02


 夜の森は蒸し暑い。

 虫や鳥の鳴き声があちこちから聞こえてくる。


 廃都スファーから東へ数時間走ったところにある広大な森。

 ここはコンラー家によって禁猟区に指定されている。

 コンラー家の定めた法により、「禁猟区内に生息する隷属種に対して操術を用いてはならない」という取り決めがあった。


 車両が充分に通れるような広い道が近くまで通っている、森の中の拠点。

 木々のない、ぽっかりと開けた場所。

 火が焚かれ、周囲を明るく照らしている。

 そこには密猟団のテントがいくつか並んでいた。


 捕らえられた人々は、テントの前に直立し、横一列に並んでいた。

 老若男女問わず皆痩せている。

 誰も彼もつぎはぎの布を組み合わせた粗末な衣服を着ていた。

 表情は暗く、すすり泣く声が聞こえる。

 首元には首輪の紋様が刻まれている。


 テントの前で、数人の操術士たちが顔を突き合わせて話し合っている。

 中心で指示を出しているのはレイリーと呼ばれているひげ面の大柄な男だ。


「これで全部か?」レイリーが、捕らえた隷属種たちを見渡しながら言った。


「はい」手下の一人が答える。「夜明けに出発します」


「首輪の付け忘れは無いな」

「これでしばらく遊んで暮らせるぜ」

「他の里も行かないか?」


「だめだ」レイリーが、仲間たちの会話に口をはさんだ。


「ボス・レイリー、禁猟区に侵入するのもタダじゃないんだ。コンラー家の目を盗むだけでも金がかかってる」

「欲をかくと危険だ。すぐに撤収する」


 部下の誰かから小さな舌打ちの音がしたが、レイリーは無視した。


 拠点の外から、部下の一人がやってきた。「首輪を付けられないやつがいます」


 レイリーはまなじりを上げた。「お前の容量がいっぱいなんだろ」


「誰が試してもダメでした。術士側の容量の問題じゃありません」

「そんな馬鹿なことがあるか。元々誰かの首輪がついてるんだろ」別の男が言う。


「確認した!」その部下は苛立っているようだった。「誰の首輪もありません! とにかく『糸』が弾かれるんです!」


 レイリーは無駄な議論をやめさせた。

 ため息をつく。


 一体の戦闘スレイブが抱きかかえてきたのは、小さな少女だった。

 ぼろきれを纏い、泥や埃でうす汚れているが、良く見ればその美しさは本物だった。

 周囲の空気までもが光っているように見える。


 昏睡の魔術によって意識を失っているようで、平らな胸元がわずかに上下していた。


 そこにいた操術士の誰もが息をのんだ。


「これは……」レイリーも言葉を失っている。

 精巧な人形のようでさえある。


「本当に人か?」レイリーが手をかざすと、手のひらから青白く光る帯が生まれた。

 それは彼らのような操術士たちにしか見えない、操術の力だった。


 帯は空中を泳ぐようにするすると伸びて、少女の頭に触れる。

 その直後弾かれるようにして霧散した。


「信じられない。『糸』が効かない。精神防壁が強固で、入り込めない」


「じゃあ支配種なのか?」

「支配種がスレイブも連れずにこんな森の中を一人で歩き回るかよ」


「『真名』は?」手下の一人が言った。「聞き出してない。昏睡の魔術が解けてからだ」


 別の一人が言う。「なあこれって、『天使』ってやつじゃないか?」


「あんなもん、ただのお伽話だろ」


「なんだそれは」レイリーが言う。


 鼻で笑いながら部下の一人は続けた。「だから、おとぎ話ですよ。操術が効かない。信じられないくらいの美人ばかり。肌は白くて……」


「特徴は一致してる」別の一人が口をはさんだ。


「最後まで聞けよ。天使は魔術じゃなく精霊術とかいうもんを使うらしい。で、とにかく強いんだ。こんな風に簡単に捕まるもんかよ」


「で、でもよう」

「どうでもいい。問題はいくらで売れるかだ」

「そもそも値がつくのか、これ」

「『畑生まれ』だって、こんなのいないぞ」

「ガディアムさんが何て言うか……」


 別の一人が喉を鳴らした。「……なあ、ちょっとぐらい楽しんでも、いいんじゃないか?」

「俺は構わねえ」

「俺も」

「ああ。こんなの見たことねえ」


 乗り気な手下たちは息を荒くしている。


