萌え尽きる男

 諸事情でしばらく海外(おもにアジア)でほとぼりが冷めるのを待ち、近所には「死んだ」「単身赴任でヨーロッパへ」と伝えられていた本当のパパさんがついに帰ってきました! 大喜びのヒロシ。喜んでいるようで目が笑っていないママさん。

パパさんはお土産を買ってきてくれたので、マルぼんも大喜びです。




パパさん「はい。ママには珊瑚製の装飾品セット」



ママさん「まぁ、嬉しい。あなた愛しているわ(棒読み)」




パパさん「マルぼんには色々なことに使用できる、色々な草花だ」



マルぼん「最近の税関、甘いの?」




パパさん「さて、ヒロシ。ヒロシには前から欲しがっていたものをあげるぞ」



ヒロシ「え!? 本当!? な、なんだろ!?」



パパさん「さぁ、当ててごらん」



ヒロシ「えっと、大容量の外付けハードディスク?」



パパさん「ブブー!」



ヒロシ「じゃあ、DVDレコーダー!?」



パパさん「ブブー!」



ヒロシ「わからないよう。教えてよ、お父さん」



パパさん「ふふふ。わからない? 昔、アレだけ欲しがっていたのに。正解は…」



 そう言うと、パパさんは荷物をしまっていたタンスの扉を開けました。勢いよくタンスからとび出してくる、ヒロシへのお土産。



パパさん「正解は『義理の妹(半分だけ血が繋がっている)』でしたー!」



義理の妹「ハジメマシテ、シャチョサンノムスコサン。オカネハドコニアルノ?」 



 パパさんのお土産であるヒロシの義妹さんには「アイリーン」という素敵極まりない名前があったのですが、その名前を日本で使用したら色々と不都合があるそうで、新しい名前を考える事に。



ヒロシ「樹梨。なんといっても樹梨!」



マルぼん「マルぼんは日本的な名前がいいな。花子とか」



ママさん「ああ? こんな望まれぬ子の名前なんて、カネカネキン子で十分にきまってるだろ!」



 我が家の山の神の怒気を含んだ一声で、ヒロシの義妹さんは「カネカネキン子」に決定。なにはともあれ、我が家に新しい家族が増えたのでした。



ヒロシ「よし。部屋が空くまで僕の部屋で寝起きするようにしよう」



マルぼん「わぁ! なんだかインモラルー!」



ママさん「ああ? こんなメスブタの血を引く女なんて、ウチに住まわせる余裕はねえよ!」



 我が家の山の神の殺気を含んだ一声で、ヒロシの義妹さんは近所のアパートに住む事に決定。マルぼんとヒロシは、さっそくカネカネキン子の住む事になったアパートを訪ねてみました。今流行のルームシェアで、このアパートにはルームメイトがいるとか。



キン子のルームメイトA「ダレ? ビザハイマナイヨ?」



キン子のルームメイトB「子供ノ客? コレ以上、法律ニ触レル行為ハ無理ヨ」



キン子のルームメイトC「私日本人。外国人チガウ」



キン子のルームメイトD「コノ鉢植ハ、ヒマワリ。タンナルヒマワリヨ。本当ヨ」



 こんな調子で、部屋にひしめき合っていた約25人ほどのルームメイト(いずれも外国人女性)の皆さんに挨拶を終えたときには、すっかり外は暗くなっていました。



 マルぼんとヒロシ、「国籍を聞かれたら日本と言い張れ!」「それでもダメなら『人殺しても無罪な種類の人』のマネで乗り切れ」「ビザは金をきちんと返し終わったら返すよ」くらいしか日本の文化を知らないカネカネキン子に町を案内してあげることにしました。



 寺や同人誌販売店など、日本ならではのスポットを案内し終わって帰ってくると、町の人々が土下座しているのに遭遇。

そういえば、今日は金歯のパパさんが参勤交代の任期を終えて江戸から帰ってくる日。町の人々が土下座しているのはその大名行列が通る道。我らが微笑町は、住む人の9割が金歯のパパさんの息がかかった会社に勤めているので、土下座は必然なのです。



「下にぃ~下にぃ~」>

全長100メートルを超す行列はさすがに圧巻で、マルぼんたちはそれをヘラヘラと笑いながら見ていました。ちなみに、パパさんもママさんも無職なので別に土下座とかしなくていいのです。



カネカネキン子「パレード! パレードネェー!」



 金歯パパさんの大名行列をカーニバルと勘違いして突撃するカネカネキン子。やばい! 金歯パパさんの大名行列は神聖な扱いをされていて、無断で近づくものや関係者なのに土下座しないものは、殺されたり、金歯一族の秘密鉱山での強制労働させられても文句が言えないのです。



 早くも妹は消えてしまうのか、と目を覆ってしまうマルぼん。ところがカネカネキン子、殺されるどころか、手に大量の札束を持って帰ってきたではありませんか。



カネカネキン子「ナンカ、後デ家族ト訪ネテ来イッテ言ッテタヨ!」



 い、一族郎党皆殺し!?






