第15話 まさかり担いだ金太郎さん


 小太郎も輝夜と仲を深められたみたいだ。彼の性格を知れば嫌いになることなんてない。


 時間の問題だと思っていた。


 かぐや姫の件が終わってからかなりの間平和だった。


 台風はいつものように襲来するし、富士山は思い出したように噴火するけど、もう慣れたので対処は簡単だ。


 そういうわけでのんびりしていた。

 基本的に平将門が生まれるまでは平和のはずだ。

 なんか、その前にひどく幹を揺らされた思い出があるんだけど、どうだったっけ。


 一周目の俺は、歴史に対して無力だった。なぜか2周目の今回はだいたいわかる。


 史実を知っているチートだ。


 どうせ神様が何かしたのだろうと思うから、ありがたくこの知識は使わせてもらう。


「あるじさま、何か、変なのが近づいて来ます。」


 俺は小太郎の報告に目を覚ました。


「南西の方です。」


 そちらに意識を向ける。


 そこにいたのは、まさかりを担いでくまにまたがった体の大きい少年だった。


 俺の方を目指しているらしくまっすぐにやってくる。


 歴史に詳しくなくてもわかる。


 金太郎だ。童謡と全く同じ姿だ。


  何する気なんだ?


 嫌な予感しかしない。


 しかし、俺は逃げることはできない。動けないからな。


「如何なさいますか?」


「とりあえず、愛は何をする気なのか聞いてくれ。小太郎と輝夜は待機。相手の目的がわかったら対処するぞ。」


 愛が駆け下りていった。技能「諜報」が使いやすすぎて、彼女にばかり働かせている。


 すまないとは思っている。


  輝夜は完全ランダムにしたからバラバラだし、小太郎は決め打ちしすぎて自由度がない。



 戦争するのなら活用できるんだけど、木が戦争して何するんだよ。なんの意味もない。


 愛が金太郎と接触したみたいだ。


 房中術使うのかな。使って欲しくはないけど。


 あっ、戻って来た。




「ウブな男の子でした。」




 あっ、そっち関係から攻めたのね。やっぱり。愛の体は男子には毒だよ。



「で、何をしにくると?」


「相撲の稽古をしたいと。」


「なるほど。」


 なるほど?⋯⋯相撲?


 ぶつかりげいこってやつか? 


 俺にぶちかましを仕掛けることで強い当たりを身につけようとしてるのか。


 まあ、俺に勝てるとは思わないことだな。うわっはははっは。


 まあ、それくらいならいいか。大丈夫だろ。




 どっしーん




 俺は大きく揺らされた。下をみると金太郎がいる。


 思ってたより揺れた。


 でも、まあこれくらいなら。


 どっしーん




 えっ?まだやるの?その威力出して疲れないの?


 疲れていないようだ。三度目のぶちかましのモーションに入っている。


 ダメだ。流石にそれは看過できない。


「小太郎。あいつを止めてくれ。」


「承知。」


 小太郎は風のように降りていった。


「技能「全体麻痺付与」!」


 全速力でこちらに突っ込んで来た金太郎の動きが止まった。硬直している。いいぞー小太郎—!


 小太郎は金太郎の眼前に降り立った。




「そんなに相撲が取りたいのなら。俺が相手だ。」


 構える。


 麻痺が解けたのだろう。金太郎は好戦的な笑みを浮かべると手を握って土の上についた。


「はっけよーい。のこった!」


 おいクマ。お前クマじゃないだろ。なんで行司ぎょうじの真似事してるんだよ。


 なに? 金太郎と付き合っていたら覚えた? なら仕方ないか。不思議な世界だしな。


 俺は何もできないので小太郎に声援を送っていた。


 こたろー!がんばれー!


「あなた、もともと子供だったの?」


 輝夜になんとも言えない目で見つめられた。


 いや、仕事で疲れ切った俺を癒してくれたのはプリキュアだったんだ。他意はない。


 俺の声援にも関わらず、小太郎は徐々におされている。


 このままではまたぶちかましが俺にダメージを与えてしまう。



「愛。何か金太郎を止める手段はないのか?」


「黄金が大好きみたいですよ。」


 黄金? 俺が金を持っているとでも。終わりだ。何か忘れている気がするけど、終わりだ。


 根元では、小太郎が投げ飛ばされていた。負けてる。役立たずだ。



「なかなか骨がある人だったな。さて、それじゃ、続けようか。」


 金太郎の声は思っていたよりも幼い。これは確かに男の子と言ったほうがいいかもしれない。


 で、まだぶちかまし続ける気ですか、そうですか。




 俺は諦めかけた。一周目、これで樹勢を消費して炎に耐えられなかったことを思い出す。


 俺の死の間接的原因じゃねえか。


 また、一周目と同じ道を辿るのか、俺は。


 全てが終わりだと思った。



「まったく。仕方ないわね。技能「黄金生成」」




 輝夜の手の中に大きな黄金の塊が生成される。


「感謝しなさい。」




 彼女はそれをそのまま下に落とした。




 見事金太郎の頭の上に落下する。


 彼は気絶した。




「死んでないよな。」




「あの程度で死ぬような男じゃないでしょ。」




 その言葉の通り、金太郎はすぐに目を覚ました。




 黄金を見つけて小躍りしている。黄金好きという愛の情報は正しかったようだ。


 満足したのだろう。彼は黄金を抱えて帰っていった。助かった。


「ありがとう、輝夜。」


「別にあなたのためにしたわけじゃないから。ここがなくなると私も困るし。」


「そうか⋯⋯。」


 俺のためじゃないのか。残念だ。


「そんな悲しそうな声出さないでよ。今は無事を喜んで。」


 複雑な気分だ。


「あるじさま。敗北を喫してしまいました。この罰はいかようにも。」


 小太郎が沈んでる。


「あれは金太郎が規格外すぎたんだ。お前が気に病やむことはない。」


「ですが。」


「くどい。」


 小太郎とは主従ロールプレイできてると思うんだが、ほかの二人がその枠に収まってないのはどうなんだろう。



 後日談。というか今回のオチ。


 金太郎が持って帰った金塊が俺のそばに落ちていたというのが評判になり、俺の周りに集まる人が増えた。


 もう絶対に落としてやらないからな。


 だから散れ。


 人がゴミのようだと言いたくなるだろ。


 ただでさえ視点が高いんだから、言わせるなよ。


 ジ○リは怖いんだから。

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