「能無しのバカども。値が落ちるだろうが。自分のスレイブで盛ってろ」


 レイリーは脅すような低い声で言ったが、異常な状況に恐怖していた。


 この娘一人に、部下たちがまるで熱に浮かされたように目の色を変えてしまっている。

 娘に魅入られてしまっているのか、何か特殊な魔術によるものなのか、とにかくただ美しい少女というだけではないことは確実だった。


「こいつは今回の里のやつなのか?」

「他には見てません。こいつ一体だけです」


「ボス! ボス・レイリー!」手下の一人が走ってくる。「見張りがやられた! 敵だ!」


「戦闘用意!」レイリーが叫び、手下たちが一斉に動き出した。「商品を移動させろ! 急げ!」


 手下の操術士たちは、自分の戦闘スレイブに操術による命令を下していく。

 拠点があわただしくなってきた。


「クウォル。払った分の仕事はしてもらうぞ」

 レイリーは手下の一人、クウォルに言った。


 彼は、異常に体の大きいスレイブ――否、ドールを連れてきていた。

 身長は周囲のスレイブたちの三倍近くはある。

 腕や足は太く、鉄柱のように頑健に見える。


 手には身長と同じくらい巨大なメイスがあった。

 それは金属の鉄骨を組み合わせただけのもので、持ち手がついていてもただの廃材にしか見えない。


「はいよ、ボス」クウォルが不敵に笑ってそう答える。「ちゃんと倒したら追加報酬も頼むぜ」


 巨体のドールは、人形遣いであるクウォルの操作によってメイスを振り回す。

 見た目に反して、軽やかな動きだ。

 風がうなり、砂埃が舞う。

 直撃すれば魔術防壁越しに吹き飛ぶだろう。

 掠るだけでも大怪我は避けられない。


 レイリーはそれを見て頷いた。

 高い金を払って雇っただけはある。

 これならどんな敵が現れても蹴散らせるだろう。


「ボス! 反対からも敵だ!」

「くそっ、俺のスレイブもやられた!」

「こっちもだ! ぐるっと囲まれてる!」


「何人いるんだ!」レイリーは苛立ちを吐き出す。


「敵はスレイブじゃない! ドールだ!」


 報告が次々上がる。

 もうすでに包囲されているのかもしれない。


「もういい、俺が調べる」レイリーは目を閉じて操術による索敵を開始した。


 操術の残滓を嗅ぎ取り、敵の数を調べる。

 こういった索敵能力は高等技術で、誰でもできるわけではない。

 レイリーが密猟団を率いていられるのも、他の操術士よりもより抜きんでたこのような技術があるからだった。


 拠点内部にいる味方の反応を数えた後、拠点の外に、極細の「糸」が漂っているのを感じ取った。

 そしてその糸は一か所に集まっている。


「敵の人形遣いは一人だ」レイリーはため息とともに目を開いた。


「ありえませんよ!」手下の一人が噛みつくように言う。「俺たちの見張りは少なくとも五か所同時にやられてる。人形遣いがそれぞれ五人いてしかるべきだ」


「全部スレイブなんじゃないか?」

「あれはスレイブじゃない! 間違いなくドールだ! 敵は人形遣いだ! じゃなきゃ俺のスレイブが一撃でやられるもんか! いくらしたと思ってんだ!」

「じゃあそいつはドールを何体も同時に操ってるってのか! そんなことあり得るかよ!」


 手下たちが勝手な議論を行き交わせている。

 推測に推測を重ねた無意味なものばかりだ。


 レイリーは目を細めた。「クウォル、南の方向へドールを向かわせろ。そこに人形遣いがいる」


「術士も一緒に戦場にいるのか? そんなことあり得るのか」

「そうらしい。すくなくとも、糸の収束場所は近い」

「……了解、ボス」

 クウォルのドールがメイスを構え、大きく跳躍した。






 レギンは夜の森を走っている。

 明かりは僅かな月の光だけ。

 しかしその足取りはよどみない。


 彼はとても操術士には見えない立派な体躯をしていた。

 手足は丸太のように太く、胸板は分厚い。

 服から覗くその肌は、顔を問わず大小さまざまな傷が走っていた。

 彼の隣を並走しているのは一体のスレイブ――否、「ドール」だ。

 レギンは支配種であり、操術を扱う操術士であるが、その中でも「人形遣い」と呼ばれる職種だった。


 大半の操術士は、スレイブを命令によって操る。

