第19話 一周目のその先へ
まあ、こうなるよな。
俺の目の前には1周目死亡時に見たのと同じような光景があった。
俺の真下に陣を張る平将門とそれを取り囲むように迫る藤原秀郷軍。
状況は悪い。
愛たちが必死で火矢の数を削っているが、それでもこちらの手勢が少なすぎる。
かと言って、小太郎の技能「軍勢召喚」を使うと妙な噂が湧きそうで怖い。
ここで現れる第三の勢力とか京都としても許せるようなものではないだろう。自重しないと。
問題は、俺の周りに積み上がった食料だ。
途中の村から略奪してきたらしいが、それもう新皇としての威厳ないからな。
ここで勝ったとしても民衆の支持は得られないだろう。
愛と小太郎が戻ってきた。
「すみません。もう限界です。」
「そろそろ総攻撃がきます。だいぶ削りましたが、まだ火矢は残っています。」
なるほど。
俺がやるしかないようだ。
「何をやるの。」
「まあ、見ていろ。」
将門は堂々と馬に乗って相手を睨んでいる。
やはり新皇を名乗るだけはある。
いい覇気だ。ヤマトタケルくらいはあるかもしれない。
「者ども、かかれー!!」
「うおおおお!!! 新皇さま万歳!!!!!!」
歓声が上がる。さすがのカリスマだ。
そのまま進軍を開始する。
旗印として、目立っている。
彼がいる限り将門軍は抵抗をやめないだろう。
なら、俺がやる。
「リーフインジェクション!!!」
おっと、英語になってしまった。
まあ、技名っぽいしいいよね。
俺の射出した葉は将門の兜の下を貫いた。
叫び声も上げずに馬から崩れ落ちる。
一瞬、戦場を静寂が支配した。
誰も状況を理解していなかった。
俺の葉は速すぎた。
誰の目から見ても、なぜか将門が落馬したように見えただろう。
慌てて将門軍の兵士が駆け寄る。
「将門さまが、死んでいる⋯⋯。」
その声は静かな戦場に響いた。
間があった。
そして、歓声。
将門軍はどうしていいかわからないようだ。
皆キョロキョロしている。
「大人しく投降すれば命まではとらん。」
秀郷軍から一人の老人が馬を進めた。
白髪だが、その眼光は
「わしは俵藤太。
彼の視線に耐えられるものは将門軍にはいなかった。
有能な将は先の戦で命を落としている。
ただ将門のカリスマだけに従っていた兵士たちには、もう戦う気力はなかった。
全員が武器を捨てていく。
それを捕虜として秀郷軍の戦後処理が始まる。
「この食料は奪われた村に返しておけ!」
秀郷の命で、俺が死んだ直接原因も持ち去られていく。
あれに火がついて炎が勢いを増したんだよ。よかった。これで一安心だ。
最後に藤原秀郷は俺に迷惑をかけたお詫びと称して酒を捧げていった。
いい心がけだ。
お酒は、3人が美味しそうに飲んでいた。
⋯⋯俺も飲みたいんだけど。
無理ですね。はい。
俺もアバター作れば人間として生きていけないかな。疎外感を感じる。
——
将門の首は都に運ばれた。
朝敵に対する扱いはひどいものだった。徹底的に辱められる。
だが、ある怪談がささやかれるようになる。
その首が毎晩笑うというのだ。
それだけではなく、地面が轟き稲妻までも鳴り始める。
「体を探してひと戦するぞ。俺の胴はどこだ。」
そんな声まで聞こえてくる。
京都の人々は震え上がった。
そんなある夜、将門の首が白光を放った。
恐る恐る見物する京都の住人たち。
首はその光を出したまま東の方に飛び去っていった。
——
俺は平和を満喫していた。前回死んだ要因を切り抜けたのだ。気が抜けてもいいだろう。
そんな夜のことだった。
西の方から発光する物体が飛んできたのだ。
UFOだと。実在したのか。
俺がいる時点で今更とはいえファンタジーが過ぎるぞ。
それは俺の下に作られた将門の墓に刺さった。
俺の下に作られたのは、ここが戦没地だから仕方はないが、正直持て余していた。
近くで死んだから仕方がなかったのだろう。
しばらく見守る。
地面がめくり上がった。
「天よ。俺は、帰ってきたぞ!!!!!」
月に向かって男が吠える。
なんだ、こいつ。
顔色悪いぞ。大丈夫か?
とりあえずうるさい。
「うるさいから黙れ。」
おっと、声に出していた。
まあ、森人族以外には聞こえないから、問題ないだろう。
だが、その男はびくりと震えて大声を出すのをやめた。まるで俺の声が聞こえたみたいだ。
まさかね。
なおもびくびくと周囲を見渡している。
最初の不気味さは何処へやらだ。
そういえば、その顔、見覚えあるな。
⋯⋯こいつ、平将門じゃね? 復活したの?
勘弁してよ。そんな能力要らないよ。
トラウマなんだよ。
もう一度葉っぱで黙らせるか。
「どうして、俺はここに? 一度死んだはず。首が京に送られたという話を聞いた気がするが⋯⋯。」
彼はそう呟いて体を確認していた。
「腐ってやがる。」
そうだね。ゾンビってやつだね。
「これじゃあ、部下を集めても気味悪がられるだけだ。」
現状把握がしっかりしているのはいいことだ。
さすが英雄。
今は反英雄と言った方がいいのかな。
「俺を殺した奴に復讐をしたいが、結局誰が俺を殺したんだ。一瞬でわからなかった。おそらく矢か何かだと思うのだが。」
セーフ。さすが俺の射出。
霊的存在となった将門でもわからない速度。
これは規格外。
常識はずれ。
⋯⋯自分で言ってて悲しくなってきたのでやめよう。
「将門よ。俺の元に陣を敷いた無礼はゆるそう。俺に仕えよ。」
俺は彼に声を掛けることにした。
将門を放っておくと、周囲に被害が出そうだ。
俺の手元においていたほうが安全だろう。
戦力にもなりそうだし。
「この声、まさか。」
将門は俺の方へ目を向けた。
「その通りだ。」
「大和杉⋯⋯!」
「ああ。それで、どうする?」
「復讐は、できるのか?」
「藤原秀郷はすでに死んでいる。天皇に刃向かうというなら止めはしないが、その体で何ができる?」
「⋯⋯今はお前に従っていたほうが良さそうだな。」
「今とは言わず、ずっと従っていて欲しいが、まあいいだろう。俺の下に住むことを許す。」
「了解した。」
将門は自分の墓に戻っていった。
ふう。なんとかなだめられたな。
日本三大怨霊の一人を部下にできたのは大きい。
うまく操縦していけるといいが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます