第4話 龍の楽園《エデン》の騎士
やりあっている間に、逃げられなくて良かったと思うワタルだが、おおよそエルフらしからぬ唸り声を上げる侍女エルフにため息をついた。
「一応確認しておきたいんだけど」
「……なんでしょうか?」
さっきの「がるる」はいったいなんだったのかと思えるほど冷静な侍女エルフ。スイッチの切り替えが早い。話が通じることを意外と思いながらも、ワタルはまず確認しておきたいことがあった。
「君ら『ルティナヘリアル』のエルフ?」
「ッ……」
どうにも悔しそうな顔をする姫と侍女。言葉にはしなかったが、関係者であることを確信したワタルは、聞きたいことを先に聞くことにした。
「アイラはどうしてる?」
「お姉さまをご存じなのですかっ!?」
「お姉さまって……」
「お姉さまを! アイラお姉さまを助けてくださいっ!」
どうも詳しく話が聞けそうだが、面倒事の予感しかないワタルであった。
「とりあえず自己紹介からいこうか。僕はワタル。ワタル=タカムラだ」
「私はルティナヘリアルの王族で、『ルーネ=ルティナリネ』と申します」
「……」
ちらりと侍女のほうを見るとブスッとした顔で、あさっての方向を向いている。
(ちょっと! アデルってば!)
(なんですか? 姫様)
後ろを向いてコソコソ話をしているつもりらしいが、そこそこ大きな声で話しているので、ワタルには丸聞こえである。侍女の名はアデルというようだ。
「……とりあえず、なんでこんなとこまで来たのか聞かせてもらってもいいかい?」
「ダメです」
「ちょっ、アデル!」
「姫様はどうしてこの男と普通に話しているのですか? コイツは人間ですよ? 私たちの国を滅ぼした」
かなりのパワーワードが出てきてしまった。国が滅ぶなんて言葉、日本でもこっちでも聞いたことがない。
「でも、この人エデンから降りてきたのよ。今から行こうと思ってたところから来たんだから話しても大丈夫よ」
「どうしてエデンから来たと思うのですか? ただ上から降ってきただけではありませんか」
「この先にはエデンの崖しかないじゃない」
「だからといって、エデンの関係者とは限らないじゃないですか」
熱くなるルーネと、さっきまで唸っていたとは思えないほどの冷静さを見せるアデル。ぎゃいぎゃいやっている2人に対し、どうしたものかと考え込んでいるワタルに、ルーネから提案を受けた。
「何か御印はありませんか?」
「みしるし?」
「はい。エデンの関係者だという御印です。それがあればすぐに解決です!」
拳を握り「むふー」と鼻息が荒くなる姫エルフ。それを侍女らしからぬ白けた目で見ている侍女エルフ。『国を滅ぼされた』などというから皆殺しにでもされているのかと思っていたが、ベルダの思惑がそこではないことに気付き、案外余裕があるのかもしれないと思い直すワタル。
「ええっと……確か長老が……」
持たされたカバンをごそごそとやるワタル。そう言えば何かを入れておくとか言ってたようなそうでもないようなと、取りとめのないことを考えながらカバンを漁ると……
「お、コイツはどうかな?」
「見せていただいても?」
「あぁ、どうぞ。なんだったら手に取ってくれてもいいよ」
ルーネの掌にポンと載せられたそれは、何やら精巧な細工が施されたバングル。エデンの長老”時空龍王 アンネトロメウス”から、肌身離さず付けておけと言われていた品であった。
一方で身の証明をできる物をあっさりと渡したワタルに対し、目を細めて見るアデル。
「……このようなものをどうして簡単に渡してくれるのでしょう?」
尤もな意見をワタルにぶつけてきたアデルは、訝しさを隠そうともしない。分かり切ったことをわざわざ聞いてくるということは、本当に分からないのかもしれないと若干生暖かい目になりながらも、ワタルはキチンと答えた。龍のヒゲで拘束されているセドリックたちを親指で指し、
「あの程度の連中に逃げることしかできない相手を怖がる理由がない。持っていかれてもなんとかできるからね」
ワタルは無自覚に火に油を注いだ。その言葉に二人は悔しそうにするのだった。しまったと思っても後の祭り。ワタルは以前からずっと言われていたのだ。
「本当のことでも言っちゃダメなことがある。言い方考えなさい」と。
こんなところで悪い癖が出てしまったワタルは、微妙な空気を払しょくするべく慌てて言葉を紡ぐ。
「それで? わかってもらえた?」
「……古文書にある文様と同じ。あなた人間ですよね?」
「一応は」
「? どういうことです?」
「ちょっとワケありでね。元は人間だったんだけど……今はちょっと怪しいかなぁ……」
「……まぁ、その話はおいおい機会があればということで。あなたが今代の”
真剣な目でワタルを見つめるルーネ。些細なウソも見逃さないとばかりに、すさまじい眼力でワタルを見る。
「……そういうことらしいよ。だいぶイレギュラーとは言われたけれど」
ワタルは、
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