第13話 仲直りしたい

 俺はほとほと弱っていた。輝夜が全然心を開いてくれない。


 やはり育ての親と無理やり引き離したのがまずかったのだろうか。




 確かに輝夜の所在がわかって気が動転していたのは間違いない。




 よく考えれば翁の寿命が来てから連れてくればよかった。


 輝夜の技能「全体自動回復」があるから本当に寿命がこない限りは元気だったのだろうが。




 過ぎたことを悔やんでも仕方がない。もう翁も帝も死んだのだ。




 いい加減に機嫌を直してもらわないと居心地が悪い。


 とはいえ俺の人生経験など、20年ちょっとしかない。


 木生は前のと合わせて6000年くらいあるけど、ずっと一人だったからなんの足しにもならない。




 人としての記憶も、今は曖昧だ。




 弱り切ったので小太郎に相談することにした。




「あるじ様。申し訳ありません。私も努力しているのですが、やはり嫌われていまして。」




 小太郎は引き離した張本人と見られて、散々らしい。


 無視されているのをよく見かける。




「そうか⋯⋯。」




 俺はため息をついた。男二人が集まってもなんの解決策も生まれないみたいだ。無力だ。



「小太郎様、こんなところで何をやっているんですか?」




「愛か、いや、あるじ様とな⋯⋯」




 愛が加わった。彼女は俺たちの中で一番良好な関係を築いている。


 女同士だからだろうか。おしゃべりしているのを時々見かける。羨ましい。




「輝夜と仲良くなりたいのだが、何かいい方法はないだろうか。」




 愛にも相談することにした。




「そうですね。輝夜もご主人様を嫌っているわけではないと思います。ただ、どうすればいいかわからなくなっているだけです。」




「おお!」




「まあ、その間にご主人様が何かアクションをかけていらっしゃればこんなに拗れる事もなかったと思いますが。」




 ダメ出しされた。普段から丁寧な愛からのダメ出しは心にくる。


 辛い。


 とはいえ事実だ。反省しつつ次に生かそう。




「反省する。じゃあ、どうすればいいんだ。」




「女の子との仲を深める方法を聞くのは野暮というものですよ。」




 ふふ。


 愛は微笑んだ。小悪魔じみた笑顔だ。


 彼女は外で情報収集してもらうことが多いから、何か悪い影響でも受けてるんじゃないだろうか。


 不安だ。




「あっ、でもヒントくらいはあげますよ。」




 まじで。それは欲しい。




「お願いします。」




 威厳も何もあったもんじゃないが頼み込む。




「どーしよっかなあ。」




「愛。あるじ様に向かってなんて口の聞き方だ。」




「まあまあ。で、ヒントですね。」




 ごにょごにょっと。


「正直に話すのが一番ですよ。彼女はどう接していいかわかっていないだけなんですから。」




 えっ、それだけ?




「これ以上は言いません。それでは情報収集に行って来ますね。」




 ニコッと笑って彼女は地面に駆け下りて行った。




 逃げられた。



 正直に、か。そうだな。取り繕うべきプライドがあるわけじゃない。


 威厳は欲しいけど、関係性を悪くしてまで必要かと言われたら否定する。




 俺は意識を輝夜のそばに持っていった。


 彼女は俺の最上部で景色を見ていた。必要以上に喋ることなく彼女は俺の上にいる。




 森人族は、俺の近くにいるならエネルギーを補給する必要はないらしい。


 なんとも便利だ。




「輝夜。」




 俺は声をかけた。




「何よ。」




 いきなりだったが、ここで生活するうちに慣れたのだろう。彼女は振り返りもせずにそう答える。




「ちょっといいか。」




「いいけど。」


「話がしたい。」




 輝夜の興味が少しこちらに向いたようだ。よし。




「俺はお前をはじめに生み出した。俺と一緒に生きてくれる人として。」




 彼女は黙って聞いているようだ。




「でも、お前は俺の前に現れなかった。どこにいるのかずっと探していたんだが、俺は木だ。動けない以上、限界がある。」




「そうね。」




「生きているのか死んでいるのかもわからなかった。だから、お前の噂を聞いた時、俺は動転した。」




「へえ。あなたが。」




 信じられないとでも言いたげだ。




「俺だって、動転くらいするさ。もともと人間だったわけだしな。」



「なんか、信じられないことを聞いた気がするんだけど。」




 輝夜は驚愕している。言ってなかったっけ。




「まあ、そこはどうでもいい。」




「よくはないわよ!」




 そうは言っても、6000年前だしなあ。


 話を戻すか。




「そしてお前を全力で取り戻そうとしたんだ。小太郎と愛を生み出したのもお前のためだ。」


「へ、へえ。」




「今思えば、もう少しゆっくりとしておけばよかった。お前の育ての親にひどいことをしてしまった。」




「反省してるの?」




「ああ、悪かった。」




「ほんとでしょうね。」




「ほんとだ。」




 俺を厳しい目で見つめる彼女。




 だが、その眼光がふっと弱まった。




 顔つきが柔らかくなる。




「許してあげる。」




 何がよかったのかわからない。でも、彼女のわだかまりは確かに消えた気がした。


 愛のアドバイスのおかげだ。戻ったら何か褒美をあげよう。




 小太郎はまだ輝夜との仲を深められないようだった。


 ⋯⋯うん。頑張れ。


 俺も許してもらったんだし、あと5年もすれば大丈夫でしょ。

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