「荷物を運べ」「畑を耕せ」「敵を殺せ」など、スレイブの心に命令を埋め込むことによって支配する。

 命令を埋め込まれたスレイブは、それを実行せずにはいられなくなる。

 命令を下すだけでよいので、ほとんどの操術士はこの方式を採用している。


 しかしレギンのような一部の操術士は、スレイブの体を直接操る方式を採用している。

 手足の動き、重心の移動、秘められた魔術の発動、それらすべてを、いわば「手動」で操作している。


 身体を直接操作される隷属種は、スレイブではなくドールと呼ばれ、その主である操術士は「人形遣い」と呼ばれている。


 レギンの隣を並走するドール――フライメイは、小柄な女性だった。

 視線はまっすぐ前へ向けられ、しなやかに引き締まった四肢を動かし、獣のように森の中を進んでいる。

 ぴったりとした真っ黒な服を着ていて、まるで足音をさせずに走っている。


 レギンは次の見張りを見つけた。

 敵のスレイブだ。

 小銃を装備し、周囲を警戒している。


 フライメイがレギンの操作で速度を増した。

 夜の森の影に溶け込むように見張りに接近する。


 ナイフがひらめき、見張りの胸元を二突きしたあと、喉を裂く。

 魔術を発動する暇も与えなかった。

 スレイブは苦しげに呻くだけだった。


 レギンは足を止めることなく、崩れる見張りのそばを通り過ぎた。

 僅かに遅れたフライメイが後に続く。

 彼女は返り血をわずかに浴びただけだ。


 進行方向に敵拠点の明かりが見えてくる。

 銃声と、爆音。

 それから雷鳴。

 敵の操術士たちはスレイブの魔術を用いて反撃している。


 レギンは急停止し、木々の背後に体を隠し体を伏せた。

 フライメイも近くの木の後ろに隠れる。


 敵の一体が木々をなぎ倒すようにして突出して接近している。

 ドールのようだ。


 レギンが飛び退くと、無骨で巨大なメイスが振り下ろされた。

 木ごと大地が砕ける。

 現れたのは、レギンの背丈の二倍はあるかと思われる大男。

 成長促進の魔術を受けて育った「畑生まれ」のスレイブに違いなかった。


 感情の抜け落ちた表情で、その大男はレギンを見ていた。

 首元には首輪がある。


 レギンは自分の位置を特定されていることを悟った。

 敵方の操術士には、高度な索敵を行える優秀な者がいるようだ。


 レギンは態勢を立て直し、腰の拳銃を抜いて発砲した。

 頭部を狙った二発の弾丸は青白く光る魔術の防壁に弾かれる。


 同時にフライメイが足元から接近する。

 足首を狙ったナイフの刃も、防壁によって防がれた。

 全身を不足なく防御しているようだ。


 レギンはこちらを見据える敵のドールを見た。

 これだけの怪力に、巨体に、万遍無い防壁。

 相当に高価な隷属種のようだった。


 メイスが唸りをあげて迫ってくる。

 レギンは自身で気づかないまま、ぺろりと舌を出し唇を湿らせていた。






「敵を見つけた。交戦している」クウォルが言った。


 彼は今、自身のドールの五感から得た情報を受け取っている。

 ドールの目を通して、敵の操術士を見ているのだ。


「男の人形遣いが一人に、女のドールがそばにいる。だがボス・レイリー。妙だ。敵は逃げる様子がない」


 レイリーはクウォルの額を流れる冷や汗を見て、自分の嫌な予感が的中したことを知った。「首輪は?」

「何?」

「敵のドールの首輪を見ろと言っている」


 高圧的なレイリーの様子に、クウォルは尻込みしているようだった。「今確認する」


 操術による支配を受けると、隷属種の首には紋様が刻まれる。

 それはまるで指紋のように操術士ごとに異なっており、スレイブにつけられた首輪を見れば誰がマスターであるかを特定できるのだ。


「……あれは鱗か? 帯が鱗のようになって……、蛇、のように見える。色は、暗くて分からないが、多分、濃い青だ」


 レイリーが苦虫を噛み潰したような顔をした。

 その様子に周囲の操術士がざわめく。


 レイリーが答えようとするより早く、クウォルが中空を見たまま悲鳴に近い声を上げた。

「この人形遣い、メっ、メイスを躱しやがる! ドールの強化魔術を自分にかけてやがるんだ! なんだってんだ。どうして人形遣いが最前線に出るんだ。あっ、頭おかしいんじゃねえか?」


