ナウマン象のカレー天国

 マルぼんとヒロシが家でだらけていると、ナウマン象が2つの鍋を抱えて訪ねて来ました。鍋の中身はいずれもカレー。

ナウマン象はこのカレーを食べろとマルぼんたちに強要してきました。



 仕方ないのでマルぼんたちはこれを承諾し、まずはナウマン象が作ったという方を食べました。結果から言いますと、オニのようなマズさ。とてもじゃないけど最後まで食べることができなかったので、マルぼんは隙をみてトイレで捨ててしまいました。後から知ったことですが、捨てられたカレーは下水を通じて川に流れてフナやらザリガニが大量死。その異臭によって450名が病院に運ばれて入院という惨事になったとかならないとか。



 続いてもうひとつのカレー。これがオニのような美味。マルぼんとヒロシは一匹のケダモノと化して、獣欲のおもむくままにカレーにむさぼりつきました。




 狂ったように食い終わったあと、マルぼんはヒロシのお腹が大きくなっていることに気づきました。



ヒロシ「あら? いま蹴った。蹴られたわ!」



 なんと、あまりにカレーが美味かったショックで、ヒロシのお腹に性別の壁を超えて新たな命が宿ったのです。



ヒロシ「いやっ。小学生で一児の親なんて! シングルマザーなんていやよっ!」



 自分のお腹を鈍器で叩こうとするヒロシ。しかし、その手がお腹に振り下げられることはありませんでした。ヒロシは自分のお腹を抱えて泣きました。



ヒロシ「なんで? なんでこんなに愛しいの…? 生れてもいない貴方が、なんでこんなに愛しいの!?」



 このカレーは、情を知らぬ男に愛を教えてくれたのです。本当に美味いものに対し、体は正直です。

最高のカレー万歳! ラブよフォーエバー!



ナウマン象「で、どっちのカレーが美味かった?」



 ナウマン象が出刃包丁を向けて聞いてきたので、マルぼんとヒロシは「とうぜんナウマン象のだよっ!」と満面の笑みで答えました。正直な体より、嘘をつける脳のほうが強いとマルぼんは気づきました。



ナウマン象「実は、このカレーを作ったヤツと料理勝負をすることになったんだよ」



 ナウマン象の発言に、マルぼん思わず茫然自失。どういういきさつで、思わず人権を剥奪したくなるようなマズいカレーを作るナウマン象と、カルト宗教が作れそうなくらい美味いカレーを作る人が対決することになったのかはわかりませんが、

とりあえず負けた方は「闇ルートで腎臓を売りその金で買った人に缶ジュースを1本おごる(余った金は廃棄)」という

罰ゲームが待っているとか。 



ナウマン象「俺も料理の天才児と呼ばれた男だが、正直、このカレーに勝てる気がしねえ。頼む。なにか機密道具を出してくれ」


ヒロシ「マルぼん。ナウマン象だって、ちっぽけだけど生きているわ。力を貸してあげて」



 先日のカレーの影響で愛に目覚めたヒロシの頼みもあり、マルぼんはナウマン象に力を貸してあげることにしたのです。



 マルぼんひとしきり考えて、ある作戦を思いつきました。「グルメグルメ」と世間では言いますが、この世で一番おいしいのは「腹減っている時に食うもの」。つまりは空腹こそ最高の調味料。例の料理勝負の審査員を極限の空腹状態に追い込めば、くそマズいナウマン象の料理もおいしく食してくれるはず。



 思いついたが吉日。マルぼんはさっそく審査員の皆様の個人情報を調べ、光の速さで拉致したり言葉巧みに誘い出したりして、命あるものはゴキブリすらも寄り付かない某所にある隠れ家に監禁しました(当然のように飲まず食わず)



 勝負は明日。時間がほとんどないのでマルぼんは隠れ家に、設置した場所の時間の経過がオニのように速くなる機密道具を設置しました。この機密道具を設置した隠れ家に審査員の皆様を数日間も放置すれば、ナウマン象のカレーが美味しく感じられる極限状態の空腹(数ヶ月間飲まず喰わず)になっているハズ。



 数時間後、マルぼんは隠れ家に行ってみました。審査員の皆様は全員、息をひきとっていました。






 数日後。ナウマン象の料理勝負の日。不幸な、本当に不幸な偶然(マルぼんには罪は多分絶対なし)により審査員は全員他界。



 マルぼんは持ちうる機密道具全てを駆使してなんとか審査員の皆様にかりそめの命を与える事に成功。皆さん、生前の飽食が祟って餓鬼道にでも堕ちたのか「ア~」とか「ヴ~」とか言って、うつろな目をして石ころとか食べていましたが、マルぼんは取るものもとりあえず全員を勝負会場まで連れて行きました。ぶっちゃけ、勝負の行方とかどうでもいいです。



 というわけで始まったナウマン象の料理勝負。最初に完成したのは、例の極上カレーを作った料理でした。

「ア~」とか「ヴ~」とか言って、うつろな目をして料理にむさぼりつく審査員の皆さん。料理だけではたりないのか、皿や調理に使用した道具までボリボリと食べてしまいました。



「見ろよ、審査員たち、まるで狂ったようだ。そんなに美味いのか!?」「あまりの美味さに皿まで食った!?」どよめく会場。ナウマン象、旗色悪し。



  遅れて完成するナウマン象の料理。相変わらずのマズさなのですが、「ア~」とか「ヴ~」とか言って、うつろな目をして料理にむさぼりつく審査員の皆さん。先ほどと同じように、またもや皿や調理に使用した道具にも手を出しました。



「引き分けか!?」誰もがそう思った瞬間、審査員の皆さんがナウマン象に群がり始めました。ナウマン象の手には、味見した時についた料理のカスがひっついていたのです。料理カス目当てにナウマン象に群がった審査員の皆さんは、やがてカスだけではあき足らず、ナウマン象の熟れに熟れたボディを貪り始め、ナウマン象の悲鳴が会場に響き渡りました。




「己の体すら料理の一部とするなんて」「ブ、ブラボー! ブラボォ!」対戦相手をはじめ、会場に来ていた全ての人々が立ち上がり、現在進行形で食されているナウマン象に惜しみのない拍手を送りました。スタンディングオベーションです! 歓声と拍手は、ナウマン象の断末魔の叫びが絶えた後も続きました。いつまでもいつまでも、続きました。



 ナウマン象は勝ったのです。


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