 カネカネキン子の暴挙により、家族全員で金歯一家に呼び出されたマルぼんたち。どこかで話を聞いたのでしょうか。

ママさんとパパさんは共に自分の欄だけ記入済みの離婚届と「ヒロシ、強く生きろ」と書かれたメモを置いたまま失踪していたので、金歯宅へ行ったのはマルぼんとヒロシとカネカネキン子の3人のみ。



 震えながら金歯宅に辿りついたマルぼんたちは、金歯宅の私設コロシアム(奴隷同士を戦わせて観賞する)に案内されました。会場の客席は全て埋め尽くされていたので、「上流階級の人々の見守る中、ここで殺し合いしろ」とか言われるに違いないとマルぼんは思ったのですが、よく見ると客席にいるのは上流階級どころか、みずぼらしい姿の子供。それも皆、なにかパネルのようなものを持っています。




「山!」



 軍服を着た男がそう叫ぶと、子供たちが一斉にパネルを動かし始めました。するとどうでしょう。子供たちの持つパネルの一枚一枚が絵のパーツとなり、コロシウム全体に綺麗な山の絵が出来上がったではありませんか。



「これは、金歯一族少年少女奉仕団名物のマスゲームです。描かれている山は、金歯一族の偉大なる始祖が誕生された白頭山です」




 その後も子供たちはマスゲームで「愚民たちを優しく導く金歯パパの肖像画」「名画『最後の晩餐』に金歯のパパさんが混ざっているバージョン」「チュチェ思想塔」などを見せてくれ、マルぼんたちはかなり楽しい時間を過ごしたのでした。しかし、最後に登場したのは絵ではありませんでした。文字です。メッセージです。




カネカネキン子さん、愛しています。  金歯




金歯「というワケなんだ」



いつのまにかマルぼんたちの近くにいた金歯が顔を赤らめて登場しました。



金歯「パパの行列に参加した時、偶然見て…一目ぼれだったんだよ.よければ、僕とお付き合いしてください」


 すべては、不器用な金持ちのドラ息子の、精一杯の愛の告白だったのです。その微笑ましい自体に、マルぼん、思わず笑みがこぼれます。



カネカネキン子「私、コンナ豚ヨリモ醜イ人間、触リタクモナイデス」


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 金歯の求婚を体全部を駆使して拒否するカネカネキン子でしたが、金歯が札束詰まったアタッシュケースを持ってきたところで、失踪していたパパさんママさんがそろって登場し、「それほど金歯の坊ちゃんが言うならゲヘへ」「かわいい娘なんですけど、涙を飲んでゲヘへ」「金に目がくらんだワケではないですゲヘへ」とタオルを投げ入れ、TKO負け。



 カネカネキン子は金歯の直属の親衛隊『喜ばせ隊』に就職という名目で、金歯宅で暮らすことになったのでした。



『金>家族の絆』が証明された結果となったわけですが、皮肉にもこの事件で離婚話は立ち消えとなり、大沼家の皆さんは再び一緒に暮らすことになったのでした。



ママさん「一度はバラバラになった家族が再びひとつになるのね。素敵」



パパさん「フ。運命の女神のヤツ、粋なことをするぜ」



ヒロシ「わー! 今夜は家族でヤキニクだね!」



 はやくもカネカネキン子のことを忘れ、ヤキニクに思いを馳せている大沼家。「大沼家最低!」と思ったマルぼんは、たとえ1人になっても彼女を忘れないと心に誓ったのでした。



ママさん「どうしたの、マルちゃん。一緒に行きましょう」



ヒロシ「そうだよ、僕らは家族だろ」



 21世紀に来て1年。マルぼんは「家を尋ねられても絶対にウチ住所を言うな」と戒められたり、まちがえて保健所に連行されても1ヶ月放置されたり、「たまに一番風呂に入れてもらったと思ったら、次の人は風呂のお湯を全て捨てた上、2時間くらい掃除してから入る」「近所のペットが行方不明になったら真っ先に『てめえ、腹減ってからって、人様のペットに手をだすなんて!』と疑われる」など屈辱的な目にあったりてきたのですが、ついにマルぼんは大沼家の一員として認められたのです。



 やったね。ついにやったね。大沼家最高! というわけでマルぼん、大沼家の一員として、これからも金と権力に屈しまくります。 





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