第14話  SS 花粉症



 花粉症という病気は俺には無縁だった。


 花粉症にかかったら林業なんてやってられない。


 日本で一番花粉の近くにいるのは俺たちなんだ。


 とはいえ、日本中で問題になっていたような気がする。


 どうにかしないとダメなのかもしれない。


 今の所、この時代には苦しんでいる人はいないようだけど。

 なんで花粉症は問題になったのだろう。


 神様の本の中に理由が書いてあった気がするけど、よく覚えていない。


 正直興味はなかった。


 ●

 だから、これは夢だ。


 俺はなぜか人間の体になっていた。


 咳き込む。


 鼻に何かが詰まっている。苦しい。鼻水が出る。


 目がかゆい。


 くしゃみまで止まらない。



 道ゆく人はみんなマスクをしていた。



 咳き込む俺をかわいそうな人を見る目で見ている。



 そんな目で見ないでくれ。



 病院に行った。花粉症だと診断された。


 そんな、この俺が。冗談だろ。


 とりあえず対症療法だと、抗ヒスタミン剤を出された。アレルギーを抑える薬らしい。


 完璧に直す薬はないと聞いた。


 そんな。こんな症状に毎年悩まされるなんて、絶対に嫌だ。


 家に帰って、調べて見た。


 花粉症の原因は戦後、農水省主導で各地に大量の杉が植えられたことらしい。


 なんで杉しか生えてないんだろうと思っていたが、そこに原因があったとは。


 国のせいだ。


 その頃の国策を責めても始まらない。



 他の原因を探してみた。


 アスファルトやコンクリートは花粉を吸着しにくいらしい。


 土のままだったら、ここまでひどい被害は出なかったそうだ。


 戦後の日本、ひたすら花粉症を起こすために動いてないか⋯⋯?

 花粉症の原因はわかった。アレルギー反応が原因ということも理解した。

 理解しても、一向に症状は治らない。


 相変わらず鼻水に鼻づまり。くしゃみも止まらない。


 辛すぎる。絶対に、改善してやる。


 ●


 目を開けた。やっぱり夢だったようだ。


 俺の眼下には相変わらず関東平野が広がっている。

 土と草の広大な平野だ。

 こんなところで花粉症など起こるはずがない。


 今の自分は、花粉を出しているのだろうか。


 意識してはいないが、杉なんだから少しくらいは放出しててもおかしくない。

 夢の記憶が戻ってくる。

 辛かった。


 戦後まで猶予はある。


 花粉症をなんとかする手段を考えておこう。


 俺のせいだと思われて切り倒されても嫌だし。



「あるじさま。どうかされましたか?」


 小太郎は本当によく気がつくなあ。


 俺には樹木の調子なんてほとんどわからなかったぞ。


「ちょっと未来のことを考えていた。」


「なるほど。さすがですね。」


「ぼんやりとしたものだけどな。いずれは対処しなければ。」


「私も全力で当たりますよ。」


「期待しているぞ。⋯⋯ところで、俺の花粉目障りだったりしてない?」


「いえ、特には。」


 そうか。大丈夫なのか。とりあえず安心だ。


 でも、不安になったので愛に聞いてみた。


「なかなか男らしい香りですよね。」


 婉然えんぜんと笑っている。


「からかうなよ。」


「まあ、冗談ですけど。でも、輝夜に聞いたら同じことを言うと思いますよ。」


 なんだか、うまく操縦されてる気がする。


 輝夜にも聞いて見た。


「えっ、花粉? なにそれ。」


「俺が黄色い粉末を飛ばしていることがないか?」


「⋯⋯。あれ、変な気分になるからやめてほしいんだけど。」


「変って、どんな?」


「言わせないでよばか。」


 輝夜は顔を背そむけた。ほほが赤い気がする。


 わからない。


 とりあえずあんまり花粉は飛ばさないようにしとこう。


 俺はそう決めるのだった。

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