
すでに小太郎の技能「軍勢召喚」に愛の技能「諜報」「忍術」。
さらに、銀孤の「呪術」の劣化版を自分のものにしている。
将門からは何も学んでいないようだが、気にしてはいけない。
輝夜
技能
「黄金生成」
「全体自動回復」
「秘道具生成」
「忍術中級」
「軍勢召喚初級」
「諜報初級」
「呪術初級」
これが今の彼女ができることだ。初級が多いが、それでもこの多芸さは一目おくべきだろう。
だが、今まで軍勢召喚二人体制で対処していたのだ。
いきなり初級一人で戦線を支えられるわけもなかった。
軍勢召喚初級は召喚した軍勢の強さに大幅なマイナス補正がかかるようで、ただの村人ぐらいの強さだった。
姿が美少女なので、いろいろ複雑だ。
いや、戦闘終わったら消えるし、深く考えたら負けだろう。
そして、戦闘に関してはいる意味がない。
武器も持っていないし、肉壁としての役目を全うしていた。
その間に俺が葉っぱを射出し動きを止める。
うん。人手が足りない。
四人も派遣したんだから早く関東を制圧してくれ。
途中で銀孤がやってきた。
引き止めようかと思ったが、持ってきた話が愛と小太郎の結婚についてだった。
それなら仕方ない。許可を出しておこう。
そうか。あの二人がねえ。俺は遠い目をした。
輝夜は羨ましそうだった。
銀孤が帰った後で、輝夜に聞いてみた。
「輝夜も結婚したいのか?」
「ええ。でも、無理でしょうね。」
彼女は俺を見て、諦めたように首を振った。
「その相手は決まっているのか?」
「鈍いわね。」
「そんなことはない。」
「なら、当てて見てよ。」
彼女は唇を突き出して、不満げだ。
でも、その瞳は揺れていて、不安そうだった。
まるでそれが致命的な一言だったとでもいうように。
俺は考える。輝夜が俺のそばを離れたことはほとんどない。
なら、小太郎か将門だろう。
将門とはあんまり仲が良くないみたいだし、小太郎は、愛と結婚するようだ。
なら、誰だ。誰なんだよ。他に、いるのか。それはいやだ。
俺は、輝夜を共に歩む存在として作った。
彼女が俺のそばを離れるなんて耐えられない。
「まだわからないの?」
恐る恐る輝夜は尋ねる。この関係が終わってしまうのを怖がって、それでも思いが抑えきれなくて。
俺は、そう解釈した。
そんな苦しげな表情をさせるのはいやだった。
だから、俺も覚悟を固める。
⋯⋯これで違ってたら死のう。輝夜が結婚したいという相手、それは。
「⋯⋯。正直自信はないけど。俺、でいいのか?」
自意識過剰が過ぎる気がした。
でも、そうであったら良いなという思いがその言葉を選ばせた。
輝夜は答えない。でも、その表情が、徐々に喜びに染まった。
「そうよ。」
決定的な一言が、彼女の朱の唇から放たれた。
その時俺の中に去来した感情はおそらく、安堵だ。そして幸福感。
これほどの幸せを感じたのは、生まれて初めてかもしれない。
俺の樹皮に輝夜が寄り添う。
月の光が冴え冴えと俺たち二人を照らしていた。
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