「包囲が狭まってる!」他の手下の人形遣いが叫んでいる。「どういうことだよ! 敵の人形遣いは一人なんじゃないのか!」


 どうやら敵の人形遣いは、複数のドールを戦闘に耐えうるレベルで操作しているようだ。

 それだけでも信じられないが、自分自身も戦場へ出て動き回り、戦いに参加しているらしい。

 加えて、青い蛇の形をした首輪。

 もはや疑いようはない。


「ドールをオーバーロードさせろ」レイリーは沈痛な表情で言った。

「買い換えて、くれる、ってんなら」クウォルは息を切らせている。操作が追い付いていないのだろう。「いつでもやってやる!」


「弁償でもなんでもする」レイリーは頭を抱えた。「そこでそいつを殺せなかったら、俺たちは終わりだ」






 レギンはフライメイを操り撹乱し、時間を稼いでいる。


 確かに防壁は固く、こちらの攻撃はほとんど通らないうえ、メイスの一撃は致命傷だ。

 だがそれだけでは、レギンの体にも、ドールであるフライメイの体にも傷はつけられない。


 レギンは各所の戦況を把握していた。

 ある場所では、敵のスレイブが、巨大な鉄の塊を振り回して迫ってくる。

 別の場所では、敵が魔術の光を撒き散らして衝撃波を放ってくる。

 さらに別の場所では、玉砕覚悟の敵スレイブが爆発物を手に突進してくる。


 レギンは今、同時に複数の風景を見て、戦場の音を聞いて、それぞれの戦闘状況を個別に判断し、十数体のドールの体を操っている。


 メイスを握り、振るう。

 巧みな足捌きで敵側面にもぐりこむ。

 魔術を纏って防御する。

 回避する敵を追う。

 別の戦場へ移動する。

 観測の魔術に長けたドールで敵の情報を得る。

 全体の戦況に応じて、戦力の再分配を行う。


 レギンの目は、鼻は、耳は、体は、軍勢そのものとなり、森の中を駆け抜けている。


 レギンのドールたちは、決して強くない。

 性能ははるかに劣っている。

 だが一対一で戦わず、二対一、三対一と、必ず数で有利になるように立ち回り、高度に連携することで、それを補っていた。


 密猟団の拠点を完全に包囲するまで、もう数分もかからないというところで、巨体のドールがわずかに動きを止めた。


 魔力の増大を察知。

 レギンとフライメイがいったん距離をとると、巨体の動きが一変する。


 一瞬で距離を詰められ、メイスが頬をかすめる。

 敵ドールはメイスを両手で持っていたが、今は片手持ちになっている。


 続けざまに鉄塊が乱打されて、これもぎりぎりで躱していく。

 軌道上にあった木々が、まるで蜘蛛の巣でも払うかのように消え去った。

 膂力と俊敏性が爆発的に跳ね上がっている。


 レギンはこめかみに熱を感じた。

 避けたつもりが、かすめていた。

 一筋の血が垂れる。


「へぇ」レギンは思わずつぶやいていた。「やるじゃないか」


 敵のドールの鼻や口、目から、赤黒い血が流れ出ていた。

 身体強化の魔術を暴走させられているのだ。

 長くはもたないだろう。


 レギンの背後から別のドールが二体接近する。

 首元に大きな傷のある大男と、大柄な中年の女だ。

 これらはレギンの背後に控えておいた予備兵力だった。

