第5話 同級生のひどい行い
ワタルとルーネ(おまけでアデル)が邂逅する半年前。大陸中央部を縦断する龍ヶ峰にて勇者たちが、あぶら汗を掻いていた。
「おいおい! どういうことだよ! ここには初心者用の竜しかいないんじゃなかったのか!?」
ぎゃいぎゃい騒いでいるのは、『土』の勇者『
体格のわりにほっそりした顔のワイルド系イケメンであり、高1にしてすでに非童貞。戦いもゴリ押しだが女性関係もゴリ押しという、引くことを知らない男である。来るもの拒まず去るもの追わず、この中で一番のリア獣(誤字ではありません)であろう。
「そんなこと言われましても、目の前にいらっしゃるのですからしょうがないではありませんか」
「言葉遣い!」
「治るわけありませんわ。わたくし生まれてこのかた、この話し方しかしたことありませんの」
「TPO!」
「わきまえておりますわ」
「わきまえてねえよ!」
意外とツッコめる(?)一乃丞と息のあったやり取りをしているのは『風』の勇者『
「ね、ねえ。早く帰ろう? 団長さん騙してこんなとこまで出て来ちゃって、大丈夫かな?」
「平気だよ。僕たちは勇者だから」
ややキョどり、帰りたがる女子は『水』の勇者『
「GYAAAAAAOOOOOOOOOO!!!!!」
目の前には、巨大な緑龍が二本足で威嚇していた。東洋風の蛇タイプではなく、西洋風のどっしりしたトカゲタイプである。
「実際問題どうするよ?」
「こうなれば、逃げるしかないのではなくて?」
「早く帰ろう? ね? ね?」
「そうだね。僕たちは死ぬわけにはいかないのだから」
そう言って全員で後ろを振り返った。巨大な緑龍が目の前で威嚇しているのに余裕である。
「な、なに?」
弱い語尾でそう言うのは、オマケの5人目。召喚時、たまたま隣を通り過ぎようとして巻き込まれた、何の属性も付与されなかった勇者としては無能な、『
「フィジカルブースト」
どう考えても逃げの一択しか存在しないこの状況。お世話係として荷物をいろいろ持たされていたので、すでにお家芸である『フィジカルブースト』を使用していたワタル。逃げる話をしていてこちらを向いた4人の目がヤバいと感じたので、あとあとしんどくなるがフィジカルブーストの重ねがけを行い、回れ右。あらほらさっさと逃げ出した。普段の扱いを考えれば、この後何が起こるかなど分かろうもの。
「あっ! 待ちやがれ!」
「往生際が悪い……」
「ダメだよ、ワタル君。1人で逃げるなんて」
「キミは本当に何もできない男だね。せめて……」
亜琉人が掌に力を込めると、ぽわっと火の玉が浮かび上がる。
「囮にくらいなってもらわなきゃね!」
腕を巻きつけ振り払うように、右手を薙ぐと火の玉がワタルに向けて発射された。身の丈以上のリュックを背負うワタルに後ろは見えないはずだが、なぜか回避に成功する。
「お前らだって、ソイツ相手にビビってんだろうが! はん! 何が勇者だおっぺけぺー!」
よせばいいのに、わざわざ後ろを振り返って中指を立てるジェスチャー。悪癖がよりにもよってこんな時に出てしまう。そして……
―――その行為によってワタルの運命は決まってしまった。
「よし、アイツの足を削ろう」
「賛成ですわ」
一乃丞の提案に即座に乗っかる響。一乃丞が地面に手を置く。ここ龍ヶ峰頂上は、木が一本も生えていない荒野であり、まさしく一乃丞のフィールド。付与された土の力により、土を操る能力をもたらされた一乃丞は、タイミングを見計らい、ワタルの行く一歩先に膝丈ぐらいのくぼみを作る。
「のわあっ!」
後ろを見ていたワタルは見事にくぼみに足を突っ込んだ。「ぐぎり」と嫌な感触を感じる間もなく、響が空気を操り刃と化し、ひねっていない脚の膝をバッサリ斬り裂いた。
「いってええええええ!!!」
大きな叫び声を上げるが、同級生からの攻撃はそれだけにとどまらない。
「……ごめんね、ワタル君。私たちは死ぬわけにはいかないの」
渦巻く水をワタルに叩き落とす璃音。巻き込まれたワタルは、洗濯機の衣類のように水の流れに翻弄される。
「もががががが……」
息ができない時間およそ2分。ぐりんぐりん回された、ワタルは地上に四つん這いになり、呼吸と三半規管の回復に努め……られなかった。
「あとはまかせたよ。無能君」
嫌な嗤いを顔に貼り付け、直撃だと囮にならないと思ったのか、わざと外して地面を爆発させた。
「うっぐぉぉぉ……」
爆発で吹き飛ばされた先は、緑龍の目と鼻の先。空中でフィジカルブーストの効果などあるわけもなく、身動きが取れない状態のワタルはもう相手の行動いかんによっては死ぬしかない。
「……もうだめか」
走馬灯……は出てこなかった。だいたい誰だ? そんなことを言いだしたのは。そんなときめきなメモリアルな歌詞が浮かんでしまったワタルを誰が責められよう。
目の前には緑龍の大きな掌。巨大な爪がギラリと輝き圧倒的な圧力を持ってワタルに迫る。爪が当たれば慙死。爪が当たらなくても掌で圧死。どちらにしても死である。
しかして、その答えは?
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外国人の名前はわりと思いつくけど、日本人の名前は考えるのが大変。
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