第20話 九尾の狐


 将門と輝夜たちの顔合わせはひどいものだった。


 輝夜たちは将門を部下にするなどあり得ないと主張した。


 将門は将門で、俺の樹上に住んでいる3人にもの申したいようだった。


 いや、俺の負担でもあるからね。


 なんで光合成もできない物体を乗せておかなければならないんだよ。


 大きくなる上では負債と言うしかない。


 なぜかこの頃イワスヒメの加護を受けているはずの土地が弱っているし、樹上生活はやめさせようかな。


「それは将門のせいですよ。あいつが神の祝福を汚しているんです。」


「お前らが非難されてるんだろ。どう考えても必要のない重量だってよ。バーカバーカ。」


 論争レベルが低くて悲しい。


 とはいえ、一理あるので、将門の墓を移動させた。


 将門は抵抗したが、俺がリーフインジェクションしたらおとなしくなった。


 自分の死因に気づいたのかな。


 まあ、いったん部下になると言ったんだから今更逆らいはしないだろうけど。


 将門の墓を移動させたら地勢は回復した。


 ⋯⋯こいつを部下にするのやめようかな。


 悪霊としてのレベルが高すぎて悪影響を及ぼすぞ。


 輝夜たちが鬼の首を取ったように騒ぐのでおとなしくさせた。調子に乗らないの。



 将門を配下にしてから目に見えて俺に雷が落ちるようになった。


 避雷針の構造を参考にしてるので、被害はない。


 雷対策については万全とはいえ、3人の被害がシャレにならない。


 死ぬことさえなければ輝夜の技能「全体自動回復」があるので回復はできる。


 うーん。これやっぱり将門が厄要素になっているな。放り出すべきだろうか。


「待ってくれ。俺が注意して妙なものを呼び寄せないようにするから。」


 将門は必死に抵抗した。俺のそばに愛着ができたのだろうか。


 俺の樹液をあげたのがよかったのかもしれない。


 供え物のお酒は自由にしていいと言ってるしな。


 自慢じゃないが、俺の近くはこの世で一番安全だろう。


 人外にとっては頼れる大樹だ。


 人間もただ大きいと言うだけで崇め奉るからな。


 成長した俺の中に取り込まれた祠がいくつあることか。


 必死だったので許すことにした。


 そんなこんなで時は過ぎる。


 人が増えてから、時が過ぎるのが遅くなった気がする。


 時間の概念を理解する人数によって、時間の進みが伸縮しているんじゃないだろうか。


 そんなやくたいもないことを考えてみる。

 妖怪退治をすると言う話を聞いた。

 なんでも天皇の寵愛を受けていた女性が九尾の狐だったらしく、討伐軍が京都から差し向けられるとのことだ。


 なんだか輝夜の時を彷彿ほうふつとさせる。


 そうだな。


 色々できそうだし、隙をみて助け出したい。


 俺は4人にその狐を連れてくるよう命じた。


「かしこまりました。」


「ご主人様の言う通りに。」


「新しい女?」


「わかったぞ。」


 四人とも出発していった。


 頑張れー!


 動けない俺は声援を送るだけである。



 ●


 四人は別々に行動を開始した。


 まずは愛の情報収集からである。


 技能「諜報」の本領発揮だ。


 瞬く間に情報が集まってくる。


 討伐軍の編成から狐がどこにいるのかまで。


 彼女の手にかかればたやすいことだ。


 その情報をもとに彼らは行動を開始した。


 将門は討伐軍の足止め。


 ほか3人は、狐の元へ向かう。


 将門は陣を張った。


 小太郎の軍勢召喚を応用し、死者の軍団を呼び覚ます。


 交流してるうちに覚えたらしい。相性が良かったのだろう。


 ゾンビの軍勢とはタチが悪い。


 人気のない荒野での戦いを選択しているのが救いだ。


 霧が切れ、討伐軍が姿を表した。


「かかれー!!!」


 喉も枯れよとばかりに叫んで、将門は突撃を開始する。


 生前はできなかった京都の軍勢に対する蹂躙じゅうりんの時間だ。


 ●




 九尾の狐は那須野なすのにいると言うことだった。


 3人は北上した。


 那須野は広大な野原だ。


 ススキが一面に揺れて黄金の海のようだった。


「これ、見つけられるの?」


 輝夜は顔をしかめた。


 軍勢で行くならいざ知らず、たった3人だ。


 見つけるのは一苦労だろう。


「技能「軍勢召喚」!」


 小太郎の号令で何千人と言う軍勢が現れた。


 彼はたゆまぬ訓練により、召喚できる人数を大幅に増やしていた。


 こうして人数の問題は解決する。

 人海戦術で那須野の大捜索が始まった。




 勢子せこのように軍勢が追い立てて行く。


「うるさいんやけど!!!」


 大音量が響いた。


 銀の毛並みが日に映えてきらりきらりと光っている。


 宙に飛び上がり当たるは、銀の尾九本を備えた大妖狐。


 狐耳の美女である。


「全くもって。なんなん。せっかく、こうしてこの荒野で大人しくしてると言うのに。」


「いろいろいたずらしていると言う噂が流れてきましたが?」


 愛が冷静に指摘する。


 狐は黙った。図星だったらしい。


「関係ないやろ!」


 キレた。


 気まずくなったらしい。


 顔を真っ赤にしてる。


 わかりやすい。



「呪術「氷雪」」




 彼女は、大きな氷の塊を頭上に生成し思いっきりぶん投げた。


 輝夜と愛は忍術により強化された速度で避ける。小太郎は雲乗りにより上空に飛び上がることで避けた。


「呪術「炎熱」」




 今度は炎の球だ。


 一番彼女のヘイトを集めている愛に向かって放たれる。


 だが、愛はこの3人の中で最もスピードが早い。


 なおも加速し、難なく避けた。


 樹木を傷つけうる威力の炎に3人の目の色が変わる。


 この狐を放置していたら、敬愛する主人に申し訳が立たない。


 小太郎の技能「全体麻痺付与」派生「単体麻痺付与」が発動する。


 単体に絞ることにより高い耐性を持つ九尾狐にも通るようになっている。


 やはり特訓の成果だ。


 金太郎の時に役立たず扱いされたのに奮起して訓練した結果だろう。


 真面目だ。えらい。



 呪力で宙に浮いていたらしき九尾の狐は硬直して草むらの中に落ちていった。



「技能「黄金生成」!」


 そこに追い討ちのように輝夜の作り出した黄金が落下する。


 本来の用途は別のような気がするが、戦闘用としても使えないことはない。


 大和杉がお金を必要としていない現状、技能「黄金生成」の使い所はこんな場所しかなかった。


 愛が素早く接近して拘束する。


 簡単に無力化してしまった。


 日本有数の妖怪、九尾の狐のはずなのだが。


 戦力の充実が目覚ましい。


 こうして、日本を騒がせた大妖怪の噂は消えていった。

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