第11話 竹取物語 転

 さて、小太郎にばかり無理はさせられない。


 諜報系の森人を作ってあげなければ。


 ウィンドウを呼び出して森人作成をする。



 顔設定


 耳設定


 体設定


 技能設定


「ランダム」


「ランダム」


「ランダム」


 名前「」


 性別「」


 成長設定(固定)


 場所(大和杉樹上)


 顔と耳と体は思いっきり日本人に寄せとこう。


 小太郎の悲劇は繰り返さない。


 キャラメイクは一番大事。


 ゲームには関係しない要素だと侮ってはいけない。

 これはゲームじゃないのだ。


 めちゃくちゃゲームっぽいのには目をつぶっておこう。

 多分俺の記憶から生成したんだろうし。

 で、技能はとりあえず諜報。


 情報を色々集めるのに便利そうだ。


 あとは、そうだな。忍者とかいけるか? 



 忍者。




 —技能ではありませんー


 おん。まあ、称号か職業になるのか。


 なら、忍術で。




 忍術は問題なくいけた。これは技能だろう。


 最後の一つは何にするか。

 うーん。思いつかないな。ランダムでいいか。


 名前はどうしよう。


 ネーミングセンスなどと言うものは木として生きてきた六千年のうちに消え去ってしまったからな。


 もう愛とかでいいかな。V○uberつながりで。


 戦国時代に愛姫と言う人がいたらしいし許されるよね。


 性別は女。


 ⋯⋯これが最後に決められると言うことは男の娘も自由自在ってことか。


 業が深い。俺の業が深いのだろうか。


 自問自答してしまう。

 成長設定と場所はこのままでいいだろう。


 問題はランダムが何になるかだが、とりあえず確定。


 ポチッとな。




 技能設定


「諜報」


「忍術」


「房中術」




 ⋯⋯なんかやばい技能がついた気がするんだけど。R18じゃん。


 レアっちゃレアだけど、そう言う方向性になるの? 


 肉体が生成されていく。黒髪黒目の日本人顔。


 そこそこの美人で優しげな顔つき。


 誰も彼女に裏があるとは思わないだろう。


 隠密性と情報収集に向くようにと慎重に設定した。


  巨乳に設定した覚えはないんだけどな。


 最後の技能が作用したのだろうか。




「愛です。よろしくお願いします。」


 彼女は三つ指ついての礼をした。




 木の上で木に向かってお辞儀する美人の日本女性。


 冷静に意味わからないな。

「あー。諜報活動を任せていいか? 特にかぐや姫の家が知りたい。」


「お任せください。」


「かぐや姫に連絡を取るとこまで任せていいか?」


「もちろんです。」


 頼れる。


 生まれたばかりだってのになんだこの安心感は。


 技能を一方向に揃えたからだろうか。


 小太郎は何がやりたいのかわからない技能構成にしてしまったからな。


 悪かった。




 小太郎 


 技能


「軍勢召喚」


「雲乗り」


「全体麻痺付与」


 うん。方向性が見えない。

 愛はすぐに降りていった。




「挨拶できませんでした。」




 小太郎は凹んでいる。




「お前には森人のまとめ役を頼むな。今回は時間がなかったが、これからは時間をとるから。」




「はっ。お任せください。」




 うんうん。やる気があるのはいいことだ。


 さて、愛の方はどうしてるだろうか。

 俺は意識を上の方に持っていって彼女の姿を探した。


 ●




 愛の行動は早かった。


 道ゆく人に尋ねてかぐや姫の家の居場所を聞き出す。


 彼女の家は有名で、誰もが親切に教えてくれた。


 小太郎の苦戦はなんだったのかと言いたくなる。


 諜報技能が役に立っているからこそ順調だということを忘れてはならない。




 そうして、兵士たちによって厳重に囲まれたお屋敷が見えてきた。人だかりもできている。


 かぐや姫に会いたいと言うものたちだろう。


 それを兵士たちが問答無用で近づけさせない。


「これほど厳重だとは⋯⋯。」



 愛はそうひとりごちた。隙が見当たらない。


 少なくとも昼は無理だろう。




 大きな騒ぎを引き起こしたならばどさくさに紛れて潜入できるかもしれない。


 でも、その手間は面倒だ。


 彼女は夜まで待つことにした。


 夜になれば技能「忍術」の独壇場である。


 彼女自身も美しかったのでナンパじみた騒ぎは起こったのは誤算だった。


 なんとか切り抜け、夜になった。


 流石に寝ずの番とはいかないようで、兵士たちもこっくりこっくりしている。


 昼間の疲れが堪えたようだ。




 その脇を跳躍し、彼女は生垣を飛び越えた。


 闇に溶ける服は、昼のうちに用意していた。


 抜かりはない。

 見回りの兵士をやり過ごし、床下に屋根裏を経由して、彼女はかぐや姫の居場所を目指す。


 忍びという存在が活躍したのは戦国時代に入ってからのことだ。


 平安時代にはそんな特殊技能の持ち主などいない。


 妨害に遭うことなく彼女は屋敷の奥深くまでたどり着いた。


「かぐや姫。」


 彼女はそっと声をかけた。


 控えていた女官たちは皆、眠らされている。


 彼女の技はあまりに巧みだった。


「誰?」


 天上の音楽のような聴き心地のいい声だった。


 この人がかぐや姫か。


 愛は深く納得した。


 膝をついて、話し出す。


「かぐや姫。あなたを迎えにきました。」


「どういうこと?」


 訝いぶかしげだ。


「私のご主人様は大和杉と言います。」


「大和杉? あの東国一と評判の?」


「はい。かぐや姫。あなたはご主人様から生み出された私たちの同胞です。」


「ちょっと待って。」


 かぐや姫は頭が痛くなったようにひたいを抑えた。


「確かに、誰か仕えるべきお方がいるとは思っていたけど、木って⋯⋯。」


 彼女は戸惑っている。


 竹取の翁によって育まれた価値観はそれを受け入れることを拒んでしまう。


「ならば、一度ご主人様の下へ訪れてみたらどうでしょう。大和杉に行きたいと言えば可能でしょう。」


 流石に自力で説得できるとは思っていなかった。


 愛は己の主人の力を信じていた。


 あの力に満ちた姿をみれば、自分と同じ種族ならば心を打たれて当然だ。


「なるほど。一回くらい見てみたいかも。」


 かぐや姫は心を揺らす。


「楽しみにしています。」


 愛は頭を下げたのだった。

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