 それぞれの手には身の丈ほどのメイスがあるが、敵の持つものに比べたらずいぶんと小振りに見えてしまう。


 近接戦闘に長けたドールをぶつけ、レギンはさらに距離を取る。

 新たに投入された二体のドールは、敵の攻撃を受け流すようにメイスを振るう。


 正面から振り下ろされる鋼鉄の塊に対し、二体が同じタイミングで側面からメイスをぶつけ、軌道を逸らす。

 一体が足を狙い、気を逸らしたところでもう一体が頭を叩く。

 金属のぶつかる鈍い音。

 地鳴りと、大気の揺れ。

 激しい火花が夜の森を照らしていた。


 待機させていたフライメイも戦闘に加える。

 こちらの攻撃はほとんど通じないが、目くらましは効く。

 レギンの三体のドールたちは、まるで一つの生き物のように動き、敵ドールを翻弄していった。


「これだけか?」

 目を爛々とさせていたレギンも、次第に暴走ドールから興味を失っていった。

 オーバーロードできるスレイブは希少で値が張る。

 いくつもの戦場を渡り歩いたレギンでも、出会えた数は少なく、戦えることは貴重な経験となるはずだった。


 だが一合、二合と打ち合って、学ぶべきものは何もないことに気づく。

 マスターが使いこなせていないことは明らかだ。


 敵ドールの動きがどんどんと雑になり、それに合わせて威力が上がっていく。

 筋繊維の千切れる音が、レギン自身の耳にまで聞こえてくる。


 氷のようだった敵ドールの顔に、感情が表れだした。

 それは人形遣いの支配が緩くなっている証拠でもあった。


 泣くような、怒るような、苦しむような顔。

 レギンはその様子をドールたちの目を通して見ていた。






 レギンの別動隊のドールたちが、密猟団の拠点に到着した。

 敵の操術士たちはこちらの動きに慌てふためき、スレイブに不適当な命令を下すばかりで、有効な対策は何もできていない。

 脅威となるような戦力は確認できなかった。


 ドールの目を通して、レギンは敵拠点の中に一人の人形遣いを見つけた。

 棒立ちで、中空を見つめている。

 自身のドールの操作に精一杯で、自分自身のことがおろそかになっているようだった。


 レギンは数体のドールを操り、その人形遣いに接近した。

 周囲には護衛のスレイブがいたが、障害にはなりえなかった。


 敵の人形遣いが、接近するレギンのドールに気付いたころには、脳天に銃弾を叩き込まれた後だった。






 糸が切れるように、唐突にその巨体は動きを止めた。

 手元からすっぽ抜けた巨大なメイスが宙を舞い、遠方で木々をなぎ倒して墜落する音がした。


 敵のドールが膝をつく。

 首元の首輪が、音もなく消えていくのが見えた。

 このドールを支配していた人形遣いが死んだため、操術による支配が消えたのだ。


「お前は自由になった」レギンは静かに言った。「言い残したいことがあれば聞こう」


 レギンの顔つきはまるで、死刑執行を受け入れる罪人そのものだった。


 そのドールは――今や自由となったその男は、レギンの顔を見上げ、何も言わず血を吐いて倒れた。


 レギンは血の海に沈むその男を見届け、ドールたちを連れてその場を後にした。



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